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インフラ輸出としての石炭火力

<安定性と価格に優れている一方、環境負荷の面で劣る石炭火力 インフラ輸出品目として推進すべきなのか...>

態度を一方に固めることなく、議論の材料を列挙していこうと思う。議論大歓迎!

0.議論の前の前提

エネルギーには、安定的な供給、経済性、環境適合、安全などのさまざまな側面を満たすことが求められる(キーワード:3E+S)。しかし、すべての面で完璧なエネルギー源は存在しないので、バランスをとりながら、最適なエネルギーとその組み合わせを選んでいく必要がある。

1. 再エネ推進派の言い分

「石炭は将来、再生可能エネルギーとの激しいコスト競争に直面する」(例えば、日本における石炭火力発電の座礁資産リスク:東京大学未来ビジョン研究センター・高村ゆかり:2019.10.)図1は2017年 再生可能 エネルギー 発電費用, IRENA発行。2010→2017で特に太陽光発電のコストが低減し、既存の電源とコスト競争できるくらいになっていると言われている。

再エネはもう既存の電源とコスト競争できるくらいになっていると言われているが、単純にkWhあたりのコストで比較するだけでは不十分で、需給バランスを満たすような電源である必要がある。夏の猛暑日や冬の厳寒日の需要をまかなえるか、曇りの日でも予定通り安定的に発電できるか、など様々な要素がある。再エネがそのあたりの課題を乗り越えられるかが争点。

再エネの性能向上や、蓄電池や電気自動車による解決法には、イノベーションによる価格低減を組み込んで予測しないといけない。イノベーションによる価格低減幅をどのように評価するか、難しいところ。

ただし、日本の再エネ技術のうち、世界で勝てるものがあるかどうかは議論の余地がある。特にハード面はかなり厳しい。太陽光・風力はコスト面で中国が圧勝している模様、蓄電池も自動車用では中国が強い(今後さらに大規模化するとしても、中国優位は変わらないか)。日本が強いのは、揚水発電、地熱発電。洋上風力は今後注力する分野。本当はFITの間に日本の技術を強める見込みだったが、失敗しているとの評価あり。日本は早めに水素で蓄電する方向で動いてきたが、この先どう評価されるのか。

2. 石炭火力擁護派の言い分

石炭火力は、安定供給や経済性の面で優れたエネルギー源。ほかの化石燃料(石油など)にくらべて採掘できる年数が長く、また、存在している地域も分散しているため、安定的な供給が望める。また、原油やLNGガスにくらべて価格は低めで安定しており、LNGガスを使った火力発電よりも、低い燃料費で発電できる。

国際エネルギー機関(IEA)の分析では、インド、東南アジア諸国を中心とした新興国では、経済発展とともに、今後も石炭火力発電のニーズが拡大する見通し。新興国にとって、安く、安定的に採れる石炭は、引き続き、重要なエネルギーである。新興国の経済成長のスピードと電力系統の特徴とその他の発電方式の特徴を考えると石炭火力の他に選択肢がないかもしれない。
新興国の経済成長に合わせて電力供給をするには大規模電源の開発が必要で、新エネ技術で全体を支えるには規模も安定性も経済性も足りない(ここは異論もあるけど通説はこう)。原油は高い、原子力にも世界的に逆風が吹く。

世界的な潮流としては、先進国が軒並み石炭火力から撤退している。パリ協定を受け、石炭火力発電については、民間金融機関・国際開発銀行の中には、一定の条件の下で、融資を制限する動きがある。日本はG7で唯一、石炭火力発電の輸出支援を続けており、世界的な批判を浴びている。資金を用意する難しさが加わると、「安定性」に乏しくなる可能性。トータルでみたコストが高くなる可能性がある。

みずほ、石炭火力の新規融資の残高、2050年度までにゼロに(2020.4.15)→伝統的に金融ルールを作るのが強いのは、ヨーロッパ。ヨーロッパ各国が、環境意識に敏感な世論に押されて、グリーン投資を推進している。日本の金融機関も、これらの動きに逆らえない格好。

