いじめたほうはおぼえちゃいない

大学在学中に妊娠、出産して
休学やら留年やらで卒業したのは25歳
世はすっかりバブルも終わって就職氷河期と呼ばれていた。

年齢高いうえに子どもつきで経験も資格もない女が苦労するのは当然で
しかも、なんもリサーチしなければ計画性もなかったもんで
卒業する直前の手あたり次第の就職活動
うまくいくわけもなく、
「こんなおばさんに仕事あるわけがない」
という失礼な物言いまで面接でされたり…。

そんなこんなで訳ありの中小企業や零細企業でしか勤務経験なく
30歳すぎてからはじめて働いた大手が
派遣社員としてはいったアパレルのA社でした。

職場によって雇用形態や
同じ契約名でも場所によって実態が異なりますが
A社では、正社員は一握りの大卒エリート
しかも課長以上はすべて男性(現在は違うと思いますが)
その下に短大家政科卒の20歳代の女の子たちが契約社員
契約社員といっても、雇用の期限もなくボーナスや福利厚生もしっかりあり
退職金がないのと、リーダー以上に出世する可能性がないことを除いては
ほかの会社の正社員とほぼ変わらない待遇のようでした。
(結構大きいか)

わたしが配された部署は室長のみ男性でほかは女性、
室長とグループリーダーの2人の女性が正社員で
ほか20名は契約社員、わたしをふくめ4名程度が派遣社員といった構成でした。

契約社員であるリーダー、わたしの直属の上司である女性Bと
そのひとと仲良くしていた派遣社員の女性Cが組んで、わたしに嫌な態度をとっていました。
短大出て結婚するまで働く、という女子が多かったため
その部署で働いているのはほとんど20歳代の子で
30歳代のわたしは「女が終わったおばさん」という視線をCは明らかに持っていました。

わたしにしても、短大卒で教養もない、ふつうのおばさん候補生の女の子たちを内心見下していた部分もありました。それも、彼女たちの反感をあおったことでしょう。

いじめとまではいえないかもしれませんが、わたしは「いじめ」ととらえていました。
短大で専門知識を学んできた彼女たちに対してまったくの門外漢で
イチからわかっていないわたしが質問しても冷たいことつれないこと。
二人でそろって明らかにわたしのことをバカにしているようにクスクス笑ったり
陰であれこれ話しているのであろう、女子らしいいやらしさで
合言葉のような言葉を言いあってケラケラ笑ったり。
気づかないふりをしてやり過ごしていましたが…。

Cさんは高校のころ拒食症になって精神的に病んだこともあったと言っていたけれど
自分のメンタルは弱いくせに、ひとを傷つけることはなんとも思ってないんだなあ、と不思議でした。

そのうち、優秀であったCさんが、優秀であるがゆえに
派遣社員から契約社員への話をもちかけられ
彼女なりの考えがあったらしく、断ったところからBさんの態度が激変。
それまでは「レズか」と思うくらいベタベタしていた二人のあまりの変わりよう。
いや女の世界の怖いこと。
BさんのCさんへのあからさまな冷たい態度でCさんおろおろ
わたしは
「へー、自分は平気でBさんと組んでわたしをあざ笑ってたくせに
自分が同じような態度取られたら、そんなにへこむのね」
と内心ザマミロといった気持ちでおりました。

Cさんはたちまち耐え切れなくなり、わずか2か月ほどで退職しました。

まもなくわたしも、Bさんからの理不尽な業務量の押し付けに耐えかねて退職しました。

その後、アパレルとはまったく関係ないところで働き始めたのですが
全くの門外漢から勉強をはじめた、当時その業界のひとは必須の資格
「TES(繊維製品品質管理士)」の試験を、退職してからも受け続け
無事合格しました。

わたしがA社に在職中に
早期退職制度に応募して退職され
知識と経験、人脈を生かして同業他社で活躍されながら
A社の有志にもボランティアでその資格試験の指導をしてくださっていたD元室長は
A社を退職してからも勉強を頑張っているわたしに感心してくださり
A社外で、A社の女の子とともにする勉強会の講師をボランティアでしてくださいました。

わたしが見事に合格した際には
「まったくの専門外からはじめて、しかも今は関係ない仕事をしているというのに、えらい」
ととても喜んでくださいました。
いまでもFBで友達で、コロナで外食がはばかられるようになるまで、
間はあいてもわたしの知っているA社の女子と一緒に食事に連れていってくださっていました。

2,3年ほど前の食事会で
Dさんは毎回、わたしが知っているA社の女の子たちを呼んでメンバー調整してくださるのですが
そうやってやってきたEちゃんとFちゃん
EちゃんのほうがCさんと仲良くて、いまだに連絡をとっているとのこと。
CさんはA社退職後、同業種の試験機関のようなところに就職したとはきいていたのですが、現在では結婚してお子さんもいるとのこと。
ところが、FちゃんがCさんにわたしのことを話したら、
「篠木さんて誰?まったく覚えてないんだけど…」
と、いくら説明しても思い出せなかったというのです。

いじめたことを覚えていないとはよくききますが
(いやそもそも、いじめた意識がないからか)
いじめた相手の存在すら覚えてないのか、とむしろ感心しました。
いやそれとも、無意識にわたしの存在を意識から消し去っているのかもしれません。
いずれにせよ、こちらが気にする価値のないひとなので、気にしないことにしました。

Bさんはいまだに同じ部署で健在だそうで、相変わらず女子全員から嫌われているようです。

外見についてうんぬんするのをよしとしない昨今ですが
Bさんはその醜い内面が外見に如実にあらわれているひとだと思います。
造作が美しくなくても、なんだか味があって魅力的なひともいるのに
あばた面で猿のような面相にさらに内面の醜さが加勢している。
といって、もう10年以上、顔をみていないので
いまどうなっているのかは知りませんが…。

自分はせめて、そこまで醜くならないように気をつけたいと鏡をのぞきこんでは、心持を見直す毎日です。


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