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デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 文法と概念の生理メカニズム (第4回)

4. 脳室内免疫ネットワークの活用

   脳室内の免疫細胞の成熟と相互ネットワークによって成り立っている言語処理のメカニズムはIF A THEN Bの論理によって実現している.この論理を音節の時間的離散性,文字の不滅性,bitの対話性に適用するにはどうすればよいか,すると何ができるかを以下で論ずる.(得丸2020b, 2020c, 2021b)

4.1 文法:片耳聴覚で文法処理

   ヒトは,赤ちゃんの喃語,二語文の時期を経て,ある時から文法を使うようになる.

 ブラジルのアマゾンの熱帯雨林地帯で暮らすピダハンは,いつ何時ヘビやワニに襲われるかもしれないので,つねに両耳を使って自分に近づいてくるもの音がどの方向からどんなスピードで来ているかに警戒している.そのピダハンは大人も二語文を使う.

 一方,安全な開墾地に住むその他の民族は,3~4歳になると母語を自然と片耳で聞くようになる.日本語の文節構造のように,言葉と文法ベクトルというセットで話し,聞くようになる.

 図2に示すように,鳥は「首の短い影(A)」が「近づいてくる(B)」と「危険信号を発する(C)」.このIF A+B THEN Cの論理を使って,「太郎」(A)「が」(B),「花子」(A’)「と」(B’)「公園」(A”)「に」(B”)「行っ」(A’’’)「た」(B’’’)という具合に,言葉と文法語(助詞や活用語尾)を統合して意味を理解しているのではないか.そのために母語を片耳聴覚することで両耳から入る音声の位相差や周波数差をなくし,脳幹聴覚神経核の音源定位能力を文法語の音韻ベクトル解析にあてているという仮説である.(得丸2014) ちなみに母語以外の音声は,両耳聴覚している.


安全な場所で、方向定位能力は文法ベクトルの解析に転用される。
これはDNAに書き込まれていて、我々の本能になっている。

4.2 読む:言葉記憶と文字のネットワーク

 「読む」とは,線画である文字をみて,それを音にすることである.文字列は識字記憶をもつ者にとって音節列である.つまり脳は文字を音声として認識する.それはその音の記憶をもつBリンパ球が脳脊髄液中に存在しているからだ.図3の免疫細胞ネットワークが文字を読む能力も司る.IF (文字列) THEN (音節列)というネットワーク記憶が,Bリンパ球に保持されているのであろう.


 それを裏づける事例として,水頭症シャント術によって脳脊髄液を腹腔に垂れ流すと,失読症を伴う失語症が悪化する事例がある.(得丸2021c)これは脳脊髄液中のBリンパ球がシャントによって失われ,識字記憶も一緒に失われるからだ.(得丸2021d)

 また, 昨今, テレビ局のアナウンサーが「反古」を「はんこ」と呼んだことが話題になったが、自分がもっている語彙にもとづいて、漢字を音に変換するのが読むという行為であるので、仕方ない。「ほご(反古)」という語彙をもっていなかったのだから、読めるわけがないのだ。

4.3 生活概念:個別の経験が総合化される

 言葉の意味が「個人がある音声形態と結びつけて頭の中に持っている知識及び体験の総体」であるとき,「ある音声形態」(A)は,脳内の「知識及び体験」の記憶(B)と1対1に結びつく.

 たとえば,「マンジュウ」と聞いてまず思い出すのは,自分が普段食べている饅頭だ.酒饅頭かもしれないし茶饅頭かもしれないが,ある一つを思い出す.それからだんだんと豚饅頭や紅白饅頭など他の饅頭を思い出す.このときIF A THEN Bの論理は1対1のまま,次々にさまざまな記憶と結びつく.

 体験や思考を積み重ねて総合化すると,IF A THEN Bの論理が1対全の群論理に進化する.言葉は記憶の集合と結びつくようになる.これが概念である.饅頭体験のすべてを総合することが概念化であり,言葉Aは記憶Bの全体集合と結びつく.

 「このラーメンは、ラーメンの概念を打ち壊した」という言葉の意味は、「これは自分が今まで食べた全てのラーメンよりも美味しい」という意味である。ラーメンの概念とは、全てのラーメンを指し示すのだ。

4.4 科学概念

 生活概念の意味は,経験を積み重ねることによって総合化される.これに対して,科学概念が対象とするのは目でみえず触ることもできない不可視の科学的現象である.言葉をきちんと使うと,不可視の現象(量子力学的現象,分子生物学的構造)を正しく理解し,伝達することができる.

4.4.1 発見者の発見のプロセスを追体験する

 日常概念は,日常的な体験を総合化して生まれるのに対して,科学概念は,ある科学者が実験や観察を通じて,それまで誰も気づかなかった現象や物質を発見して生まれる.したがって,科学概念は体験や五官の記憶とは結びつかない.発見した科学者本人が,発見に至る経緯,発見の瞬間,命名行為を確認することによって,学習される.


4.4.2 科学概念は学際的である

 脳室内免疫細胞ネットワークにおいて,言葉の記憶を司るBリンパ球は,寝ている間も,自由に脳脊髄液中を移動して他の免疫細胞とネットワークしている.

 現代科学は専門分化が進んだために,同じ概念の定義が専門分野によって違っていることがある.科学概念は五官で観測・観察できないミクロやマクロな現象や物質に名前を与えて概念化する.たとえば脳科学において「反射」と呼ばれているものは,動物行動学では「本能」と呼ばれていたりする.同じ脊髄反射のメカニズムを,分野が違うと,違った名前で呼ぶことがある.科学が発展していくためには,名称の背後にある器官や細胞・分子構造を特定する必要がある.


4.4.3 例外をもたないことを確かめる

 科学概念においてIF A THEN Bの論理が1対全の群であることを確かめるためには,常に例外が存在しないことを確認すればよい.概念は例外がないことによって数学的な群となる.群は演算に閉じているから,概念操作の結果も概念となる.こうして科学概念は観察や観測のできないミクロやマクロな現象を解析するツールになる.

 IF (例外) THEN (作業を一旦中段して,定義や現象を吟味する)という論理を用意し,いかなる例外にも即座に誠実に対応することを習慣づける.



4.5 科学概念の学際的統合

 概念が学際的に通用し,常に例外を持たない群の論理を満たしていたら,学際的相互作用が生み出す現象を解析できる.

 本研究も学際統合で行われた.たとえば2は,2.1動物行動学が行った入力刺激に対して反応を生み出す論理回路の研究,2.2大脳生理学の条件反射実験,2.3精神機能の脳室局在論,2.4脳室と脳脊髄液の生理学,2.5免疫ネットワーク理論を検討して,それらを重ね合わせて脳室内免疫細胞ネットワーク仮説を生み出した.

 概念が例外を持たず,学際的に通用できれば,学際統合は容易である.不可視の現象を可視化するための参照モデル(例:図3,表2)をつくって,それに概念をあてはめて,くり返し検討すればよい.



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