初めての小説
花女
「ねえ、教えてよ。君はいったい何者なの?」僕は彼女に向って言う。
「教えない。知りたいなら、自力で私についての真実にたどり着きなよ。ヒントを与えているじゃん?全く君は欲張りさんだなぁ。」
と言って、あきれる彼女。
これは、ある日のどこかの話、ミステリアスな彼女についての真実を探す物語。
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「はいー、お前の負け。ってことで、◇◇、罰ゲームな。」
「おいおい、マジでやんのかよ。」
友人とゲームをして負けた僕は罰ゲームで○○さんというクラスでも1番根暗なぼさぼさの長い髪を紙紐で2本にまとめている胸が大きい女の子とデートをする。というもの。まぁ、断られたらやらなくて恥をかくだけで済むんだけど。とりあえず僕は○○さんに話しかける。
「ねえ、○○さん。実は君のこと少し前から気になってたんだ。よかったら今週末に△△に行かない?」
クラスがシーンとなる。とても気まずい。どこかでクラスメートの女子達がこそこそと話し始める。「あの子のどこが好きなの?」「やっぱ、男は胸が大きな子が好きなんだ。」「ヤリモクなんじゃないの、アイツ?」など、
早く断れよ。そしたらもう二度と関わらないから。
「私でよければ、是非。」
と今にも消え入りそうな弱弱しい声で返答する。
マジかよ。なんでこんな奴と?最悪だわ、せっかくの休みを返せよ。黄色い声援が飛び交い、クラスメートが盛り上がる中、ニヤニヤしながら友人らが近づいてくる。
「よかったなぁ。◇◇。」
あいつらめ、この状況を楽しんでやがる。引くに引けなくなった僕。まぁいいや。罰ゲームだし、本気で情を抱いているわけではない。
「詳しいことが決まったらまた連絡したいから連絡先を聞いてもいい?」
僕と○○さんは連絡を交換した。彼女の目元が見えないからどんな表情をしているのか分からない。はぁ、めんどくせーな。罰ゲームってやつはさ。なんか一種のいじめみたいだ。
あれから週末になるまでに〇ine上で色々な話をした。最初は彼女という人間がどういった人なのか分からないからやれ何が好きだの、趣味がなんだの。興味なんかないよ、君のことなんてさ。だけど不思議と彼女と文通をするのは楽しかった。自宅のリビングでやり取りをしている時に、にやけていたらしく妹に「兄さん、何ニヤニヤしてんの?マジできもいんだけど」と言われたこともあった。文通で会話しているとどうやら彼女は花が好きらしい。好きでもない彼女に渡すのもなんだけど、どんな反応をするのか気になったから当日に何か花をプレゼントしてあげよう。だけど、「何の花が好きなの?」と聞くのはキザっぽく見えてしまうだろうか。あれ?なんでこんなに彼女のことを考えているんだ?
これがどういった感情か僕はまだ知らない。
当日。僕は集合場所に行く前に花屋に寄った。だけどどの花を送れば彼女が喜んでくれるか分からないから適当に手前にあった黄色の花を買った。この花はゼラニウムという花らしい。
集合場所でスマホをいじっていると、
「◇◇君。お待たせ。待った?」
やっと来たか。彼女ができた時のためにコイツで練習するか。そう思って見上げる私服姿もどうせ根暗な感じなんだろうなと思っていた。思ってたんだ。
「いや、待ってな...え?どちら様ですか?」思わず、目を見開いた。だって、そこに居たのはショートカットの明るい華奢な女の子で動物のたとえると子リスを彷彿とさせるような容姿。
「え?○○だけど、」
「えっとぉ。髪切った?」
「うん、そうなの。今日を楽しみにしてたからさ。その反応だと...悩殺しちゃったかな?」
そう言ってからかいの笑みを浮かべる彼女。こんなに明るい子だったのか?見た目からして好みの女性なんだけどさ、なんな最低なことを思っていると一つ疑問が頭をよぎる。
「学校の時と全然雰囲気からして違うじゃん。どうして、学校では暗いの?」
「教えない。」「え、いや、なんでだよ」「そんなことより行こうよ。デートにさ。」
そう言って僕の手を引っ張って、進んでいく彼女。まぁ、誰しも聞かれたくないこともあるか。
そこからの時間はあっという間だった。彼女の見たこともない美しく可愛く、どこか凛々しい笑顔を見るたびに、罪悪感に押しつぶされ、息が苦しい。
一通り△△を回って、一息つこうと
お洒落なカフェで休憩している時に、買った花のことを思い出した。適当に買ったその花を。
流石に渡せないや。からかうためだけに買ったコレは。
その時に僕がずっとカバンの中に目線が言ってることに気づいた彼女。
「どうしたの?お金足りなくなった?」そう心配そうに尋ねてくる彼女。
「いや、ちょっと考え事をしてただけなんだ。」
「カバンの中を見ながら?」
僕は思わずギクッとする。顔に出ていたのか。彼女はからかいの笑みを浮かべて言った。
「まぁ、そういうお年頃ってこと分かってるから私に構わないでどうぞ楽しんで。」
「いや、ちがっ。そういうのじゃないから」
「じゃあ何なの?」
ニヤニヤしてからかうような笑みを浮かべてる彼女。そんな顔して聞くなよ。答えるしか選択しないじゃないか。観念して言うことにした。嘘を添えて...
