見出し画像

【中年学生日記 1】 きっかけ

芸歴21年、未だ日の目を見ることなく芸人を続けている。

でもいつか日の目を見ることを信じて

いや正直売れるきっかけを掴み損ねているどころか辞めるきっかけすらも把握できないまま続けている。

冒頭で日の目を見ることもなくなどと書いてしまったが実は全く日の目を見なかったわけでもない。

芸人として成功したとは言い難いものの、この仕事始めた早々から関西でテレビに出してもらっていたし、漫才の賞レースでも決勝行ったこともあれば、最近では2年前にTwitterで「鬱」の漢字の覚え方がバズり、漢字ドリルを出版するというなかなか難易度高めの技も繰り出せた。

なぜここで鬱の覚え方の動画を出したかを簡単に説明すると、きっかけは2015年あたりまで遡る。

2015年といえばM-1グランプリの出場資格である結成15年以内という規定をオーバー、つまり漫才によって世に出るチャンスはほぼ皆無となった年。

ずっと漫才ばかりやってきた自分たちの目標がなくなり、この先どうしていったらいいのか、どうやって世に出ていくのか、皆目見当もつかないお先真っ暗状態。

そんな中、マネージャーが変わった。変わったマネージャーもこれはヤバいと思ってくれたのか現状を打破するために宿題を提案してくれた。

僕には毎週10個ギャグを作るという宿題が、相方にはMCをする上で日本語をより知っておかなくてはいけないからと読書感想文の宿題と、漢字検定三級の受験を課した。

マネージャーが自腹で漢検のテキストを買って、それを高松に渡すときに言っていた言葉を僕は盗み聞きしていた。「一級取れればクイズ番組に売り込みにも行けるから」

この時に僕は相方に内緒で自分も漢検に挑戦しようと思った。僕も受けてました、なんでお前も受けてんねんというボケの為、

いやそれは実際建前で、本音は何がなんでも現状を打破しなければという危機感からくるものだった。

当然ギャグの宿題もこなさなければならない。僕はモチベーションを保つために宿題を発表するライブを開いてもらうよう懇願した。

僕がギャグを発表すると同時に相方も漢検の結果を発表する。そこで実は内緒で受けてた自分の試験の結果も発表。二人で合格して足並み揃えてクイズ番組出演へ邁進していくものだと思っていた。

宿題発表ライブ当日、ギャグの発表も打率3割程度で一通り終わり、漢検の結果発表のコーナーに移った。僕も実は受けてましたと伝えると予想通り、それはもう予想通り、上でも下でもない「なんでお前も受けてるの?」と返ってきた。

ここまでは想定通り。なんの滞りもなかった。しかし司会をしてくれてた後輩、コーヒールンバ平岡が持っていた、結果が入ってるであろう封筒を見てひっくり返りそうになった。

サイズが違う。

合格者には賞状も送付される。

相方の封筒は到底賞状は入らないであろうサイズ。

封筒を開封する前に相方の不合格が判明。

ライブとして盛り上がりはしたが、正直相方のその結果には愕然とした。

と同時に漢検一級とってクイズ番組に出演する目標は自分一人のものになった。

そして漢字の勉強を進め、漢検二級の勉強をしてる際に「鬱」と出会い、その「鬱」の書き方をギャグのようにし動画にし冒頭に繋がる。

そこから漢検一級目指して2021年3月、三回目の受験で準一級に合格した時に思った。

あ、これ一級取るのめちゃ時間かかりそう

生半可な勉強じゃ到底合格できない、それこそ受験勉強並みの時間の確保が必要だと思った。

そんな矢先、京都の子供に漢字を教えるという仕事を貰った。これは漢検取った甲斐があると興奮気味で臨んだがふと思った。

高卒の自分が偉そうに教えていいのかと。

仕事なので全力でやったがその葛藤は仕事終わった後も胸に引っかかっていた。

ある日、後輩のカモシダせぶんが書評バトルのライブのゲストに僕を呼んでくれた。

そこに出演していたエル・カブキの上田君が水道橋博士さんの藝人春秋を巧みな話術で紹介しており、まんまと引き込まれてしまった僕はライブ終わり、気づけば藝人春秋をポチっていた。

帰ってどっぷり読み耽っていると東国原さんの章に目が止まった。東国原さんといえば芸人から政治家へ転向、なんと宮崎県知事に就任し「どげんかせんといかん」と掲げ、東国原旋風を起こした。

しかしその数年前、スキャンダルによって仕事が無くなり、早稲田大学に通われていたことを知らない人も多い。

早稲田大学卒業後、大学院に進み地方自治を専攻されていたことをこの本によって知り、そこに何か芸人の艶っぽさを感じた。

そこで自分も大学に行き、例えば教員免許を取れば、高卒芸人が子供に教えるというジレンマも解消されるし、単純に箔もつくし、どこかでずっと感じていた高卒というコンプレックスも解消されるし、漢字の芸の発展にも繋がるかもしれないと思った。

一石多鳥という日本語があるかは置いといて、これはもうやるしかないと思った。

まずは教員免許が取れる大学から探すことにした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?