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漫談「丸ノ内線」の作り方

目次
●はじめに
●商業用漫談
●3つの要素
●原案が降りて来た
●設計図
●笑わし所は5箇所のみ
●聞き取れないスピード
●撮影秘話
●最後に

●はじめに
この投稿は、YouTubeに公開している、漫談「丸ノ内線」が、一万回再生を超えた時点で発表しようと決めていた内容です。
漫談が好きな方、漫才でも、コントインする、「漫才コント」ではなく「しゃべくり漫才」が好きな方には、特に楽しんで頂ける内容になっているんじゃないかと思います。
また、一般の方には少々、難解で、専門的な内容になっているかもしれせんが、ネタ作りの裏側や、お笑いの論理的な解釈等を、楽しんで頂ければ幸いです。

●商業用漫談
僕には、60歳までに、普遍的な面白さを追求して作った、60本のネタで世界中の人を笑わせたいと言う夢がある。
その目標を達成するには、ネタを収録する場所や設備等に、莫大なお金が必要で、そのお金を捻出する為に作ったのが、この漫談「丸ノ内線」であり、僕の中では「商業用漫談」と言う位置付けである。
「商業用漫談」とは、例えば絵描きが、世の中に発表する作品とは別に、生活の為に描く絵があるが、それに近い物だと思う。
つまり、お金を稼ぐ為の漫談だ。

●3つの要素
芸歴を10年程、重ねた頃、ぼんやりと頭にあった物を整理していると、ある図式に辿り着いた。
確信はなかったが、その3つの要素を埋めるべく、その後、芸事に邁進した結果、やはり間違っていなかったと思うので、こちらに記載する。
地球の面白いを一つ進める為には、この3つを埋めなければならない。
まずは下記の図をご覧頂きたい。

図1

・「テーマ」とはネタの題名になる様な物である。
今回のネタで言うと、勿論「丸ノ内線」になるのだが、厳密に言うと「地下鉄」である。
ここの文言が「回転寿司」だったり「オバハン」になったりする。

・「ニン」とは、芸人用語なので、一言で表現するのは難しいが、その人の性格の一番強烈な部分を誇張した物だと考えている。
「キャラクター」と言い換えれそうな所でもあるが「キャラクター」の場合、演じていると言う点で、人工的であり、その人の奥深い所から抽出した物ではない事から「キャラクター」は「ニン」を凌駕する事が出来ない。
だから、ここはあえて「ニン」と記してある。
そして、僕、しんたろうの「ニン」は「明るい神経質」である。
芸人は、楽屋、平場、舞台等、場面場面に応じて、濃淡の違いはあれど、地続きになっていて、どこを切り取っても「この人だ!」となるのが理想的だと考えている。

・最後に「システム・型」と記しているが「システム」とは「笑い飯」さんの「ダブルボケ」や「ミルクボーイ」の「リターン漫才」等がそうで、最近の物で言うと「もも」の漫才も「システム」にあたると思う。
「型」とは「ブラックマヨネーズ」さんのM-1グランプリ優勝時の漫才や「オードリー」さんの「ズレ漫才」等がそうだと思う。
「システム」には、それ自体のインパクトの強さから覚えてもらいやすい等のメリットがあるが、その形で世に出てしまうと、良くも悪くも、その「システム」の漫才を要求されると言うデメリットもあると思う。
「型」は、よく見れば法則性がある程度の事なので、プロには分かるが、一般の方にはバレにくい。
故に飽きられる事も少ないが、「システム」ほどのインパクトはない。
どちらが良いとか悪いとかではなく、一長一短があり、好きな方を選べばいいと思う。
僕は、自分のお笑いの方向性を決める時に「システム」ではなく「型」を生み出そうと目標設定をした。
幸いなことに38歳。
芸歴18年目辺りで、自分で納得の行く「型」を発明できたと自負している。
そして、皆様には理解しがたい事だと思うが、この漫談「丸ノ内線」に「型」は使用されていない。
冒頭で説明した普遍的なテーマで作る60本のネタに、その「型」を採用したネタを収録したいと考えているので、商業用漫談には「システム」や「型」を使用しないで勝負を挑もうと決めたのだ。
だから、漫談「丸ノ内線」は必要な3つの要素の内、2つしか使用していない事になる。
あえて発明した「型」を使いたくないのはネタバレの観点もあるが「テーマ」と「ニン」のみで世の中に出てやろうと言う、僕なりの思い上がった意地もある。
つまり、漫談「丸ノ内線」は「地下鉄」と言うお題で「神経質な人間」が、3分間喋っていると言う物になる。

