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【後編】ワーケーションは次のステージへ。これから求められることは?「ワーケーションEXPO@信州」イベントレポート

働き方改革や新型コロナウィルスの影響により、価値観や行動が大きく変化した2020年。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が広がったことで、仕事と休暇を両立させる新しいライフスタイルにも注目が集まっています。

日経トレンディ「2021年ヒット予測」で「長野でテレワーク」がランクインするなど、話題のトピックとしても取り上げられる現在。長野県では2017年から「信州リゾートテレワーク」として、軽井沢町、白馬村、山ノ内町などモデル地域でのワーケーション普及に取り組み、2019年には和歌山県とともにワーケーション自治体協議会を設立しました。

そしてこのたび、長野県が主催、ワーケーション自治体協議会、一般社団法人日本テレワーク協会が共催となってワーケーションの「今」や「これから」について考える「フォーラム」、信州リゾートテレワークを体感できる「体験会」、全国の受入地域の魅力や取組を紹介する「バーチャルブース展示会」をプログラムとするイベント<ワーケーションEXPO@信州>を2020年11月5日、11月6日に開催しました。

今回は11月5日に開催したワーケーションフォーラムの模様を【前編】【後編】の2回にわたりお届けします。

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前編を未読の方は、こちらからどうぞ。
https://note.com/shinshu_resort/n/nf910c5cc0425


「ワーケーションEXPO@信州」のワーケーションフォーラムは、2部構成で開催しました。第1部では、ゲストスピーカーが、それぞれの視点によるワーケーションの現状や可能性を具体的な事例を引用しながら紹介。そして第2部では企業のワーケーション導入の課題や今後の展望についてパネルディスカッションを展開しました。

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【第2部】
■パネラー
〈軽井沢町〉信州大学 社会基盤研究所 特任教授/軽井沢リゾートテレワーク協会副会長 鈴木 幹一氏
〈信濃町〉特定非営利活動法人 Nature Service 共同代表理事 ⾚堀 哲也⽒
〈富士見町〉Route Design合同会社 森のオフィス プランナー 高柳 祐人氏
三菱地所株式会社 営業企画部 専任部長 玉木 慶介氏
一般社団法人 日本テレワーク協会 専務理事 田宮 一夫氏
■全体ファシリテーター
国立大学法人山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 学科長 教授(観光政策科学特別コース)
田中 敦氏


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田中:それではここからご登壇の玉木さんと田宮さんに、それぞれ事業紹介をお願いしたいと思います。

玉木(三菱地所):ワーケーションというと、「リゾート地で休暇を楽しみながら働く」といったイメージを持っている方も多いのではないでしょうか?私たち三菱地所が考えているワーケーションは、もうちょっと広い意味合いがあると思っています。

ものすごく端折った言い方をすると、3つに分けられると考えています。
【1】個人負担・単独で利用(BtoC型)
【2】企業負担・単独での利用(BtoBtoC型)
【3】企業負担・企業内チームで利用(BtoB型)

ポイントとしては、お金を誰が負担するのか、利用するときはグループなのか、それとも1人・2人といった個人なのか、という点で大きな分かれ目があります。

三菱地所はBtoBに強みがありますので、3つ目の型にフォーカスして事業を進めています。そして「ワーケーション=Work×Vacation」に限定せず、いろいろな〈~ation〉をできる場所を「ワーケーション」と定義づけています。たとえば、Location(場所)・Motivation(動機)・Communication(対話)・Innovation(刷新)…。

これらを実現できる場として、一社専有で活用できる個室のワークスペースを、和歌山県白浜町、長野県軽井沢町で運営しています。プロジェクトチームでの使用が多かったのですが、経営者合宿・役員合宿として使っていただくことも増えています。また、これからは浸透・拡大のフェーズと捉え、ワーケーション情報を発信していくためのポータルサイトも運営しています。

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田宮(日本テレワーク協会):日本テレワーク協会は、政府・自治体・企業と連携をしながらICTを活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方「テレワーク」を推進する協会です。

7月に菅官房長官(当時)が「ワーケーション推進」についての発言があり、問い合わせがすごく殺到しました。
ワークとバケーションの融合という点では、「ワーケーション」(休暇時に一部業務を認める制度)」と「ブリージャー」(出張時に休暇がつけられる制度)があると思うのですが、8月、9月は「ワーケーション」というそもそものコトバについての問い合わせが多く、10月になってきてからは「ブリージャー」を取り入れる場合の制度について、例えば出張先でそのまま休暇に入れるにはどう企業内でルール化・制度化すればいいのかといった問い合わせも増えてきました。

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コロナ以前のワーケーションの状況と現状

田中:ワーケーションというのは始まってまだ3年。このパネルディスカッションでは、特にオフサイト会議や団体での研修型にフォーカスしつつ、個人型との違いなどにも触れられたらと考えています。

コロナ禍でワーケーションを取り巻く環境も大きく変わっているなかですが、長野県ではコロナ以前にも「信州リゾートテレワーク」を推進するなどさまざま取組があったと思いますが、これまで行われてきた”コロナ以前”の状況とコロナ禍の影響による現状について教えてください。

