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ハエるネックレス

私はオシャレがしたかった。

服は既に事足りているので、新しいアクセサリーが欲しいところ。

指輪とイヤリングはあれこれ所有していて、既に日常使いからちょっと特別な時用のものとそれぞれの服に合わせられる色やデザインが全て揃っていると言っても良い。


若い頃はネックレスが苦手だった。

安物をつけていたのも原因だろうが、10代という若い肌には、金属チェーンのネックレスが首にまとわりつきベタつく感じがして不快だった。

指輪とイヤリングはこれだけ持っていて、ヘアゴム兼ブレスレットもそれなりに持っている割には、私はネックレスを所有していない。

私は駅ビルに向かった。

アクセサリー屋というのは、なぜこんなにも店構えの雰囲気と値段相場の足並みが揃っているのだろう。

「この雰囲気ならシンプルイヤリングは2000円未満、こだわりイヤリングは2500円を超えるものもある。」これを私は人生で一度も外したことがない。

ただネックレスの相場は分からない。なぜならほぼ買ってきたことのない人生で、値札を見てこなかったから。


レザーのネックレスはサラサラしているので、2つ程度だが所有している。

レザーの場合、ペンダントトップが軽いと安定しないし、何より地味な服と合わせると「肩凝りを取ろうとしてるのかな(短いもの)」「社員証でもぶら下げてるのかな(長いもの)」感が出てしまうからだと推測しているが、ペンダントトップが派手な物ばかり売られている。

私はオシャレがしたい。

今まで避けてきた金属チェーンのネックレスをつけてみたい。


駅ビルのアクセサリー屋の壁面にズラリと並ぶ華奢なネックレスたち。

繊細だ。

今までアクセサリー屋に入ってもネックレスだけはろくに目に留めてこなかったことがよく分かるほど、華奢で繊細な作りのネックレスに私は見惚れていた。

金属のチェーンネックレスは、ペンダントトップが小さくて可愛らしい。

金属だから肌に密着してくれるからな。トップが小さくてもクルクル回らないのだろう。

ハートのデザインのもの、三日月のデザインのもの。

このようなデザインは可愛くてお手頃価格なのだが、私のキャラには少々合わない。

隣のこれは、なんだろう。

黒くて丸っぽくて光っている。

ブラックダイヤモチーフだろうか、これはなんだか興味深い。

私はこの瞬間もまだ、陳列された状態のネックレスを自分が身に付けた時、どのくらいの位置にペンダントトップが来るのか分かっていない。

私の首が特別太いとは思わないが、こんな華奢なネックレスばかりをしばらく見ていると、サイズが合わないのではと不安になる。

ネックレスとして売られているのに、まるでチョーカーのように喉仏下付近でピチっと留まってしまったら。

もしくはもっとキツくて喉仏下が引き締められ、ひょうたんのような首が完成するのではないか。

私はオシャレがしたい。

ひょうたん首を作りに来ているわけではない。

黒いペンダントトップをよく見てみようと、手を差し出して触れようとした。

黒いペンダントトップはブーンと飛んで行った。

ハエだった。

アクセサリー屋は、アクセサリーが輝いて見えるよう、照明をしっかり焚いている。

金属の熱伝導率もある、他所より断然暖かいのだろう。

閉店少し前の夜の時間帯、私の目は霞んでいた。

ブラックダイヤモチーフとハエの分別も付かなくなっていた。


ハエが小休憩をしていたネックレスの正体は、更にシンプルなホワイトダイヤモチーフだった。

私はそれを買うことにした。

ブラックダイヤだと見間違えて惹きつけられたのも何かのご縁だ。

よろしく、ホワイトダイヤモチーフ華奢繊細金属チェーンネックレス。

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