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知られざる氷上エンターテインメントの世界


アイスショー「ファンタジー・オン・アイス」のプロデューサー・真壁喜久夫さんの著書『志~アイスショーに賭ける夢』が刊行されました!

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『志~アイスショーに賭ける夢』真壁喜久夫著

真壁喜久夫さんは、日本のフィギュアスケート、そしてアイスショーの発展を支えてきた縁の下の力持ちともいえるプロデューサーです。このnote記事では、担当編集より、本書の内容について少しだけご紹介させていただけたらと思います。

ポジティブな仕事力

コロナ禍が始まった2020年。フィギュアスケートファンの皆さまなら、3月の世界選手権がキャンセルになり、続いてあらゆるアイスショーやイベントがキャンセルされていったときの胸がふさがれるようなつらい気持ちを、いまも覚えておられると思います。「ファンタジー・オン・アイス2020」もそのなかのひとつでした。

毎年5月から7月にかけ、千葉・幕張を皮切りに全国数か所で公演を行う「ファンタジー・オン・アイス」は、スケートファンにとっては待ち遠しい初夏のフェスティバルのような存在です。羽生結弦選手、ステファン・ランビエルさん、ジョニー・ウィアーさん、エフゲニー・プルシェンコさんといったスタースケーターが、アーティストの歌うライブの音楽とともに氷上に描き出す夢のひととき。それが、2020年は開催できない……ちょうどそんなころに編集の佳境を迎えていたのが、真壁さんの初の著書『志~アイスショーに賭ける夢』でした。

著者の真壁喜久夫さんは、2010年に現在の形でスタートしたアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」のプロデューサー。また、日本のスケーターをフィーチャーする「ドリーム・オン・アイス」や「メダリスト・オン・アイス」も真壁さんの仕事のひとつです。

「ファンタジー・オン・アイス」の中止が発表されたあと、さぞ苦しい状況に違いない……と、恐る恐る真壁さんに連絡すると、ところが真壁さんは意気軒高でした。すべての公演がキャンセルになり、損害はもちろん、多くの観客の方々が楽しみにしているショーを開催できないという本当に苦渋の決断だったはずなのに、「お客さまには心から申し訳ないけれども、いつか復活できるときが来る。そのためにはいまは耐えて、できることをやっていくしかない」と、少しも落ち込んだ様子、不安な様子を見せず、すでに“次”を見据えていたのです。

苦しいときもポジティブで、すぐに次のステップを考える。コロナ禍でも発揮された真壁さんのその姿勢と明るい人柄こそが、本書全体を通して語られるプロデューサーとしての仕事力の源になっています。


エンターテインメントビジネスの真価

本書のなかで真壁さんは、フィギュアスケートを鑑賞するという土壌がまだあまりなかった日本で、最初は何度も失敗しながらも、どうやってアイスショーという文化を育ててきたのかの道筋を語っています。

スタースケーターやアーティストとのエピソードや、ショーの舞台裏の様子はもちろん、スケーターとよい関係を築き、一流のエンターテインメントとしてアイスショーを洗練させていくこと、また多くの人が関わる現場で、スケーター、アーティスト、スタッフ全員が気持ちよく実力を発揮できる雰囲気を作る秘訣など、話題は多岐にわたります。ときには、スケーターを巻き込んだドタバタのハプニングも! そんな臨場感のある筆致を通して、フィギュアスケートを支えるとはどういうことなのか、エンターテインメントビジネスの真価とは何かが伝わってきます。

その原点にあるのは「志」。真壁さんの仕事は、試合とは違う、アイスショーやエキシビションという場を作り出すことで、スケーターの成長の助けになりたいという想いに支えられていました。

