心書 Vol. 491「易きに流れる」

何年も前のこと、私の車で友人と熊野方面に旅をした。友人はペーパードライバーなので、運転は私がした。しかし、これが疲れ果てた。高速代とガソリンは折半だけど、コンビニや観光名所には毎度立ち寄って欲しいと言い、しかも滞在時間が長い。そして、自分との違いを感じたのは、私なら長距離運転してもらったらお茶の一本くらい渡すなー、と思ったことだ。お茶が欲しかったわけではないけど、相手への労いというのは所謂躾とか習慣なんだと気付かされた。

ネットで見かけた話でも、仕事で取引先にお詫びに行く際手土産を買ってこさせたら、若者はコンビニの袋に入ったお菓子を持参していて、上司が再び慌てたとか。手土産といえば、例えば虎屋の羊羹やそれに似た品物を持参するという習慣を知る機会がなく育ってしまったら、理解できないことなのかもしれない。

今の時代はなんでも簡素化されてしまって、親戚付き合いも減り、さまざまな機会がなくなっているように感じる。節目の挨拶などの習慣は、親がするのを見て子供は学ぶし、それが文化の継承だと思う。相手の人に何を渡すのが相応しいか、相手に思いが伝わるためにはどうすればいいか、それは人付き合いの潤滑油だと改めて認識した。合理化は大切だけど、易きに流れず人を大切にしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?