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第1章 邂逅 vol.4 二人

もう一人の同級生。

彼女のことはNと呼ぶことにする。今度は名字ではなくイニシャルだ。これにも理由がある。
前回、異性は名字で呼び捨てにするのが一般的だと書いた。ただ僕は彼女のことを名字で呼んだ記憶がない。かと言って名前で呼んでいたわけでもない。どういうことか順を追って説明していこう。

Nと初めて出会ったのも中学1年の時に同じクラスになったことがきっかけだった。彼女も僕とは別の小学校で、彼女と岡部は同じ小学校だった。当然のことながらこれは他の同級生も含めてのことだが、小学校時代の彼女らがどういう関係だったのかはまったくもって知らない。その上で中1当時のNと岡部はとくに仲良くもなく悪くもない普通のクラスメイトだったという印象だ。ちなみにNに関しても第一印象はまったく覚えていない。ただ最初の席替えで僕の隣になったのはNだったような気がしており、その可能性は岡部よりも高い。だから前回の記事で岡部と隣り合わせの席になったのが最初かその次の席替えと記載した。
そして席の配置がどうであったにせよ、一言で言えば当時の僕とNは馬が合った。あの時のしっくりといろいろなことがハマっていく感触は僕の人生において数えるほどしかない。まさしく「ツーと言えば」と呼ぶにふさわしい関係で、もう少しキザな言い方をするなら僕らの間には「誰も触れない2人だけの国(どこかで聞いたようなフレーズだが)」がたしかに存在していた。そこでは二人称が必要とされなかった。だからなのだろう、僕がNを名字や名前で呼ばなかったことは前述したが、彼女からも名字や名前で呼ばれた記憶がない。その意味で僕らが特別な関係だったことは疑う余地がない。例えとして自分の中ではしっくり来ていないが、昔の夫婦が「あなた」とか「オイ」といった二人称で呼び合っていたのを想像してもらうと第三者には分かりやすいかもしれない。そして時期的なことで言えば、おそらく僕が岡部のことを好きだと意識するようになる前に僕とNの関係は深まっていった。

「昔の夫婦」の代表的な人。念のために言っておくと僕はハゲていない。(サザエさん公式ホームページ画像を加工)

では僕がNに恋愛感情を抱いていたのかというと、肯定も否定もできないというのが率直な答えだ。小学生の好きと中学生の好きは異なるというのを何度か書いてきたが、Nに対しては小学生の好きの延長上にあったというのが実態に一番近かった。余談ながらポリアモリー願望についてはおそらくある方だと思っているものの、この時の2人に対する「好き」は明らかに種類が異なるものだったので、思春期における特殊な状況が作ったものだと今となっては思うようにしている。ただ本当のところは自分でもよく分からない。実はここについては別のアングルから話を深堀りすることもできるのだが、メインテーマから外れた話をこれ以上ややこしくしたくもないので割愛する。
そしてこれらの内容はだいぶ後になってから分析できるようになったことであり、中1当時の僕はその状況を客観的に見ることもできなければましてや他人に説明などできるはずもない。さらに無邪気なことに僕とNとの仲の良さはひけらかしもしないがとくに隠すこともなかったので、自然と周囲はそういう目で見るようになる。

今どきの中学生はどうだか知らないが、僕らの頃はとかく噂話が好きだった。ちなみにここでいう噂は色恋沙汰とほぼ同意義で要は誰と誰が付き合っているとかそういう話だ。間違いなく僕とNはクラスの中で最初に俎上に載った。ただ教室の中では絶妙なコンビだった僕とNだが、学校の外で会うこともなければ一緒に登下校をすることもなかった。なのでこの状況で「付き合っているか」と聞かれれば、ノーと答えるのが正解だろう。さらに言えば当時の僕は「付き合う」というのが具体的に何をするのかよく分かっていなかった。おそらく周囲もそうだったと思うが、要はみんなそれくらい子どもだった。周囲からNのことが好きなのかと聞かれればこの時期の男子特有の気恥ずかしさから「そんなことない」と答えていたが、その中には恋愛対象としては岡部のことが好きだという複雑で説明がつかない気持ちも若干入り混じっていた。そしてやいのやいのと囃し立てるクラスメイトの中の一人に岡部もいたのである。自分で言うのもなんだが、なかなか複雑な中学校生活を送っていたものである。
またクラスメイトの女子の中で僕とNの関係について最も執拗に聞いてきたのも岡部だったような記憶がある。もっともこれについては実際にそうだったというよりも彼女の一言が他の女子の一言よりも重いので印象に残っていることが原因かとは思うのだが。

こういった事情から中1の僕の学校生活における人間関係はNを中心に回っていた。そのためこの時期のNとの思い出なら今でも鮮明にいろいろと思い出せる。基本的には僕がちょっかいを出して彼女が応じる形が多いのだが、一度僕が持っていた男子向けのカンペンの蓋の裏側をかわいらしくデコられた(僕の知らないうちにカラフルなアルファベットのシールで僕の名前を作られた)という高木さんと西片的なこと(ご存じない方は「高木さん」でググりましょう)もあったりして、あのカンペンは周りにバレないようにしながら使い続けていた。他にも書こうと思えばいくらでも書けるのだが、それが主題ではないのであくまで一例だけにとどめておく。

大人向けの売場ということもあるだろうが、某店舗で見たらカンペンが一種類しか売っていなかった。

次回はこれも主題ではないのだが「噂」の話。

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