「ほら、〇ineで花が好きって言ってただろ。喜ぶかと思って買ったんだよ。だけど何をプレゼントしたらいいかわからなくて、渡すか迷ってたんだよ。」
僕は正直に話す。嘘もつけて。よく考えたら気持ち悪いよな。ただのクラスメートで罰ゲームでデートに誘っときながらからかうために彼女の好きな花を買って渡す。好きでもないこの娘に、なんて言われるんだろう。
「え、嬉しいな。何の花を買ったの?」
返ってきた返答はそういったもの。そういった彼女の顔は何と形容したらよいだろうか。幼い子供がプレゼントを受け取る前にする期待とワクワク感に満ち溢れた顔と言えばよいだろうか。
そんな顔しないでよ。僕という人間は最低だ。これまでの経路を話せば、純情な彼女を傷付けてしまう。だけど黙って本当のことを知らない方が良いのかもしれない。
そんな複雑な気持ちが蔓延る中で花を渡した。ゼラニウムを
彼女はとても喜んでくれた。そんな彼女に対しての罪悪感が勝って本当のことを打ち明けることにした。
「あのさ、○○さん、謝りたいことがあるんだけど」
「ゼラニウム」
「え?今なんて」
「黄色のゼラニウムの花言葉知ってる?」
「いきなり何?聞いてほしいことがあるんだけど、」
「いいから先に答えて。ゼラニウムの花言葉は?」
「…分からない。」
「あなたに出会えてよかったっていう意味があるんだよ。私にはもう時間がない。友人との罰ゲームなんかでわざわざ私のためにありがとうね。楽しかったよ。」
え?何?わかってたの?じゃあなんであんなに楽しそうな笑みを浮かべたりしてたんだよ。
「あまり日没まで束縛しても悪いからここで解散しようか。私も君にプレゼントがあるんだ。」
そう言って花を受け取る。
「それじゃあ、また明日。もう話すことはないだろうけど...」
「ちょ、ちょっと待ってよ。」
「しー、もう何も言わないで、別れるのがつらくなっちゃうから。」
そう言って、行ってしまった。どういうことだ?僕は何も理解ができない。まるで脳が思考をやめているように何も考えられない。というか何をくれたのかな。
そんな彼女のくれた花は、ムスカリなんでなじみのない花を?花言葉に関係が?
僕は携帯でムスカリの花言葉を調べる。あぁ、ムスカリの花言葉は”失望“。
失望...か。全部わかってたの?じゃあなんで、今日来てくれたの?なんで、楽しかったって言ったの?なんで、髪を切ってきたの?分からない、彼女の行動のすべてが。
帰路についてからもずっと彼女からもらったゼラニウムを眺めながら彼女のことを考える。が、全く分からない。何も疑問が解決しないまま、心の底に暗雲が立ち込めたようなもやもやした気分だ。とりあえず、明日の学校で謝ろう。そう結論付けて就寝した。
毎回毎回休み明けの学校の日というのは僕ら学生を憂鬱にする。起きたくない。そう思って、二度寝を試みるが、妹に叩き起こされる。兄ながら情けない話ではあるが、妹がしっかりしすぎているだけだと、自身を正当化して学校に向かう。
教室につくと罰ゲームを提案した友人らはいつも通りバカでかい声でだべっていた。彼らのもとに行って僕は言う。
「おはよう、お前ら。なんかさ、すごい○○さんに悪いことした気がするよ。一緒に謝りに行こうよ。」
と言うと
「え?○○さんって誰?」「いや、クラスの根暗な子で、僕が週末に罰ゲームでデートした子だよ。」「いや、誰やそいつ。」「え?お前、何言って...」
「いや、俺らのクラスにそんな子いないよ。寝ぼけてんのか?」とけらけら笑う友人ら「そんなわけな...」
僕は○○さんの席に目をやると、席がない。なぜだ。彼女は確かにいるはずなのに...居ない?どうして?
