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デジタル信号処理の脳室内免疫ネットワーク仮説 ー 言語情報の前方誤り訂正に向けて (第5回)

4.6 bitの双方向性を生かした検索とカタログ

 インターネットが,検索エンジンや図書館のOPAC (Open Public Access Catalog)サービスを提供するようになって,我々は過去の人々が書いた書籍や論文を容易に閲覧・入手できるようになった.

 スマホやパソコンからインターネット検索エンジンにキーワードを投入すると,たちまちのうちに関連した情報のリストが提示される.人類の文明を発展させてきた力の源泉である知的好奇心に,人類共有知の側から回答を与えるのが検索エンジンである.

 ウェブ情報にはブログやツイッターのように匿名で信頼性の不確かなものもあるが,科学者や哲学者の名前と著作を知れるだけでもありがたい.それをもとに,図書館OPACやCiNii Booksを使うと,読みたい本がどこの図書館に蔵書されているか,貸出可能か,貸出中か,といったことまでわかる.あるいは書店や古書店の在庫状況がわかり,クレジットカードや電子マネーで決済してすぐに配達してもらえる.論文の場合は,有料か無料かは別として,かなり古い論文までオンラインでダウンロードできる.

 インターネット以前は,本がありそうな図書館を訪問して,書名か著者名をもとにカードキャビネットで蔵書と登録番号を確認して司書に閲覧を要求していた.そして複写(一人あたり枚数制限があった)を申し込んでコピーを手にしていた.それだけで重労働だったことを思うと,資料収集の手間が激減した.

 4.4で述べた科学概念の性質を理解し,4.5で論じた学際統合の手法を駆使すれば,大量で学際的な文献を使いこなすことができる.基本的に未読の文献があれば,面倒くさがらずに必ずそれを手にして目を通すという習慣をつける.IF (未読文献) THEN (読む) という論理に従う.


4.7 言語情報に前方誤り訂正は可能か

 インターネット検索とOPACや電子ジャーナルのおかげで,今日我々は,最新のものから古いものまで,きわめて膨大な学際的文献にアクセスできるようになった.そのなかから,信頼性が高く,自分に有用と思えるものを選びだして読むのだが,相互に矛盾する内容や,概念の定義が明確でないものもあり,何をどう読むかの手法がまだ確立されていない.

 言語情報の誤りを後世の人間が訂正できないか.もしそれが可能であるなら,受け取った情報をもとに処理回路を形成している我々にとって,誤りのない信頼性の高い情報を取り込むことは重要である.脊髄反射のIF A THEN Bを利用して,取り込む言語情報の誤りを避けるだけでなく,自らの知識ベースに取り込まれている誤りを正しい知識に置き換えることはできるだろうか.次項でそれを検討してみることにする.


4.8 言語情報の前方誤り訂正の必須化

 考えてみると,身近な信頼できる人から受け取る情報であっても,人間関係の信頼性にすぎず,情報そのものの信頼性は保証されていない.教育も研究もヒトがやることで,ヒト以外の生物は関与しない.しばしばヒトの常識は間違っている.

 我々は受け取るすべての情報について信頼性を確かめる必要がある.信頼性を確認した情報だけを受け入れると決めておく.つまり言語情報の入力があれば,かならず前方誤り訂正の手続きを踏まなければならないという論理,IF (入力) THEN (前方誤り訂正)という二元論を用意する.最近の若者は,上司が口にすることをすぐに検索エンジンにかけて確認する人も多いそうだが,それは我々が進化している証拠であり,ホモサピエンスにとって大切な習慣である.

 誤り訂正する意欲をもてば,言語情報の信頼性は格段に高まる.インターネット検索によって,参考文献や関連資料の入手が容易になった.それらも利用して,言語情報の前方誤り訂正をすると,人類は新たな知能発展の時代を迎えるだろう.

