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長編連載小説「クラリセージの調べ」

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「澪標」鈴木澪の妊活編です。
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#不妊治療

連載小説「クラリセージの調べ」2-7

 皇太郎くんの陽性の連絡をもらってから、私は濃厚接触者として隔離生活に入った。結翔くんに…

may_citrus
5か月前
68

連載小説「クラリセージの調べ」3-1

 2週間後にようやく予約が取れた不妊治療外来は、待合室のソファが埋まるほど混みあっている…

may_citrus
5か月前
82

連載小説「クラリセージの調べ」3-2

 風呂掃除用のゴム靴を履き、バスタブと壁をシャワーで洗いながら、瑠璃子のことを考える。 …

may_citrus
5か月前
71

連載小説「クラリセージの調べ」3-3

 駅ビルのカフェは休日ランチを楽しむ若者があふれ、空気が華やいでいる。結翔くんが部活指導…

may_citrus
5か月前
65

連載小説「クラリセージの調べ」3-4

 朝晩の冷えが厳しくなると、空気に透明感が増す。玄関の掃き掃除をしながら、結翔くんと出会…

may_citrus
5か月前
68

連載小説「クラリセージの調べ」3-5

   絹さんの妊娠、毒のある言葉が鋭利な刃物のように胸に刺さり、何か安らぐものに触れたく…

may_citrus
5か月前
70

連載小説「クラリセージの調べ」3-6

※ 診察の描写は一例です。治療については専門医にご相談ください。  昨夜の濃厚な交わりの名残を脚の間に残し、内診台に乗る。シャワーを浴びられないので、臭いが気になる。  頚管粘液を採取する花房医師に、昨夜の営みを見透かされるようで身体が委縮する。介助の看護師が瑠璃子であることは、心強さと同時に、屈辱感も引き起こす。彼らは毎日数えきれないほど女の股を見ているので、そんなことを考えている暇はないだろう。だが、ここに乗る女は、自分のように感じているのではないか。  一旦待合室

連載小説「クラリセージの調べ」3-7

「何で瑠璃子が知ってるの……?」  瑠璃子の端正なマスクは、能面のように表情を失くしてい…

may_citrus
5か月前
68

連載小説「クラリセージの調べ」3-8

 情報は目に入るものの意味を変えていく。  後は焼くだけのグラタン皿二枚にサランラップを…

may_citrus
5か月前
61

連載小説「クラリセージの調べ」3-9

※ 治療シーンは一例です。治療については、専門医にご相談ください。  朝日がほんのりと差…

may_citrus
4か月前
73

連載小説「クラリセージの調べ」4-1

 結翔くんと私は、年始の挨拶のために、体温を測ってから、不織布のマスクをつけて私の実家を…

may_citrus
4か月前
83

連載小説「クラリセージの調べ」4-2

 アロマディフューザーから、クラリセージの香りが流れる。パソコンに取り込んだ曲から、クリ…

may_citrus
4か月前
81

連載小説「クラリセージの調べ」4-3

 スクリーンのなかで、上品な身なりの英国人の男女が、モーツァルトの音楽に合わせて優雅に踊…

may_citrus
4か月前
83

連載小説「クラリセージの調べ」4-4

 聞きなれた雀の声が一日の始まりを告げる。ベッドに横たわったまま、枕元に右手を伸ばす。一年以上続けている習慣なので、難なく婦人体温計を探り当てる。舌下に体温計を入れ、眠気に引きずられて目を閉じる。危うく寝落ちしそうになった頃、かすかな電子音に引き戻される。  寝ぼけ眼をこすり、示された体温を凝視する。アプリの予想では、一昨日で高温期が終わるはずだったが、昨日も基礎体温は高いままだった。どうせ、今日あたり下降すると思っていたが、予想に反して高いままなのだ。  私は基礎体温の