「そんなことよりさぁ~」
友人は気にすることもなく別の話を話し始める。分からないことが多すぎる。
不穏な香りがする。その予感は正しくて、出席の時も彼女の名前は呼ばれなかった。存在が消されているのか。それとも自分の作り話だったのか。何度考えても結論は出ない。
彼女のことが気になりすぎて授業が頭に入ってこない。一日中ぼーっとしていた。放課後ふと自席の中にゼラニウムの花が入っていることに気づいた。これはドライフラワーというやつなのか。なぜこんなものがあるんだ。そんなことを思いながらそれを手に取る。
するとさっきまで教室にいたはずの僕は見たこともない場所にいた。一面何もないまるで“虚無“と表現するのがふさわしいだろう。すると目の前に存在しないはずの彼女が居た。
「やぁ、昨日ぶり、てか何?その顔。すごい顔しているよ。言わば、なんで今まで存在していたかわいい女の子が突然存在を失ったのかってとこかな?」
ニヤニヤしながらそう言う彼女。本当に彼女は何者?存在するはずの彼女が存在しなくなって...じゃあ、今目の前にいるのは誰?僕はたまらずに質問する。
「君はいったい何者なの?」
「質問に質問で返すけど、何者だと思う?」
「分からないから聞いているんじゃないか」
「考えてごらんよ。今までの私と一緒に過ごした生活からさ。答え合わせは今はできないだろうけど。」
僕は本当に混乱した。何がどうなっているのか分からない。何か考えられるものはないか?
ふと頭をよぎったものがある。
「胡蝶の夢?」
聞いたことがある。夢と現実の区別がつかなくなった人を指す言葉。つまり、彼女は僕の夢の中でのオリジナルの女の子?なのか、いや、落ち着け自分。
原因としては睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、睡眠酩酊などがあるが、本当にそうなのか?今朝も妹に起こされたのも実はそんなことは現実では起きていなくて...考えれば考えるだけ怖くなった。
いや違うはずだ。そんなことはない。ここで決めつけてはならない。ほかの原因として考えられるものは何?
ソースモニタリングエラーか?だとすれば何かが原因で僕の記憶が改ざんされたことになる。でも、それほどの大きなことを体験したか?いやしてない。
なら、何が原因なんだよ。呻る僕に彼女はそっと頬に触れる。まるで子猫をなでるかの如く優しい手つきで。
「駄目だよ、そんなに急いじゃあ。ゆっくりでいいから、答えを見つけていこうね。」
「君は何か知っているの?」
「もちろん知ってるよ。」
「じゃあ、教えてよ、その答えってやつを。」
「それはできない。君が答えにたどり着くまでは。」
「なんだよ、それ。」
何とも言えない情に浸った僕は気分が悪くなった。ちょうどその時だ、彼女が消えた。
そしていたはずの虚無の世界は無くなって教室にいた。
何が起こっているのか分からない僕。
「おい、何ポカーンとしているんだよ。帰るぞ、◇◇。」
と肩をたたく友人。「あぁ、すぐ行くわ。」「まったく、今日どしたのお前。ずいぶんぼーっとしてたけどさ。悩みあるんだったら言えよな。」
「おう」とだけ返して、彼らと一緒に帰路に就く。帰ってから考えるとしようか。
それから、いつも通り駄弁って帰宅した。帰宅した手前、僕は自室に急ぐ。早く真相が知りたい。といったものの何も思いつかない。
自分はいったいナニモンなんだろう。真実が知りたい。ただそれだけでいい。人との会話は誰にも干渉されないものだから若干変な目で見られるけど、ここが夢なのか聞いてみよう。
その時、自室に妹が入ってくる。ジャストタイミングだ。
「兄さん、ごはんできたよー」
「分かった。今行く。 ところで☆☆。」
「ん、何?」
「今って夢の中なのかな?」真顔で聞く僕。
「キモ、何言ってんの兄さん?ふられた?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど...」
「まあ、ごはん冷めるからさっさと食べてよね。」
と、背中を押されて自室を後にする。やっぱり夢ではないか。なら、ソースモニタリングエラー説が濃厚になった。確定というわけではないけど。
それからご飯を食べて、風呂に入り、課題も終わらせたとき、ふとドライフラワーと化したゼラニウムの存在を思い出す。スクールバッグのサイドポケットに入れておいたはず、
あった。あれ?こんな色していたかな?学校で見た時は黄色だったのに、今の色は緋色になっている。そういえば、彼女が確かヒントを与えてあげるって言ってたっけ?
