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祝御嶽海優勝&大関昇進&結婚

御嶽海は軽い力士だ。むろん体重の話ではない。ノリが軽く、言葉が軽い。インタビューでもよく口が滑り、ときにビッグマウスと揶揄されることもある。

フィリピン人のお母さん譲りの朗らかな性格と人懐っこさで周りを明るくする天性のスター性を持つ一方で、勝負師としての厳しさには欠ける。勝ち相撲では好角家を唸らせる上手い取り口を魅せるが、まわしを取られ不利な状況になるとあっさり諦め自ら土俵を割るような淡白な相撲も目立つ。

幕内優勝が2回もあり三役を28場所も勤めながら、大事なところでの連敗グセがあってこれまで大関取りに失敗してきた。

足踏みを続けた数年の間に貴景勝、朝乃山、正代らに先を越されてしまうが、そのことを嘉風(中村親方)に「お前らしいな」とツッコまれても「でしょ?」と笑って返すのがこの男である。

そんな軽い御嶽海も20代最後の年を迎え、この初場所では顔つきが今までとは明らかに違っていた。いつもの軽口は影を潜め、安易な引き技を封印し、丸い体を更に丸くしながらおっつけて前へ出る自分の相撲を徹底して初日から破竹の9連勝を飾る。それでも後半戦に失速して別人のようになる御嶽海をさんざん見てきたファンからは、「信じていいの?」と半信半疑の声が上がるのだった。

果たして10日目は学生相撲からのライバルで御嶽海に勝つことに誰よりも執念を燃やす北勝富士に完敗。翌日は絶不調の大関正代に左上手を許しながらもなんとか勝つが、12日目は阿武咲に立ち合いで当たり負け、足が揃ったところを叩き落とされ2敗目を喫する。これで万事休すかと思われた直後、盤石と思われた横綱照ノ富士が小結明生に敗れ2敗で3人が並ぶ混戦模様となった。

13日目は阿炎との2敗同士の決戦。得意のノド輪で攻める阿炎の腕を下からうまく跳ね上げて重心を起こし、たまらず引いたところを一気に押し出す会心の勝利。14日も宝富士を一方的な押し相撲で破ると横綱が阿炎に敗れてとうとう単独トップに立つ。

迎えた千秋楽結びの大一番は立ち合い左のおっつけで横綱の右上手を封じ、一旦離れてから今度は相手の懐に入って両差しを果たして寄ると、両膝の古傷と右踵の痛みで踏ん張れない照ノ富士に残す力はなくあっけなく土俵を割り、この瞬間に御嶽海の3回目の優勝と大関昇進が決定した。

稀勢の里(二所ノ関親方)が以前にコメントした「これだから御嶽海はやめられない。」の言葉通りに途中ハラハラさせつつも最後の3日間は素晴らしい内容の相撲で見事に期待に応えてみせた。

初土俵以来の御嶽海ウォッチャーとしては待ちに待った大関昇進に歓喜し安堵したのは勿論だが、これまで周囲の期待に応えられず結果が出なかった苦しい日々を稽古嫌いと言われながらも人知れずの努力で実力をつけてきた新大関には、これからは成績に関わらず伸び伸びと自分のために良い相撲を取り続けてほしいと願っている。

現役時代の嘉風は土俵生活の晩年に相撲が楽しくて仕方がなかったという。勝っても負けても全力を出し尽くすその姿は見るものの心を打つものがあった。

本人もフランクな大関を目指すと公言しているように明るい御嶽海には悲愴感は似合わない。来場所以降も御嶽海が楽しく自分の相撲を取りきって元気に場所を盛り上げてくれることを祈ってやまない。

追記 御嶽海関のご結婚を心よりお祝い申し上げます。お幸せに。

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