人生の選択

いまでは3児の母である上の娘と歩きながらあれこれよもやま話、
ふと、いまは亡くなった彼女の父親、わたしの元夫Iの話になった。

「一回だけ会ったけど、強烈だったな~。
『〇〇(わたしたちの住んでいる地域)には知り合いいっぱいおるしな、
なんかあったら言ったらいいしな』
って言われたけど、誰になに言ったらいいかわからへん!
そこらへんにいるひとにいきなり
『す、すみません!Iの娘です!助けてください』
って言えばいいの?漠然としすぎやわ~」
「まあ、なんか困ったことあったら、Iさんに相談したら、誰かに頼んでくれるっていうことやったんやろう」
「おもろいよな~」
「そうやねー。会わせるかどうか悩んだけれど、一度でも会わせてよかったわ」

反省はするけれども後悔はしないようにしている人生、
わりと決断力のあるほうだと思うけれど、
それでも、けっこう決断するまで悩むこともある。

まだ娘が1歳のときに
ちんぴらしゃぶ中マザコン男のIから逃げ出して
その後、優しい2番目の夫と一緒になり、彼との子もできた。

幸せに暮らしてはいたけれども、上の娘を実の父親に会わせるべきかどうかは、長年悩んでいたことだった。

上の娘が14,5歳くらいのあるとき、仲良くしていたIの弟(といっても、わたしより20歳年上だけど)にばったり会い、連絡先を交換してから、娘をIに会わせるのが現実的な話になった。
連絡をとるのは可能だけれど、会わせるべきか、会わせないべきか…。

血を分けた弟すらも、
「あんな人間に、会わすな!」
と言う。

それでも、自分だったら、記憶にない実の父親と一回くらい会いたいんじゃないだろうか。
人間、いつ死ぬかわからないのだし、一回くらい会っといたほうがいいのじゃないだろうか。

さんざん悩んだ末に、Iの弟に頼んで連絡方法を教えてもらい
連絡をとって、自宅ちかくの喫茶店で対面を果たした。

すでに店内にいたIは黒ずくめに黒のハット、相変わらず迫力の顔つきでギャングみたい。
明るい陽射しの差し込む喫茶店内で、彼の周りだけ、空気が異様だった。
娘は緊張して、あとで「なに言ってるか、ぜんぜんわからへんかった」。

「じゃ」
と店の前で別れたあと、迎えの者の車がすうっとやってきて、それに乗り込んで去っていった。娘と顔を見合わせて「あやしすぎる」。

わたしはその後、何回かIに会ったけれど、娘はその一回きり。
その1年半後くらいにIは癌で死んでしまったので、いま思っても、あのとき会わせておいてよかったと思う。

「こう決めて、よかったな」と思うことのひとつだなあ。
Iから逃げ出そうと決めたのも、大正解のひとつだけれど。

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ぼちぼち書いていきますので、しばしお待ちを。

いろいろ人生経験するなかで、やくざとのつきあいもありました。受け入れるひとは限られると思われることごとをこのマガジンに収録して、あえて課金…

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