これもそうなのかな。えっと、緋色のゼラニウム 花言葉 っと
そうやって、検索エンジンにかける。
えっと、意味は...憂鬱
憂鬱?これは何に対して言っているんだ?考え込む僕のもとに母がやってくる。
「◇◇、いつまで起きてるの?明日も学校でしょ。いい加減寝なさい。」
僕は時計を見ると針は26時を指していた。もうこんな時間になるのか。
「そろそろ寝ようと思ってたんだ。おやすみ。」
「そう、おやすみ。」
明日も学校だし、今日はこのぐらいにしておこう。僕は吸い込まれるようにベッドに向かった。
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暗黒な世界で落下している感覚。え?ここは現実なのか。夜のビルから飛び降りた?
そんなことを考えているとどこかに降り立った。するとさっきまでかかっていた暗闇は消えていた。あたりを見渡す。すると一面に広がるのは、深紅色のゼラニウム。あぁ、“憂鬱“を表現しているのかな。不思議な世界。うまく比喩することができないほどきれいな世界だ。
そんなことを思っていると、
「ばぁ」
と、彼女の登場。神出鬼没な奴だ。
「ちぇ、驚かないのかよ。つまんないなぁ」
「前会った時もよく分からない世界に飛ばされたどろう。何となく察したよ。で、ヒントをくれに来たのかな?」
「そのつもりだったんだけどさ、今会いに来た理由はそうじゃないんだ。」
「じゃあ、何しに来たんだよ」
すると彼女は急に真面目な顔になって、こう言った。
「君を止めに来たんだ。」
「へぇ?」
ぽかんとする僕に彼女は続けさまに言った。
「自分で真実にたどり着きなっていったけど、君が真実にたどり着いてしまったら、君がつらいだけだと気づいたからさ。もう私のことは忘れて。」
「いや、ちょっと待って。いきなり何言いだすんだよ。」
「そのままの意味だよ。もうこんなことに時間は割かないで、あたしももう貴方の前には表れないから。」
「おい、なんだよ。一方的にあきらめろなん.」
その途端に大きく振動して足元に亀裂が入り、崩れていく。この世界が崩壊していく。
落下する僕。声を出そうにも出ない。何もできない。そして、視界が真っ暗になる。
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「○○!」僕ははっと目が覚める。そこは身に覚えのある机、ベッド、教科書らがある部屋。自室だ。それにしても不思議な夢だった。突然彼女があきらめろ。と言ってきた夢。夢なのか?毎回彼女と会う場所は違うし、性格も多少の違いがあるような気もする。まさか別人?
そもそも彼女はどんな人だったけ?誰とも話している姿を見たことないほどに根暗な女の子だったはずなんだけど、罰ゲームでのデート当日はまるで別人かのように明るく笑顔が絶えないかわいい女の子。だったはずなんだけど、会うたびに性格が変わっている。つまり、別人と言っても差し支えないのか?
「諦めろ」なんて言葉を彼女からは聴きたくはなかったな。
まだ何も完全に終わったというわけではないというのに。あれ?体が落ち、
どおぉん。という大きな音を立てて、僕は地面にたたきつけられた。そして見るも無残に臓物をあたりにまき散らしていた。
そんな自分のみじめな姿をそばで見ていた。今、生きているのか?
いや、肉体の方はもうすでに死んでいる。精神の世界なのか。それからというもの、僕は考え事をしていた。忘れもしない、彼女のことを。
あぁ、彼女が自殺したから僕も死にたかったんだ。
だけど彼女の死を認めなくてソースモニタリングエラーが起きたのか。答えが出たわ。
納得する僕の前に彼女が現れて手を差し伸べる。やった。やっと君に会えた。
差し伸べられた手をとり、彼女は涙ぐみながら言う。
「久しぶり、諦めてって言ったのに...これからは二人でできなかったことを一杯しようね。」
その瞬間に周り一面に花畑になった。いろいろな色のゼラニウム、ムスカリ、ヒガンバナなど。
手をつないで彼女と僕は道を歩む。そこからのことは...
今日18時☆☆高校に在学していた◇◇君が飛び降り自殺をした。
ニュースにはそんな内容で報道されていた。
悲しむ人なんていない優しい世界で。 終わり
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