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ポルトガルに自分の名が付いたコーナー 

 着任して数ヶ月、移動手段として与えられたカンパニーカーの左ハンドルにもだいぶ慣れてきた金曜日の夜、勤務場所から約150キロ離れたリスボンへ戻り日本食レストランに駐在員が集合する恒例行事に間に合うよう、高速道路に乗る前の暗く曲がりくねった田舎道を走っていた。
 コーナーを曲がると突然目の前にヘッドランプが現れ、身体がとっさに反応して左にステアリングを切ったが、なんと対向車も同じ方向へ避けたので完璧な正面衝突となり、更にそこへ相手の車の後ろからSUVが追突してもう一度ドンと来た。気の毒なことに相手のコンパクトカーはひどい状態だが、幸いにしてだれも負傷はしていないみたい。私の車は路肩に落ちて運転席のドアが開かず、情けない姿で車内で待機するはめになった、トホホ・・・
 どうも直前の交差点で私が左車線に迷い込んでしまったみたいだが、一瞬何が起きたか訳が分からず茫然自失の状態。そうこうしているうちに同僚が通りかかり、現地会社のマネージャーに”日本人駐在員が事故を起こして、車から出られない”と連絡したので大騒ぎになり、警察も駆けつけて事情聴取しながら車内の私にアルコールチェックの風船を吹けという。まあ飲酒運転を疑われても仕方ないような事故ではあった。
 そのうち会社の担当者が現れ、ポルトガルに来て日の浅い日本人であることを説明し、身元は会社が保証すると警察に宣言してくれたお蔭で連行は免れて、救出後は友人の車でリスボンへ帰った。しかし、さすがにその週末は憂鬱であった。事故車は廃車となり、相手に対する補償や事故を起こしたペナルティは課せられなかったが、事故を起こした場所は私の名前が付いたコーナーに命名された。因みに、歴代駐在員のネーミングされた崖やコーナーは他にも何か所かあることは公然の秘密である。

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