鈴木(軽井沢):軽井沢のワーケーションの動きとしては、元々スタートとしてはバケーション寄りではなく 「エデュケーション」。カーリングを用いた研修など、コロナ以前から学びに軸足がおかれているのが特徴かと思います。一方、最近のトピックスとしては、BCPの視点で軽井沢にサテライト拠点を設ける企業がではじめていて、結果的にワーケーションも楽しまれる流れになりそうです。

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赤堀(信濃町):元々信濃町ノマドワークセンターは、オリパラ開催にあたり都心の通勤が混雑によって難しくなることを想定して昨年開業しました。今年問い合わせはあるが、利用者がまだ少ない状況。ワーケーションをしたいと思ってもできない人がいるという状況ではないかなと思います。問い合わせはとても多いので、来年は実行できるように願っています。

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高柳(富士見町):企業側は何かしらの目的を持って実施に動くと思いますが、目的自体はコロナ前後ではそんなに変わらない印象です。ただし、企業側から求められるものが変わっていると感じていて、以前は宿泊や食事の提供のみを求められていたのが、最近はプログラム開発やインプットの提供のリクエストをいただくことが増えてきています。「普段と違う頭の使い方をするために、地域資源や地域の人とをつないだワークショップをやってほしい」というような一歩踏み込んだ要望が少しずつ出てきているのが以前と違うところかなと感じます。

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玉木:企業側はコロナ後の働き方について悩んでいる段階だと思います。元々「オフィスで働く」というのが前提だったなか、多様な働き方が入ってきてオフィスに求められる要素が変わってきています。例えば、「たまにオフィスにしか来ないのであれば、オフィスに来たときこそガツッとコミュニケーションを取りたい」、そのためには企業集積をしていたり、何かがうまれそうな街にいたいというのが流れになってきていますね。

そして、そんななかでワーケーションがどんな立ち位置なのかというと、私は「サプリメント」と考えています。
これまで日本企業は求心力得るために「同じ釜の飯を食う」という考えでしたが、多様な働き方が求められているなかで、今まで意識してこなかったチームビルディング・求心力をつくる場が重要になってきました。そのために3日間~1週間、お互いの人となりを知りながら深い議論をしていくというような場が今後求められてくる…。その場としてワーケーションが活用されていく可能性が十分にあると思っています。

田宮:コロナ前でいうと、都心ではオリパラに向けてテレワーク推進の取組が行われてきました。また昨年は大型台風が都心を襲い、計画運休・多摩川氾濫などで通勤が困難な状態にもなりました。こうしたなかテレワークの必要性が改めて見直された…というのが昨年までの状況でした。

今年、コロナ禍でテレワークの準備をしていた会社はいち早く在宅勤務に切り替えることができました。準備ができてない企業は「生産性が落ちてしまった」という声も聞かれ、在宅勤務のあり方も議論されてきています。

働く場所の概念が変わってきているいま、我々には「働く場所を家から地方のサテライトオフィスに変え、1週間くらい滞在することで生産性高く仕事をしたい、そのために社内制度はどうしたらいいのか」といった問い合わせも増えてきていますね。


個人利用と企業利用のギャップ

今回の「ワーケーションEXPO@信州」ではオンライン開催ということを活かし、システムを使って参加者全員に質問をさせていただき、みなさんのお考えについても伺いました。

まず1つ目は、「(労務管理などがクリアになった前提で)あなたがしてみたいワーケーションのかたちは?」という問い。
2つ目は、「(企業の方のみ)企業として取り入れたほうがよいとおもうワーケーションのかたちは?」という問い。

▼結果はこのようになりました!

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参加者のみなさんの回答によると、「個人レベルでやるのだったら休暇を織り込みながら楽しみたいが、企業として制度で入れるなら地域での貢献や社内研修・オフサイトミーティング」という結果に…!
この結果を受けて、三菱地所の玉木氏はこう分析します。

玉木:私の実感とほぼ同じです。営利企業としてどんな見返りが大切。何もないところにお金は出せないので、企業の業務にとってもプラスになり、行く先の人にも貢献できる…というのはよくわかる結論ですね。


地域とリゾートテレワークの可能性

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田中:先程の会場での質問でも、「地域」が意識されていることがよくわかりました。ワーケーションを語る上で「働く人」だけでなく「地域」というのも大事な視点かなと思います。企業・働く人・地域が三方良しとなれるような可能性がありそうかお話いただけますか?

