徐横山曰仁先生の伝習録の前書(抄)


「先生は、全てを見透す驚くべき智見を持ちながら、気さくで明るく、格式ばったところの全くないお方である。
けれとも世間の人々は、先生の若かりし時、豪邁不羈の性格で侠客の間に出入りされた噂や、或いは詩文の世界に没頭されたり、かつては仏道や神仙の道に耽溺されたりしたことをもって、先生の主張に異を唱えた。皆、先生の主張をよく聞きもせず、訳もわからずただ、異を立て、奇を好むものとした。これは、先生が未踏の異域に砭謫(へんたく)3年に及び、困難の極みにも静かに徳を養い精神を練り、古学儒道の実践的工夫が殆ど聖域に達しており、純粋至極の境地に至っていることを全く考慮していなかったためである。
私は、日夜先生の門下に親炙させて頂きました。先生の道は、簡単なようでいて、仰ぎ見ようとすればするほど高く、大雑把なようでいて、これを詳しく極めていくとたいへん深密で、お側に居ると近しく、今にも手で触れられそうでいながら、ますます窮まりなき様に感じます」

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