●原案が降りて来た
今まで色んな雑念に苦しんで来た。
腹が立ったり、気になった事があると思考が止まらなくなって、頭の中が文字だらけになる。
いつもより忙しかったせいで疲れていた僕は、神経が過敏になっていた。
ちょっとした事でもイラつくような状態。
アンテナの感度がビンビンで張り詰めた状態。
そんな時、感じたイラつきの1つが、この漫談「丸ノ内線」に出てくるアナウンスの状況。
まさかこれが笑いの種になるとは思ってもいなかった。
しかし、当時の僕は、あまりにも腹が立っていたので、漫談中にも出て来る様に、方南町に住んでいる後輩に、その話をした。
その後輩は「そんな事を考えてるのしんたろうさんだけですよ。早く死にますよ。」と言って笑った。
納得がいかなかった僕は「お前が大雑把で、だらしない性格なだけで、世の中の、ほとんどの人は、俺と同じ様に頭の中でこんな事を考えているはずだ。」と反論した。
その後輩は「じゃあ試しに他の人にも聞いてみたらどうですか?」と言って来たので、本当に色んな人に聞いてみた。
すると、どうだろう。
こんな事を考えているのは僕だけだったのだ。
そこで初めて、これはネタになるのではないかと思う様になった。
みんな、頭の中で、こんな事ばかり考えて、雑念に苦しんでいるのだと思っていた。
しかし、世の中の、ほとんどの人は、そんな事を考えていない。
僕だけが考えている事だった。
つまり、それはオリジナルの面白いになり得ると言う事だった。
早速、原案を固めて、触りの部分を色んな芸人に試した所、笑ってくれたので、これでネタを作ろうと決めた。
これは、僕の芸人人生においても、大きな節目になるターニングポイントで、初めて「ニン」と言うものがくっきりと形をなして目の前に現れた瞬間でもあった。
「ニン」の話は、大きな時間を割いて話さなければならない深くて大きなテーマなので、ここでは敢えて割愛するが、とにかく僕は「明るい神経質」と、自分の事を一言で表現できる様になったのだ。
これを使って商売をして行こうと決める事になる。

●設計図
この漫談を作るにあたり、漫談の種、原案が頭の中に降りてきた時点で、その先を考え進めるのではなく、設計図を先に作っている。
賞レースや、テレビサイズ等を考えて、ネタ尺は3分にする事にした。
そして5ブロック構成にする事とした。

図2

大きさの違う長方形が並んでいると思うが、これが設計図である。
この四角の中に文字が入って行くのだが、5つの長方形がサイズダウンして行く。
この長方形の中に、台本の各ブロックが、はまっていく様なイメージで台本を書いて行く。
長方形毎に話が展開して行く様に作って行く。
そして、舞台に掛けては、書き直し、舞台に掛けては書き直し、トライ&エラーをひたすら繰り返しながら、台本を改訂して行く。
最終的に完成した台本は、当初予定していた設計図と、ほぼ同じ分量で形成される事になった。
ここでブロック毎の文字数を記載しておく。

1ブロック目 470文字
2ブロック目 318文字
3ブロック目 255文字
4ブロック目 161文字
5ブロック目 115文字

設計図から見ても、文字数から見ても、後半にかけて文字数が少なくなっているのが分かる。
これは漫談を喋った時に、仮に同じペースで最後まで喋りきったとしても、畳み掛けが起こる様に、意図的に作った結果である。
実際、この漫談をやる場合、後半の僕の喋りのスピードは、どんどん加速して行き、熱を帯びて、テンションも、動きも、高く、激しくなって行く。
観ている人が、尻上がりに、テンポが上がったと感じる様に、台本ベースでも設計されて作っている。

●笑わし所は5箇所のみ
今回は作り始める前から5ブロック構成だと決めていて、各ブロックの最後の行が爆笑になる様に作っていたので、入りや、掴み、ハケの部分を除くと、本ネタの部分だけでの笑い所は、5箇所になる。
普通に考えると、これはかなり少ない数なので、全てのネタ作りにお勧めできるとは限らないが、当時の僕は、手数よりもインパクトを重視していた為、この構成になっている。
そして、1ブロック目、2ブロック目に関しては、笑い所までの時間が長過ぎるので、途中、爆笑とまでは行かない「くすぐり」と言うポイントを作っている。
1ブロック目で言うと2カ所。
「揺れんねや」と「これ確認せなあかん!」の2カ所で、最後の1行をウケさす為の、繋ぎの笑い所として作っている。
2ブロック目で言うと、後輩のセリフ「早く死にますよ。」の部分がそれにあたる。
つまり、この漫談「丸ノ内線」の笑い所は、くすぐり3カ所、各行の最後のフレーズ5箇所の、合計8カ所である。
それ以外の所は、笑いを一切取りに行っていない。
YouTubeに上がっているネタで、それ以外の数カ所で、笑いが起こっているが、それは僕の計算外の場所であり、有り難く、お客さんが笑って下さった箇所である。

