連載小説「クラリセージの調べ」5-7
残暑が落ちつき、風が爽やかになると、私は年末に迫る看護学校の入試への焦りから、母屋の手伝いと距離を置いた。9月に皇太郎くんの幼稚園が始まり、絹さんと義父母が赤ちゃんを中心に回る生活リズムに慣れ始めたことがそれを可能にした。
夫を父親にしてあげたい思いはあり、移植に踏み切るべきだとわかっている。だが、夫と裕美の密会現場、市川家への複雑な感情と瑠璃子の警告が幾重にも絡み合い、逡巡を続けている。治療に気持ちを向けようとしても、何年も授かれず精魂尽きたとき、自分に何が残るかと想