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長文感想『賞金稼ぎスリーサム!』 川瀬七緒

警察から難事件への情報を提供した者に支払われる「報奨金」
これを目当てに共闘する3人の物語。

元警部で、訳あり母の介護のため「介護離職」した、40代男性・「藪下」(やぶした)。

藪下が現役時代に捜査対象になったことがある、30代男性・「淳太郎」(じゅんたろう)。
製糖会社の御曹司で、警察の捜査現場に現れその行動を監視記録する、変わった趣味の持ち主。

介護する母親の回復に一縷の望みをかけている藪下は、とにかく医療費が欲しい。

警察の報奨金がかけられた「とある事件」に関する調査を、淳太郎は別途報酬付きで、会社の顧問弁護士を通じ藪下へ依頼します。

まるで、藪下の足元を見るように―――


なんとも奇妙なやり取りから始まるこの物語。

ある意味「ストーカー気質」の淳太郎に翻弄され、元ペット用品店兼自宅の放火容疑をかけられた被疑者を救うべく、否応なく事件の現場で調査を開始する藪下。

所轄の刑事、現場付近の住人たち、事件にかかわる様々な登場人物たちの思惑に翻弄され糸口が見えない中、現場に足繁く通う若い女性の姿が。

北海道出身、こころに期すものを抱えて上京した、20代女性・「一花」(いちか)。

害獣ハンターの勘と経験で、先のふたり同様、報奨金目当てで現場を探索していたのです。


最初は単なる趣味者として邪魔者扱い(いや、女性に執着するタチのイケメン御曹司・淳太郎の好奇心の対象、でもありますが…) される一花。

そんな一花の、独り暮らしの自宅アパートが何者かに荒らされ、その際の見極めの的確さに一花の実力を、そして彼女の「危うさ」を痛感させられ、藪下たちも彼女を仲間に加えることに。

そして、真犯人と思われる、一花の自宅への侵入者の恐ろしい所業もまた露わに…。

その「不穏さ」に読み手も否応なく巻き込まれ、物語世界にからめとられる感すらあります。

報奨金という、3人を結びつける一見不確かな絆。

けれども、各々の複雑かつ怪奇とも言えるバックボーンがページをめくるごとに明らかになるに従い、「不穏さ」に立ち向かう3人の姿が読み手のこころを捉えて離さないのです。。。

これだけ、読み手を煙に巻くだけ巻いて、なかなか真相に迫る展開を見せない著者の老獪さは、ある意味空恐ろしくなるほど。

この物語の「真犯人」同様、底知れない能力と怖さを感じさせますね。

反面、物語の節々に挟み込む登場人物たちのやり取りで、重苦しさを「ガス抜き」させる巧みなストーリーテラーぶりは、一読の価値があると感じました。

かなりギリギリの線を突いた、サスペンスホラーテイストの物語でしょうかねぇ。。。

【以下、余談(ちょっとだけネタバレあり) 】




若い頃に亡くなった藪下の父と深い因縁のあった、幼い頃の淳太郎。

その父を含め、各々の「正義」から生じた「理不尽な現実」に、長い間翻弄され続けた3人。

「正義は多数派の意見で成り立つほど単純なものでもない」(261p)

「理不尽な現実」に人生を翻弄され、多くの紛争地域で血を流しているあまたの人々の正義も、やはり単純ではない…。

現実の人の「業」をも想起させるようなこの台詞、とても唸らされました。


一方、凄腕ハンターの一面を隠して上京した、一花の「正義」とは?

彼女の自宅が、私の地元でもある東京・江戸川区だったことは、その現れだったのかも知れませんね(;^_^A

(答えは本書をご覧くださいませ😅)

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