十八史略 ー帝堯ー     『千歳せんざいにして世をいとはば、去りて上僊じょうせんし、彼の白雲に乗じて帝郷に至らん』

『茆茨剪らず、土階三等』

『天下道あれば、物と皆昌さかえ、天下道なければ、徳を脩めて間に就く。

『千歳せんざいにして世をいとはば、去りて上僊し、かの白雲に乗じて帝郷に至らん』

中学生の頃、漢文の授業で十八史略の『鼓腹撃壌』のところを習った。とても印象に残っていて、恐らくは自分の漢文好きの原点はこの辺にある様な気がする。小中高大と行って、テキストの内容がそのまま頭に残っているなんて例は他にない。読み返したいと思っていたけれども、適当なテキストが無い。有朋堂文庫のものを一冊持っているのだが、古くて読むのに相応しく無い。フト思い立って、それをデジタルに書き写すことにした。スキャンすれば速くて簡単でしょと言われそうだが、古くて頭の硬い老骨は、こうと思ったらなかなか変えられない。それに、昔から文章を書き写すことは好きで、苦にならない。よし、十八史略をデジタルに転記してみよう、と思い立った。遅々として進まないけれど、苦にはならない。古代中華の始まりから、堯舜(皇帝)のところまで来るのが楽しみで仕方なかった。先日ようやく帝堯唐陶氏を写し終え、感慨深かったので、ここにさらに転記する。学校の教科書では、鼓腹撃壌で終わっていたけれど、その後の内容の方が餘程面白い。まあ、教科書を作った人たちは、鼻垂れに読ませてもわからんだろうと思ったのかな。

(この後、時間はかかるだろうが、唐の創業とか、三国六朝とか、宋とか楽しみな箇所がたくさんある)

帝堯陶唐氏


 帝堯陶唐氏、伊祁いき姓。或は曰く、名は放勛はうくん、帝嚳こくの子也。其仁、天の如く、其知、神の如し。之に就くは日の如く、之を望むは雲の如し。平陽に都す。茆茨剪らず。土階三等。 草有り、庭に生ず。十五日以前は、日に一葉ようを生じ、以後は日に一葉を落す。月小にして盡くれば、則ち一葉厭として落ちず。名けて蓂莢めいけふと曰ふ。之を観て以て旬朔じゅんさくを知る。
天下を治むること五十年。天下治まる歟か、治まらざる歟、億兆の己を戴くことを願ふ歟、己を戴くことを願はざる歟を知らず。左右に問ふに、知らず。外朝に問ふに、知らず。在野に問ふに、知らず。乃ち微服して康衢かうくに遊び、童謡を聞くに、曰く、我が烝民を立つるは、爾の極に匪ざること莫し(我々民草を立たせているのは、爾帝堯の至極の徳のおかげである)。識らず、知らず、帝の則に從ふと。老人有り、哺を含み、腹を鼓ち、壤を撃ちて歌ひて曰く、日出でて作し、日入りて息ふ。井を鑿りて飲み、田を耕して食ふ。帝の力、何ぞ我に有らん哉と。華に観る。華の封人曰く、嘻ああ請ふ、聖人を祝せん。聖人をして壽富じゅふうにして男子多からしめん。堯曰く、辭す、男子多ければ、則ち懼多く、富めば則ち事多く、壽いのちながければ則ち辱はじ多しと。封人曰く、天の萬民を生ずるや、必らず之に職を授く。男子多くして、之に職を授けば、何の懼おそれか之有らん。富んで、人をして之を分たしめば、何の事か之有らん。天下道有れば、物と皆昌さかえ、天下道無ければ、徳を脩めて間に就く。千歳せんざいにして世をいとはば、去りて上僊じょうせんし、彼の白雲に乗じて帝郷に至らん。何の辱か之有らんと。堯立ちてより七十年、九年の水有り。鯀こん、をして之を治めしむ。九載、績いさお、あらず。堯、老いて勤に倦む。四嶽、舜を擧げて、天下の事を摂行せしむ。堯の子丹朱不肖なり。乃ち舜を天に薦む。堯崩ず。舜、位に卽く。


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