鈴木:軽井沢の周辺にはワイナリーが多く存在します。現状、ブドウの収穫をボランティアで補っているケースが多いのですが、これをチームビルディング研修に入れ込むような取組ならば、地域・働く人・企業それぞれにとってメリットがあるので、ぜひ周辺地域とともに進めていけたらと、いま考えているところです。

高柳:地域の課題・知見と、企業をマッチングするようなワークショップを何度もやっているのですが、我々としては課題がすでにいくつか出ています。まず短期間ではイノベーションは生まれないということ。なにか生み出すなら継続性が重要になってくるので、我々も長期的に取り組めるような仕組みをつくっていきたいと考えています。次に、間にはいる人間がとても大事だということ。「自由に交流してください」とするだけでは先に進まないので、ビジネスの観点を持ったディレクター的な立ち位置の人の存在はとても重要です。

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玉木:一番大事なのは付加価値をつくること。例えば、地域側が「来て来て」と言うだけでは企業は動かないですし、企業側も「楽しかった」だけではお金を出さないのではないかと思っています。
我々としては、従業員の方のモチベーションを上げる→企業の業績にもプラスになる→地域にも役立つといった仕組みをつくらないといけないのではないかと考えています。つい建物をつくることに目が行きがちですが、三方よしをつくっていくにはソフト面が大切ではないでしょうか。


まとめ:ワーケーションは次のステージへ

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鈴木:軽井沢に来ているワーカーの人を見ると、みなさんわくわくしているんです。目が輝いていて表情がいい。こういった環境でワークすれば当然いい結果が出ると思っています。ワーケーションの目的は楽しみながら、そして気分転換にワークをする、この一言かなと思います。

赤堀:「義務感からワーケーションしないといけないのではないか」と考えている企業さんもいらっしゃるのですが、そうではなく行動することで「会社を強くするんだ」といった気持ちで取り組んでいただけたら幸いです。

高柳:イノベーションを生むという点では、会社という単位であっても「個人」が重要になってくると思います。個人的にはぜひ「森のオフィス」に入るまえに会社の名刺を破り捨てていただいて、「個人」を意識した上で取り組んでいただけたら面白いと思っていて。まだ正解はないなかですが、ご相談をいただきながらプログラムを開発できたらと思っています。

玉木:ワーケーションは次のステージに入ったんだな、と思った1日でした。メディアでは、どうしても「ワークとバケーション」が中心になっていて、「いやいや、そうじゃないんだよ」と思っていたのですが、本日参加されていた方はそうではない広い概念があることをご存じで、すでに実践もされている。
では、次のステージに入ってきたときに何が大事かというと「発信」なんだと思います。「発信」が求められるフェーズに入ってきたことを強く感じました。

田宮:まだまだ企業側はワーケーションの意義について理解が及んでいない点も多いと思います。ワーケーションを進めるということは何なのかということについて今後も発信していきたいと思っています。

田中:はじまったばかりのワーケーションですが、企業にとって、働く人にとって、地域にとって…三方良しがうまく実現できることが改めて大事だと思いました。まだまだ答えがないなかですが、軸をつくっていけるようこれからも議論や研究を重ねられていくことを願います。


【ミニレポート】信州リゾートテレワーク体験会@軽井沢

2日目には、信州リゾートテレワークの先進地をご体験いただける限定体験会が開催され、県内5地域で体験ツアーが行われました。今回は軽井沢の様子を少しご紹介させていただきます。

「軽井沢ワーケーション視察ツアー」では、参加者の要望にあわせてワーケーション関連施設を視察するツアーが開催されました。(※そのため参加者によって訪れた施設は若干異なるので、今回は筆者がお伺いした施設をご紹介します)


▼「ライジングフィールド軽井沢」
https://www.rising-field.com/
軽井沢の大自然の中にあるキャンプ施設。

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ネイチャー系のアクティビティやチームビルディングのプログラムが充実しており、「エデュケーション」を体験できる施設となっています。視察参加者のみなさんも簡単なチームビルディングにチャレンジ!

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屋外にもWi-Fiが張り巡らされているので、森のなか、テントのなか…好きなところでお仕事可能なのも嬉しい。

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▼軽井沢コワーキングスペース「232」
https://hello232.com/
軽井沢駅から徒歩5分。ドロップインも可能なコワーキングスペースです。

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北欧スタイルに着想を得た医・食・住関連事業を営むハルタ(上田市)プロデュースのおしゃれなスペースにみなさん興味津々。

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オンラインMTGや電話用のブースも用意されているので、会話コミュニケーションが多いお仕事の方も安心です。

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▼サードオフィス軽井沢
https://www.forestcorp.jp/thirdoffice/
信州の建設会社「フォレストコーポレーション」プロデュースの「サードオフィス」のモデルハウス。

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集中型合宿やVIPのおもてなしなど…快適に過ごすためのさまざまな工夫が施された新時代のオフィスの提案に、みなさん目が輝いていました!

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▼緑友荘
https://www.hub.visitor-center.jp/
築150年の古民家を改装したコワーキングスペース。

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かつては保養所として使われていたという館内は、懐かしくゆったりと落ち着くことができる空間です。
現在、一部屋一組の予約制なので、セキュリティーやコロナ対策も安心。コタツがあるお部屋は冬に大人気だそう。

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▼軽井沢のワーケーション視察については、軽井沢リゾートテレワーク協会へお問い合わせください
https://karuizawa-work.jp/



かつてない注目を集めるワーケーションですが、ブームで終わらせるのではなく、企業・働く人・地域にとってよりよい結果がもたらされることが重要であり、文化として根付いていくためにさまざまな取組が行われていることがわかりました。さらなる飛躍に期待が寄せられた2日間に感じられました。

以上です、お読みいただきありがとうございました!


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