エネルギーベース食料自給率

食料安全保障ではカロリーベース食料自給率がよく話題になる。そこで私は、「エネルギーベース食料自給率」を計算してみた。
国内では51兆9千億kcalの収穫がある。他方、農業で消費される化石燃料は145兆kcal。収穫の2.79倍のエネルギーを消費している。エネルギーベース食料自給率は、マイナス179%。

こう考えると、私達は「石油を食べている」と表現しても差し支えない。もし石油が手に入りにくくなったり、高騰して入手困難になるようなら、食料生産そのものが危うくなるくらい、今の農業は石油などの化石燃料に依存している。

農業研究者が集うメーリングリストに、次の質問を寄せたことがある。「江戸時代より進んだ農業技術はあるでしょうか?ただし、石油に依存しない技術で」。
かなり活発な議論が交わされたあと、結論として出てきたのは「江戸時代より進んだ技術のほとんどは石油エネルギー依存」ということだった。

石油をはじめとする化石燃料を使わない技術で、江戸時代より進んだ農業技術はほとんどない。この事実は重い。
江戸時代は、食料に関してほぼ完全な鎖国状態。だから、化石エネルギーに依存しない状態での日本の食料生産力が推定できる。では、江戸時代はどのぐらい食料を生産していたのか?

徳川吉宗が将軍になった享保年間あたりで、日本の人口は約三千万人に達したと推定されている。その後、明治維新に至るまで、人口は三千万人のまま、ほとんど増減せずに推移している。このことは、日本の国土が持続的に養える人口は三千万人なのではないか、ということを強く示唆する。

今の日本の人口は約1億2580万人。国内で養える3000万人を差し引いた、約9500万人分の食料を、海外から輸入するか、あるいは化石燃料などのエネルギーを農業に投じて食料を増産する必要がある。つまり、日本は大量の食料を輸入するか、大量のエネルギーを確保せねば全国民を養えない宿命にある。

現時点では、大量の化石燃料を海外から輸入している。太陽光発電が普及し、国産エネルギーは徐々に増えているものの、太陽光などの自然エネルギーは、国内で消費されるエネルギーの9.3%。エネルギーの90%以上を海外に依存している。食料安全保障を考える場合、エネルギー問題は無視できない。

なぜ農業はそんなにも化石燃料に依存しているのか?化学肥料、トラクターなどの燃料、化学農薬などのすべてが、化石燃料をもとにしている。これら農業技術は、化石燃料に大きく依存している。特に農業従事者が152万人にまで減った日本では、農業機械を動かすエネルギーは欠かせない。

また、化学肥料も化石燃料に依存する形で製造されている。ハーバー・ボッシュ法という方法は、空気中の窒素からアンモニアを製造する画期的な技術だが、大量のエネルギーが必要。現在は天然ガスのエネルギーで製造されていることが多い。ロシアはそうして製造した硝酸アンモニウムの45%の世界シェア。

化学肥料を慌てて国内生産しようとしても、工場を作り、稼働させるまでにかなりの時間が必要。しかもエネルギーをどうやって確保するか。
そんなこんなを考えると、日本国内に住む人たちを飢えさせないためには、大量の食料ないしエネルギーの輸入が欠かせない。

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