十八史略 ー帝舜ー  『南風の薫ずる、以て吾民の慍いかりを解くべし』

 改めて読んでみると、古代の神話的な帝王の堯と舜にも短い文章の中にもその性格、個性の違いを際立たせている。それは、そうした個人の描写というよりは、もう少し普遍的な人々を包含しているように観える。普遍的な人々とその抱える問題を内含しながら、昇華している。理想的な帝王とその世界から少しずつ現実的な世界へと開ていくのか、堕落していくのか。

   『帝舜有虞氏』
 帝舜有虞氏、姚(やう)姓。或は曰く、名は重華(ちょうくわ)、瞽叟(こそう)の子、顓頊(せんぎょく)六世の孫也。父、後妻(こうさい)に惑ひ、少子象(しやう)を愛し、常に舜を殺さんと欲す。舜、孝悌の道を盡し、烝烝として乂(おさ)めて姦に格(いた)らず。歴山に耕すや、民皆畔を譲る。雷澤に漁(すなどる)や、人皆居を譲る。河濱(かひん)に陶するや、器、苦窳(くゆ)せず。居る所聚を成し、二年に邑を成し、三年に都を成す。堯之が聰明を聞きて、畎畝(けんぼ)より擧げ、妻(めあわ)すにニ女を以てす。娥黄(がくわう)・(女英ぢょえい)と曰ふ。嬀汭(ぎぜい)に釐(おさ)め降す。遂に堯に相として政を摂(せつ)す。歓兜(馬偏に隹(ふるとり)の雚)(くわんとう)を放ち、共工を流し、鯀を亟(きょく)し、三苗(べう)を竄ざんす。才子八元八愷(がい)を擧ぐ。九官を命じ、十二牧に咨(はか)る。四海の内、咸(ことごと)く舜の功を戴く。五弦の琴を弾じ、南風の詩を歌うて、天下治まる。詩に曰く、南風の薫ずる、以て吾民の慍を解く可し。南風の時なる、以て吾民の財を阜(おおいに)す可しと。時に景星(彗星)出で、卿雲(瑞雲)興る。百工相和して歌ひて曰く、卿雲爛たり、禮縵縵たり。日月光華、旦復また旦と。舜の子商均不肖なり。乃ち禹を天に薦む。舜南に巡狩して、蒼梧の野に崩ず。禹位に就く。

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