 言語情報の前方誤り訂正は,まず① 著者が誠実で責任感があり,嘘や出鱈目を書かない人物であることを確認し,② テキストが著者本人のものであることを確認する.それから③ 著者の思考過程を追体験して,書いてあることが妥当かどうかを段階的に確かめる.こうすればたとえ著者が書いた内容が間違っていても,後世の読者はその誤りを正すことができる.

 気をつけるべきは,正しいかどうか判断する我々の知識基盤が,誤っている可能性があることだ.我々は脊髄反射回路を使って言語を処理しているための弊害をたくさんもっている.予め自分が知っていることにしか反応しないので,知らないことは大事でないと思いがちだ.自分が誤っていたら,正しい情報を誤りとし,誤りを正しいと誤判する.そもそも自分が何を知っているのか,その知識が正しいのかを確かめる術がない.きちんと前方誤り訂正すれば,間違っていると最初は思った入力情報が,実は正しいことがわかり,自分の思い違いを自覚することができ,最終的に自意識の誤りを訂正することにつながる.

4.8.1 人物像:著者の信頼性を確かめる

 著者が遺した論文や本を順番に読んでいくと,著者の思考がだんだん発展していく経緯が読み取れる.著者が研究を始めたきっかけ,研究目的,研究はどう発展したか,死ぬまで研究を続けたか,校正にあたってできるだけ正しく伝わる努力をしたか.発見の瞬間を克明に記録しているか,オーラルヒストリーやインタヴューに誠実に答えているか.著者の研究態度や著述方針で,人物の信頼性を評価できる.


4.8.2 通信路誤り訂正:本人の言葉の証明

 著者の信頼性を確認したら,次はそのテキストが本人のものであることを確かめる.著者の名を騙った偽書や,著作の中身が改ざんされているものは,排除する必要がある.剽窃やゴーストライター作品も著者の言葉とはみなされない.

 図6で示すように,入力される言語情報の誤りは2種類に分けられる.回線上の雑音は,著者以外の力で著作を歪め劣化させ通信路誤りを生み出す.著者没後につくりだされる偽書,改ざん,隠蔽などは人為的雑音である.


 デジタル情報はどうにでも改ざんできる.死んだ著者本人の言葉だとみなせるのは,著者存命中に著者が校正して出版された本や論文など印刷物である.著者没後にねつ造される偽書や不本意な改ざんを防ぐ方法として,著者が存命中に自分の著作に冗長符号を付すという方法がある.これは後世の読者に誤り訂正符号の知識を要求する.(得丸2018)


4.8.3 情報源誤り訂正:著者の立場で誤りを正す

 信頼できる著者本人の言葉であると確かめたら,読者は著者の実験や観察を仮想現実的に追体験する.くりかえし丁寧に読み解くことで,読者は著者の発見の喜び,予想外の実験結果を得た当惑,結局最後までわからずじまいだったことをどう言い訳すればよいかというプライドと誠実さの葛藤,講演した後で自分の講演内容が間違っていたことに気づいた焦り,といった気持ちまで共有できるようになる.そして,著者が未解明におわった問題と取り組むのだ.


4.8.4 情報源誤り訂正:超低雑音環境の威力

 ノーベル賞級の著者の成果を凡人が誤り訂正するなどという大それたことが本当にできるのか.どんなに賢い著者であっても,すでにこの世にいなければ,新たな著作を生みだせないし,誤りを正せない.今を生きる読者が,できるだけ静かな環境で,ゆっくりと丁寧にくり返し読めば,知能レベルが桁違いに向上し,著者に追いつくことは十分可能である.

 情報源誤りを正す方法として,知識再生型受容を提案する.生命体の生殖活動が,一個の受精卵から始まるように,何も知らない状態から少しずつ学習して,現象と言葉を対応させながら,著者の発見を追体験する.著者没後に発見された知識があれば,それも受け入れる.こうすると著者より知的に進歩することにつながるが,著者もそれで本望であろう.



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