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【WFS編集部がお届け!】ユースオリンピックに見た日本フィギュア界の明るい未来

いま、フィギュアスケートは

シーズンの集大成となるはずだった3月の世界選手権が中止となってから2ヵ月。突然終わってしまったスケートシーズンに、いまもぽっかりと心に穴が空いたような気持ちでいるスケートファンの方々も多いのではないでしょうか。

世界的なコロナウイルス感染拡大のもと、多くのスケーターが氷上での練習もままならない難しい状況を強いられています。そんななか、スケーターからSNS等を通じてメッセージが届けられたり、スケーターたち主導でチャリティが行われたりと、心あたたまるニュースもありました。

国際スケート連盟(ISU)は、10月に開幕予定のグランプリシリーズは各大会の12週前、8月開幕予定のジュニアグランプリシリーズは10週前までに開催の可否を判断する、と発表しました。つまり、それぞれ初戦の開催が決まるのは、スケートアメリカが8月1日、ジュニアグランプリ・カナダ大会が6月15日。さらに、ジュニアグランプリは初戦に先立って9月に予定されていた第2戦スロバキア大会の中止が発表されるなど、まだまだ先行き不透明な時期が続きそうです。いまは事態の一刻も早い収束と、またみんなが安心して新たなシーズンを迎えられることを願うばかりです。

こうした状況のなか、フィギュアスケートの専門誌「ワールド・フィギュアスケート」編集部では、本誌と連動してこれからnoteでも記事を発信していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。今回のテーマは、「ワールド・フィギュアスケート」88号でお伝えしたユースオリンピック2020です。本誌では掲載しきれなかったこぼれ話を拡大版でお届けいたします。

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書籍版→ WFS88号
電子版→ WFS88号電子版


次世代によるスポーツの祭典 ユースオリンピック2020とは

2019‐2020シーズンを振り返ってみると、スケート界の未来を明るく照らすニュースがいくつもありました。とくにジュニア世代の若い選手たちの活躍は、希望に満ちたものでした。

なかでも今年1月、スイス・ローザンヌで開催されたユースオリンピック2020は、日本の若き才能たちが実力を世界にアピールできた大会です。

ユースオリンピックは、原則15歳から18歳を対象とした若者たちの祭典で、2010年の夏季大会から始まり、冬季大会は今回が3回目。1月8日にローザンヌで幕を開け、8競技16種目が14日間に渡って行われました。

フィギュアスケート種目では、鍵山優真選手が金メダルに輝き、2012年インスブルック大会の宇野昌磨選手の銀メダル、2016年リレハンメル大会の山本草太選手の金メダルに続いて、日本男子3大会連続となるメダルを獲得!

さらには、今シーズン国際大会にデビューした河辺愛菜選手が表彰台に迫る4位、アイスダンスでは結成1年目の吉田唄菜&西山真瑚組がNOC混合団体戦で大活躍して金メダルを獲得、鍵山選手も個人戦に続き同団体戦で銀メダルを獲得するなど、次世代スターたちの活躍に胸躍る大会となりました。


男子金メダル、鍵山優真選手

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(c)Jed Leicester for OIS

じつに爽快な瞬間でした。フィギュアスケート競技3日目の1月12日、男子フリーの最終滑走。「タッカー」を堂々と滑り切った鍵山選手が、リンクに描かれたオリンピックマークの上で両手を突き上げ、飛び上がってガッツポーズ。演技後半に向けてどんどんテンションを上げ、会場をひとつにまとめ上げていく見事なパフォーマンスでした。フィニッシュと同時に沸き起こった地面を突き上げるような大歓声は、アリーナ最上部の記者席から思わず身を乗り出してしまうほど。

SP3位からの逆転優勝が決まると、ローザンヌの観客はさらに声をあげ、手をたたき、足を鳴らして、チャンピオンの誕生を祝福しました。スポーツがもたらす歓喜と興奮に満ちた空間は、取材をしながらも「オリンピックだ」と感じさせられるものでした。

SPのときは、ショートトラック用の緩衝材に囲われた普段より一回り小さなリンクに苦戦し、得意の3ルッツ+3トウでフェンスにぶつかる転倒があった鍵山選手。SPは3位。「ショートでアクセルが跳べたので、そこはフリーにも自信をつなげて、あとはスピードのコントロールを調整していきたい」と、悔しさを見せながらも前向きな気持ちを語っていました。

逆転を狙ったフリーで、4回転トウ2本、トリプルアクセル2本をしっかりと成功させ、くるくると表情を変える愛くるしい表現でも観客を惹きつけて、合計239.17点を獲得。念願の金メダルを掴み獲りました。

興奮冷めやらぬ演技後のインタビューでは、優勝の喜びと驚き、そしてユースオリンピックの先に見据えるオリンピックへの思いを語ってくれました。


鍵山優真選手インタビュー
「なんか、楽しかったです」

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(c)Jed Leicester for OIS


―― 優勝おめでとうございます。フリーの演技を振り返って、どんな気持ちですか。

鍵山 正直びっくりしたんですけど、完璧な演技ではなかったのでどうなるかなとは思いましたけど、順位よりもとにかくフリーで自分が思い切りできたというのがいちばんよかったなと思っています。

―― フリーは最終滑走でしたよね。緊張しましたか?

