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「笑いの悪魔」私のデビルハンター期

チェンソーマンが流行っている。
悪魔と人類の戦いを描いた作品だ。
悪魔をデビルハンターが倒すのだ。

なるほど、馴染み深い。そんな感覚で熱中して読んだ。

さて今日は、私がデビルハンターだった時の話をしたい。

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切の関係がありません。


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【序章】

その悪魔は見渡してもどこにもいやしないが、気がつくと目の前に現れる。そういう類の災厄だ。

私は埼玉県出身だが、仕事の都合で1年ほど某O阪府で暮らしたことがある。

生まれ育ち、大人になるまで過ごした関東にも
祖父母が暮らしよく遊びに行った北海道にも
転勤し住んだ福岡にも
その悪魔はいなかった。

しかし、いたのだ、あの街には。

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【一章 笑いの悪魔】

こんな事があった。
あるグループおいて
男性Aがエピソードを語り終えた。
まぁ控えめに言ってあまり面白くはなかった。
すると、向かいに座る男Bが
それまでの仲睦まじい雰囲気をどこ吹く風と立ち上がり
「お前おもんないねん」
そう言って男の首をはねた。

もちろん物理的には首は繋がっている。
しかし、確かに、言葉を日本刀のような鋭さに変え、
思い切り男性Aの首をめがけて振り抜いのだ。

最初は愕然としたが、この街では日常茶飯事だ

この土地の住人は時折
知人であろうが、見知らぬ人であろうが
「おもんない」と判断したら、容赦なく斬りつける。
切りつけて捨てて、笑いながら歩き去るのだ。

これが太古より存在する、O阪府の呪い。
「笑いの悪魔」


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【二章 半事実上の死】

「お前おもんないねん」「あいつはおもんない」
「おもろいかどうかが全てや」
彼らは突然とこんなことを口にする。

しかし誰もが常にそうだというわけではない。
彼らは皆フレンドリーでいい人達だ。
その瞬間取り憑かれているのだけなのだ。

笑いの悪魔に憑かれた人は
目の奥を鈍く光らせ、試すような笑みを浮かべ、刀の柄に手をかける。

話し手は悪魔を
満足させたら称賛され、
満足させられなかったら、首をはねられる。

居酒屋でも、そこらの歩道でも、オフィスでも、繁華街でも
いつどこででも、人は処刑される。

それは若者にとって、半事実上の死。

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【三章 試練】

悪魔に試されるのは私とて例外ではない。
何度も斬られた。
何となくした受け答えで刺され、何の気なしに話したトークで切られた。

私は昔から弁が立つ。地元では面白いとされていた方だ。
それでも何度でも攻撃を受ける。
致命傷に至るほどのダメージは回避できた事が不幸中の幸いだ。

恐ろしい。本当に恐ろしかった。
仲が良いと思っている相手にも急に斬りつけられる。
前述したがいつどこででもだ。

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【四章 無限】

私が何に1番怯えたか。
心底苦しみ、恐怖し、あるいは憎み、そしてこんな文章を書くに至ったか。

私が最も嫌悪した事、それは

悪魔自身が“おもんない”ことだ。
辟易するほどに“おもんない”のだ。

一例を話そう。
ある日の昼休みのことだ。
会社の後輩が悪魔に憑かれた。

運ばれてきた料理を食べようと一口目を口に持って行こうとしたその瞬間。

「美味いすか?」悪魔が問う。
「あ、いやまだ食べてない」私は答える。

当然切られた。勢いよく。

うんざりした。

確かに私はおもんない。
しかし既に問いが面白くない。
爆裂的に面白くないではないか。。

取り立てて強くうんざりした理由は他にもある。
私は同じタイミングで同じ問いを、すでに10数回この悪魔から受けていた。
もうないのだ、この問いを笑いに変える方法は。
とっくに底をついている。
最初の数回多少の笑いを取ったことだけで紫綬褒章ものだ。
あまりにつまらない。


気がついていない。悪魔は、自身の“おもんなさ”に。

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【五章 苦悩】

笑いとはある種、野球ではないだろうか
狙いを済まし制球された投球に対し、
呼応するバッター、
時にホームランを、時に狙い通りに三振を、時に狙った位置へのバッティングを、
その様を見て観客は歓喜するのだ。
そういうものだろう。

しかし悪魔はそんなことは知らない。
どう考えても打てない位置へのボール
何もしなければ確実に当たるデッドボール
それらを、神速の豪速球で放り込んでくる。

1回表から、9回裏まで、永遠にだ。
何が“おもろい”ねん。。。

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【六章 死闘】

さて、なぜ私がデビルハンターを名乗るのか。
単純だ。見つけたからだ。
「笑い」の悪魔の祓い方を。

ここまでお付き合いしてくれた方にはしっかりと対処法を教えておこうと思う。

ある時、我慢の限界を迎えた。
私は斬りかかろうとする悪魔に言い放った。

「ってかさ、お前おもんなくね?」と。

閃光した。

悪魔はたちまち怒りとも羞恥とも取れない表情を浮かべ、
赤らめたと思いきや青ざめすぐに真っ白な顔色になり、苦しみだした。
四肢は爆散し、体は陽の光で灰になり、風に吹かれて消えた。

たったこれだけで、悪魔は死んだ。

刀こそ立派だが、防具は何一つ付けていない。
悪魔は斬られることを前提に生きていない。

私はついに悪魔に勝ったのだ。



まぁ当然、少しギクシャクした。

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【終章】

相手の返答に全てを委ねて、笑いが起きたとして
それは相手の笑いだ。
自分の笑いではない。

笑いとは奥が深く、私の様なものが語れるものではない。しかしそれだけは事実だと思う。

デビルハンターの私はその結論に至り、
O阪府をあとにした。
私は今晴れやかな気持ちで生きている。

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転勤先、新しい職場で部下と飲みに行った。
面白くなかった。
帰り道、私はふと、一言つぶやいた。
「あいつおもんないな。」

To Be Continued?

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