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想い出の木の下で【詩】

君はもう忘れてしまっただろう。少し高い木を見れば、二人して競争のようにのぼった子どもの頃のこと。僕はいつも君には負けてばかりいた。のぼる速さも高さも、いつだって君のほうが僕より上だった。

悔しかったから、君がいない時に何度もひとりで練習したんだよ。それでも君には敵わなかったなぁ。今は、そんなことをして遊ぶ子どもたちの姿なんて、どこにも見られなくなったけどね。

ああ、そうだ。ついこの間、実家に帰った時に、例の広場の木に会いに行ってみた。そしたら、まだ枯れずに立っていたよ。見上げてみたけど、思ってたほど高く感じなかったんだ。僕が大きくなったからかな。

木のぼり競争をしている子どもの時の君の姿が、何となく目に浮かんできて、なつかしい気持ちになって、ちょっと手と足をかけようと思ったけど、こんなおじさんにはもう、のぼれないみたいだ。


(20220430/私之若夜=しのわかや)
※これは1年前に投稿した記事の再掲です。
 写真はCanvaからいただきました。