鍵山 最終滑走は慣れているので。(笑)フリーも自分が自信を持っているのであんまり不安はなかったんですけれど、とにかくジャンプを思い切りできてよかったと思っています。

―― トリプルアクセルを演技の最後に入れることは、試合前から決めていたんですか。

鍵山 はい。全日本選手権からそういう構成にして、実際に跳べたのでずっとこの構成でいこうかなと思っています。

―― ジュニアGPファイナルのメダリスト2人、アンドレイ・モザリョフ選手とダニール・サムソノフ選手を抑えての優勝ですが、ファイナルでの悔しさは晴らせたのでは?

鍵山 ファイナルのリベンジはできたと思います。ロシアの2人の選手は、内容とかはわからないんですけれど、でも点数見たときに自己ベストではなかったので、たぶんミスが出たのかなと思って、自分もミスが出たのでちょっと悔しかったですし、正直言うならノーミスして勝ちたかったです。(2人は)世界ジュニアに出てくると思うので、こんどはノーミスしていい演技をして、優勝したいなと思っています。

―― 鍵山選手の点数が出たときに観客が足を踏みならして盛り上がっていましたが、大歓声を聞いてどんな気持ちでしたか。

鍵山 失敗しても拍手を送ってくれて、すごくいい人たちばっかりだなと思いました。なんか、楽しかったです。(笑)

―― オリンピックマークのある大会に出ることで、気持ちの面で何か変わったり、北京オリンピックが近づいたなと感じたりすることはありましたか。

鍵山 このユースオリンピック自体は年齢も限られていて、本当に一生に一度しか出場することができない試合なので、そこで優勝したことは自分もすごく自信を持てましたし、これからの世界ジュニアだったり、四大陸選手権にもつなげていきたいなと思います。ジュニアとシニアでは全然違うので、実際自分がシニアで戦ったら本当にまだまだ下の立場なので、もっともっとがんばりたいなと思います。

―― 宇野昌磨選手が過去にこの大会で銀メダルを獲って、実際にオリンピックでもメダリストになっていますね。今回メダルを獲れたことでそこに続いていけそうだと感じますか。

鍵山 そうですね。第1回で宇野選手が銀メダルを獲って、2回目で山本(草太)選手が金メダルを獲って、本当にすごいなと思いましたし、3回目に自分が優勝したいとずっと思っていたので本当によかったと思っています。

―― 次は四大陸選手権が控えていますが、シニアの四大陸選手権ではSPから4回転を入れていきますか。

鍵山 シニアの舞台はショートで4回転を入れてもOKなので入れたいと思います。4回転よりもいまは苦手としているトリプルアクセルの確率を上げることがいちばんの目標です。

―― いまシニアとジュニアの大会に交互に出場していますが、自分の意識としてはいまはシニアへの準備なのか、ジュニアの集大成なのか、どんな感じでしょうか。

鍵山 どうだろう……。来シーズン、シニアかジュニアかと言われたら全然考えてないんですけど、でも全日本選手権を終えて自分がシニアでも戦える選手だと実感したので、四大陸はもっともっと世界が広くて自分がどの立ち位置になるのかわからないですけど、がんばりたいと思っています。

―― 他競技の選手からも刺激を受けました?

鍵山 いまは自分の競技に集中していたので他の競技はあんまり見られていないんですけれど、でもみんな日本代表としてここにやってきているので、みんなに負けないように本当にがんばってやりたいなと思っていました。

―― 大会期間中は先輩アスリートとの交流もあるかと思いますが、何か先輩に聞いてみたいことはありますか。

鍵山 聞きたいことといえばたくさんあるんですけど、たとえば「シニアの世界はどういう感じ?」とか。本当にいろいろ聞きたいんですけど、聞いて答えを出したらちょっと自分にとっては気持ちがもやもやしちゃうので、実際に自分がシニアにいっていろいろ勉強したいなと思っています。

―― 開会式では日本代表チームを代表して旗手を務めましたが、改めて感想を教えてください。

鍵山 日本チームを率いる旗手として大事な役を任されたので、胸を張って堂々と歩きたいなと思っていましたし、実際に歩いてみて、すごく緊張したんですけれど、少しは自分を大きく見せられたかなと思います。(笑)

―― ユースオリンピックに出場してみて、オリンピックってこんな感じかなと想像はできました?

鍵山 ユースではありますけど、こんなに盛り上がってすごい舞台なんだなと思いました。

―― ユースオリンピックで優勝してこれだけうれしかったら、オリンピックで優勝したらどんなだろうと考えてみたり?

鍵山 そうですね。本当に、なんか……あんまり深く考えちゃいけないんですけど、オリンピックで優勝したらどういう感じなんだろうなというのを知りたいと思っています。

(2020年1月12日、ユースオリンピック男子フリー後に取材)


金星を挙げた鍵山選手の晴れ晴れとした表情が印象的な取材でした。本誌88号では、ユースオリンピックの試合の様子や、チームジャパンの仲の良い面々による座談会など、緊張感がありつつも和気あいあいとした現地の雰囲気をお伝えしています。こちらもあわせて是非。

次回、5月25日(月)更新予定のnoteは引き続きユースオリンピックより、河辺選手と吉田&西山組の記事をお届けします。ぜひチェックしてみてください。


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