●聞き取れないスピード
この漫談を観た方から頂く、ご意見の中で、一番多いのが、この漫談のテンポとスピードについてだ。
これは大変申し訳ないのだが、このような反応、感想が出ると分かった上で確信犯的にアップロードしている。
基準としてプロのしゃべくり漫才師が、一発目で面白いと感じる様に作ろうと思ったからである。
そこが基準になっているので、一般の方が観ると1度では頭に入って来ない。
決して、それは感性や感度が鈍いと言っている訳ではない。
プロに向けて作っているのだから当然である。そして、敢えて、そうしたのは、繰り返しの鑑賞に耐えれる様なネタが作りたかったからである。
プロが唸るような物を作れば、必ず一般の視聴者は、繰り返し、何度も観てくれると思ったからだ。
よく分からないけど、何か気になる。
そう思った方は、2回目、3回目と観てくれる。
その内、面白さに気付き、笑ってくれる。
考察したりしてくれるかもしれない。
そこを狙ったのだ。
恐らく、多くの人が感じている感想は「何を言っているか分からない。」だろう。
これは滑舌の問題や、音響設備の問題もあるが、ほとんどのケースが文字として脳に入って来ているのに、スピードが速すぎて理解出来ない、処理が追い付かないと言う事だ。
繰り返しになるが、それを分かった上で敢えてやっている。
だから、一般の方は、2回目か、3回目で、この漫談の面白さに気付くと思う。
上から目線で本当に申し訳ないし、何故、そんな意地悪な事をするのか理解して貰えないかもしれないが、お客さんの感覚に合わせて笑いを作るのは簡単で、いつの世も、少し先、背伸びして届く位の物が、世の中を引っ張って、進めていると思っている。
地球の面白いを一つ進める為に、使命と確信を持って、こう言う事をしているつもりである。
そして、そう言った思考で作られているので、時間を空けて観て頂くと、何度、観ても面白いと思って頂ける物だとも思っている。
理解出来なかった方も、何度か観て頂けると有難い。
必ず笑って貰えると確信している。

●撮影秘話
この漫談は、主にラスタ池袋に出演している僕の漫談を、何度も撮影し、納得が行った物を、YouTubeにアップロードしている。
そして、OKテイクが撮れるまで、68回もの撮影を要した。
全ての箇所を、理想通り笑って頂くのは、大変困難で、何度もくじけそうになった。
こんな事にこだわってやっている人間は、多分、地球上のどこを探してもいないと思うし、頭がおかしくなりそうになったが、僕の好きな言葉の一つである「ベターは、ベストの1番の敵である」を胸に、なんとか完遂する事が出来た。
そして、ここまでやって作った物なのだから、自信を持って、お届け出来ているのだと思う。
これから先も、完成へ向けての苦悩は、付いて回ると思うが、腹を括っている。

●最後に
いかがだったでしょうか?
「笑う」とは、地球上に存在する生き物の中で、唯一、人間だけに許された特権です。
「笑う」も「笑わす」も人を幸せにします。
今回は「笑わす」側の裏側を、ご紹介させて頂きました。
お笑いの深い世界を楽しんで頂けたなら幸いです。
そして、日頃、僕の我儘を聞いて下さっている、ラスタ池袋さん。
更に、この漫談を作るにあたり、何度も何度も同じネタを舞台に掛けているにも関わらず、温かい目で見守って下さった、常連のお客様。
劇場にお越し下さる皆様。
アドバイスをくれた芸人仲間。
作家の皆さん。
この場を借りて、改めて、感謝申し上げます。
ありがとうございました。
また、こちらで、漫談「丸ノ内線」の「原案メモ」「初稿台本」「完成台本」のセットを、1000円で販売しております。

漫談「丸ノ内線」(台本)

興味がある方がいらっしゃいましたら、こちらも併せて購読頂けると、より漫談の世界を楽しんで頂けるのではないかと思っています。
頂いた、お金は地球のお笑いを1つ進める為に使います。
最後まで、お読み頂き、誠にありがとうございました。
現在、次回作の漫談に向けて進んでいます。
どうぞ、お楽しみに。
必ず、おもろいものを作って、笑かします。
ボカーン!!!


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