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びんばっちゃまと妖精さん黒山町編2-3

大きな火山から灰が降ってくるとお店の前は灰だらけになります。
お買い得品を詰め込んだ店先のワゴンは灰をかぶり台無しです。

電気屋のおじさんはため息をついて、黄色の<克灰袋>に掃き集めた灰を入れながら
(シンデレラは本当は灰かぶり姫だったんだよなあ)と考えていました。
おじさんの電気屋は駅前通り商店街の真ん中あたり、商店街で一番古い乾物屋と並んでいます。
おじさんのお店は、あまり商品は並んでいません。
おじさんはクーラーの設置やらお得意さんの電器修理の仕事ばかりしています。
たまに電池を買いにお客さんが来ても「うちは定価よ ほかん店で買いなさいよ」
「ドンキとか?」 「だからよ」
おじさんは商売っけがありません。
おじさんは優しいのです。

おじさんは工業高校を卒業して、くるくる市に本社のあるPANA  PANA電機の開発部で働いていました。
35歳の時、念願の<時空移動機器>の開発チームに入りました。
開発チーム同期の山下さんは一緒にお酒を飲みに行く友達。
今でも時々お酒を飲みに行きます。

山下さんの奥さんはとっても明るく、料理上手で特に奥さんの地元 大葉っぱ島の<鶏飯>は絶品でした。
山下さんの奥さんは元気な人です。そして決めたことは必ずやり抜く根性もありました。
ある台風の日、おじさんは雨風の中ウオーキングに励む山下夫人を見かけ「奥さーん 雨も風も強かよ 気をつけてくださいね」
「今日の目標にあと2,000歩足らんとよ 」夫人は颯爽とカッパ姿で歩いて行きました。
(こんな台風の日にウオーキング? 変わっとるねー)

久しぶりにおじさんは山下さんの家に招待されました。
相変わらず夫人の料理は美味しくておじさんは幸せな気持ちになりました。
「奥さんは料理が上手ですね」
褒められて気分がよくなった夫人は、「森山さん、ゆっくりして行ってね」と、日課のウオーキングに行ってしまいました。

夫人が出て行くと、山下さんが声を落として言いました「森山さん 大切な話があるんだけど」
「なんね?」
おじさんは座り直しました。

「森山さんは、パナパナにおった時、一緒に開発してた<時空移動機器>は覚えとる?」
「ええ勿論覚えてますよ タイムマシーンね」
「まだ試運転の段階ではあるんだけどね サンプルを収集してるらしい」
「サンプル? 実際に運転した?」
「うん それで俺たちOBに協力要請が来た。昔、森山さんがあの頃の妹さんたちに会いたいと言いよったでしょ それを思い出して 俺が勝手に申し込んだよ。 どうね?」

おじさんは、黙っていました。
(あん時、サチコ達にさよならも言わんで家ば出た。親父やおばさんに優しくされとったのに意地を張って家ば出た。家族の一員にしてくれたのにオヤジの気持ちを素直に受け入れられんかった。 オヤジに会いたい。)

「森山さん いよいよ明日だね きっと上手くいく」

設定 1970年8月15日19:00
場所 黒山町黒山社宅広場



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