《本文より》
 選手が試合経験を通して成長するのは当然のことだが、満場の観客が見つめるなかで、ルールの制約がない演技を滑るエキシビションという場においても、発見できること、吸収できること、成長できることはあるのではないか。自分らしいパフォーマンスとは何か、観客とつながり合う演技とはどういうものか、自分で考える材料になるのではないか。そしてそれは、競技力の向上と強化にも活かせるのではないか。早くからエキシビションやアイスショーを見る機会が多かった私は、ずっとそのように考えていた。そして、いつしか「エキシビションを通して、日本選手の強化に寄与したい」という夢をもつようになった。とくに、「日本の選手は技術は巧くてもシャイで表現がいまひとつ」と言われることも多かった時代である。そんなはずはない、試行錯誤を通して学ぶことができれば、日本の選手には表現の才能があるはずだと考えていた。いま世界で活躍する日本選手を見ていただければ、当時のそういった批判が的外れであったことは明らかだろうと思う。
 ――第5章「選手強化につながるエキシビション」より

こうした想いが、アイスショーやエキシビションの企画制作にどう生かされていくのか、本書には興味深いエピソードがたっぷり詰まっています。また、コロナ禍という現状を反映して、これからのアイスショーがどうなっていくのかというヴィジョンも必読です。


スケーターとの対談を収録

さらに本書では、「ファンタジー・オン・アイス」を代表する3人のスケーターが、親交の厚い著者との対談に登場してくれました。羽生結弦選手、ステファン・ランビエルさん、ジョニー・ウィアーさんです。

それぞれ、絶大な人気を誇るトップスケーターであることはもちろん、アートとしてのスケートに造詣が深く、プロデューサー感覚も兼ね備えた才能あふれるスケーターの方々です。収録は2019年の「ファンタジー・オン・アイス」のバックステージで行われ、まさに“いまリハーサルから帰ってきた”3人が、ショーへの想いを話してくれました。

《本文より》
ウィアー スポーツとしてのフィギュアスケートだけを見せようとするのではなく、アート全体に造詣があり、尊重する気持ちがあるプロデューサーのもとで仕事ができるというのは、パフォーマーにとって特別なことです。音楽とカルチャーを愛し、新しいアイディアや衣装を楽しみながら、違う地域からのスケーターたちを日本の観客に紹介してきた。素晴らしい仕事をなさってきたと思うし、いつも感銘を受けています。
真壁 それはおそらく、私自身がフィギュアスケートに感動したという原体験から来ているのだと思います。アスリートたちが戦うスポーツでありながら、パフォーマンスとして観客を感動させる側面もある。フィギュアスケートを知ったばかりのころに、そのことが非常に印象的でした。
ウィアー ぼくがフィギュアスケートを愛しているのも、まさしくスポーツでありながらアートでもあることが理由なんです。同じですね! アイスショーは魔法のような瞬間を見せてくれる場だと思う。スケートを始めたばかりのころ、まだ子どもだったぼくは、初めてアイスショーを見て心から魅了されました。魔法だと思った。
 ――ジョニー・ウィアー×真壁喜久夫対談より

3人のスケーターと真壁さんとの対談には、フィギュアスケートとアート&エンターテインメントの関係といった大きなテーマから、公演の思い出や、いつも楽しそうなバックステージのざっくばらんな様子まで、さまざまな話題が登場します。こんなふうに考えているのか、そういう発想なのかと、3人の想いの深さに驚かされるようなお話の連続なので、ぜひお読みいただけたらと思います。

またカラー口絵では、20年間のアイスショーのなかから、スケーターが輝く瞬間やショーの印象的な場面を捉えたカラー写真を多数掲載。往年の名スケーターや、まだ小さいころの選手たちの写真など、貴重なカットをちりばめました。


逆境にもメゲずへこまず、明るく楽しく立ち向かい、マイナスをプラスに変えて、夢のようなアイスショーのきらめきをお客さまに届けてきた真壁さん。こんなときだからこそ、そのほがらかで前向きなパワーを、本書から感じとっていただけたらと思います。

いつか、スケーターも、アーティストも、スケートファンも、みんなが同じ空間に集まって感動を作り出す“場”が戻ってくる日が来る。そんな希望が湧いてくる一冊です!


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