びんばっちゃまと妖精ちゃん19

びんばっちゃまとまーおちゃんは黒い山の町に着きました
「ばっちゃま ここ 黒い山の町だよ 帽子おじさんが言っていたのはここかな?」

ばっちゃまは静かに涙を流しました

黒い山の町の南の方に二里小学校があります
マニュちゃんは6年3組 弟のハジメちゃんは1年1組
コマチちゃんの子どもたちは大きくなりました
カミ君もすっかり大人になって隣り町で働いています

二里小学校には分校があります
分校は黒山団地の中にあって1年生から3年生の子ども達が通います
4年生からは二里小学校にある本校に通うのです

ハジメちゃんはとても賢い子どもで同級生から一目置かれていました
マニュちゃんは、いたって普通の子でした
ハジメちゃんとマニュちゃんは出来は違っても仲良く毎日を楽しく暮らしていました

雨です

雨が降ったら親が迎えに来る子どももいましたが大半が濡れて帰りました
マニュちゃんの下町軍団には迎えに来る親などいません
雨が降ると積極的に濡れます
ついでに水の溢れた側溝にもはいります
帰り着いた時は全身ずぶ濡れでワッハッハと笑い合います

マニュちゃんはふと考えました
(なんし 働いとるお母さんが迎えにこらるっと?)
世の中には働かないで家庭にいる専業主婦をマニュちゃんは知りませんでした
マニュちゃんはハジメちゃんに聞いてみました
「傘ば持って迎えに来らすお母さんは仕事ばしとらっさんと?」
ハジメちゃんは宿題の片手間に答えました
「働いとらんお母さんはいっぱいおらすよ 出来杉くんのお母さんとか 他にもおらすたい 姉ちゃん知らんかったと?」
マニュちゃんは驚きました
(うちげんお母さんは偉かたい 朝から晩まで仕事してご飯ば作って掃除洗濯までしよらす)
マニュちゃんは昨日の事を後悔しました
同級生が「おう マニュ おまえげんお母さんばスーパーで見たぞ」
「えー?そん人はどげんか格好しとらしたね?」
「ズボンのごったっとばはいとらした」
「うんにゃ 違うばいウチげんお母さんじゃなかたい」

マニュちゃんは走って帰りました
(お母さんがよそのお母さんのごとスカートばはいとらんけん あげんかモンペばはいとるけん 恥ずかしかったい)

マニュちゃんは心がぎゅーっとなりました
(お母さん ごめんなさい ごめんなさい)

びんばっちゃまはマニュちゃんを抱きしめました

飛行機から降りてきた大きなおじいさんは一人息子のお父さんでした
おじいさんは一人息子に葉っぱ島に戻るようにと説得に来たのです

一人息子はマニュちゃんのお父さん

お父さんは小さく笑い、下を向いたまま電車の駅に向いました
おじいさんはマニュちゃんに話しかけました
「あんたがマニュね」
マニュちゃんは「ハイ」と答えるのが精一杯でした

5町目に着くまでお父さんはほとんど喋りませんでした
マニュちゃんはおじいさんに、この町のこと、学校のこと、友達のことをたくさんたくさん話ました
話していると身体がポカポカして手袋を外したくなりました
手袋の中指を歯で噛んで手袋を引っ張っていると、おじいさんが言いました
「こらこら 歯で引っ張っらないで手でやりなさい」
マニュちゃんはちょっと緊張しました
お父さんをそっと見上げると前を向いまま黙っていました

家中の空気が違っていました
お母さんの手は小さく震えています
お父さんは新しい座布団をおじいさんにすすめています
おじいさんはしばらく部屋を見渡すと静かに話始めました

おじいさんが帰ってから暫くするとお父さん宛に沢山の書類が届くようになりました
お父さんは葉っぱ島に帰る事に決めました
お母さんとマニュちゃんとハジメちゃんも連れてお引越しです

また、お母さんは笑わなくなりました

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