石炭火力はグローバルニッチ産業であり、この業界が、今後も市場として旨味があるかどうかは保証できない。今石炭火力のインフラ輸出に注力して、5年くらい成功したとする。その間に再エネがコスト面・安定性面(系統?)で石炭より優位になった時、ESG投資に乗り遅れていると日本は取り残される(キーワード:座礁資産)。ESG投資に動くヨーロッパに歩調を合わせておく、という安心感も重要なのでは。(新型コロナによる需要の落ち込みをうけ、ヨーロッパ各国はグリーン投資を活発化させつつある。理由としては、ヨーロッパ国民の世論への整合性と、政府によるグリーン大型財政出動が需要換気につながる点)

いずれにせよ石炭火力の環境負荷は低減する必要がある。石炭火力をそのまま使っている限り環境負荷は相対的に高くなってしまう。中長期的には、石炭火力を黙認することもできない。まず、日本の石炭火力が世界一の効率を達成していくことが大事(既に世界トップクラス:日本で商用化されている最高効率の技術(USC:超々臨界圧))。あとは褐炭(質の悪い石炭)も使える資源枯渇の心配が少ないものにすること。そして、これからの課題として、CCS(CCUS)も実現して一緒に売り込むこと(ただしこちらもイノベーションが求められる)。

今後の公的支援を、ビジネスへの支援という観点にとどまることなく、相手国の脱炭素化という長期的な視点を併せ持ち、脱炭素社会への現実的かつ着実な移行に整合的な『脱炭素移行ソリューション』提供型の支援へと転換していく重要性(2020/6/3環境新聞)

ただし、日本のクリーンコール技術が今後も世界で優位を維持できるのかは疑問。例えば、USC(超々臨界圧発電方式)などの技術は、10年以降、中国製品の性能はカタログ上、日本製品と変わらない(2020/6/4朝日新聞夕刊4面)。またこの石炭火力技術への投資が、座礁投資となるリスクはある。

3. その他

3-1. 炭素税について
炭素税を国ごとに導入すると、規制が緩い国のほうが企業にとって魅力になってしまって、インフラ輸出などの手段を使って、規制の緩い国でのビジネスを選ぶ。国にとっては緩めの規制をしいた方が、国内にビジネスを呼び込める。こういう歪んだインセンティブが働く結果、地球全体としては国ごとの規制があまり効果をなさない(カーボンリケージ)。だから炭素税は導入するなら、他の国と同基準が望ましい。先進国と途上国の歴史的背景にどう配慮するか、が難しい問題。

3-2. 環境問題と経済活動のトレードオフ について(アンドリュー・マカフィー,2020.4.25 記事)
環境問題と経済活動はトレードオフではない。新エネルギー技術や環境保護の技術は産業と雇用を生み、経済成長の支えになると思う。あとはそれをちょっと後押しする政策があれば、動いていく可能性。炭素税もしかり、トップランナー制度もしかり。

4. キーワード

○3E+S  :  Energy Security + Economic Efficiency + Environment + Safety

>>3E、Sを定量化した指標はあるのか。また、4つの定量化された指標をコストに上乗せする学問的方法は確立されているのか。

○ 座礁資産(Stranded Assets):市場環境や社会環境が激変することにより、投資額を回収できる見通しが立たなくなってしまった資産

○ ESG投資:従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資。

○ クリーンコール技術

新しく発電効率の高い火力発電を導入することで、火力発電設備の新陳代謝をおこし、CO2排出量も減らしていく

5. 参考文献

なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み, エネ庁,<https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/qa_sekitankaryoku.html>

2017年 再生可能 エネルギー 発電費用, IRENA

経済成長を諦めなくても温暖化対策は進められる,アンドリュー・マカフィー,2020.4.25


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