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コロナ禍で苦しむ飲食店の収益化サポート──「ノーコード/即日」リリースのモバイルオーダーシステム「applova」:KJ COMMONS・飯沼晃史

この記事は、GOB Incubation Partnersが運営する「GOBメディア」でも掲載しています。

新型コロナウイルスの影響で、飲食店はかつてないほど大きな打撃を受けました。「TableCheck」の調査によると、ゴールデンウィーク中の平均来店件数は昨年同期比と比べて90%以上減少。自粛が明けても、ソーシャルディスタンス確保に伴う席数の減少など、その影響は続いています。

その一方で、テイクアウトや出前が著しい伸びを見せており、新たな収益チャネルとして期待がかかっています。そうした流れに乗って、需要が高まっているのが、アプリを使って事前に注文、支払いを済ませる「モバイルオーダーシステム」です。

株式会社KJ COMMONS代表取締役の飯沼晃史(いいぬま・こうじ)さんは、コロナ禍で苦しむ小規模飲食店へ向けて、モバイルオーダーシステムを「ノーコード」で「即日リリース」できるサービスを展開しています。サービス展開の背景と、現在の取り組みを聞きました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。

KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

コロナ禍で打撃の飲食店へ、モバイルオーダーシステムで収益化サポート

モバイルオーダー(事前注文)システムは、あらかじめアプリから注文と決済を完了し、店舗で待ち時間なく商品を受け取れる仕組みです。マクドナルドやスターバックスコーヒーなど、近年多くのお店が導入しています。

米ではモバイルオーダー経由の売り上げが2015年(2900億)から2020年(3.9兆円見込み)にかけて10倍以上に成長。売り上げに占める割合も1%から10%にまで拡大すると見込まれています。

そしてこの流れは、新型コロナウイルス感染症の影響で、一層加速しました。外出自粛に伴い、テイクアウトの需要が増加。またソーシャルディスタンスを保つために店舗の席数を間引かざるを得ない状況になり、店外での売上が一層重要になったのです。

そこで、厳しい状況にある主に小規模飲食店に対して、店外売上の拡大を支援するために開発したのが、即日公開できるモバイルオーダーシステム「applova」(アプロバ)です(*必要情報の入力後、ウェブ版は即日公開可。アプリは、AppleやAndroidの申請期間が別途必要です)。

applova自体は、米サンフランシスコを拠点に活動するApplova Inc.が2017年に立ち上げたサービスで、米では数年前から提供を開始。すでに約1000店舗が利用しています。今回、私が代表を務める株式会社KJ COMMONSがその日本展開を主導することになりました。

「ノーコード」で「即日」アプリ公開

pplovaの特徴は「安価で、即日リリースできる」手軽さと、「ノーコードで立ち上げ、運用できる」使い勝手の良さにあります。

従来、飲食店が自店舗でモバイルオーダーシステムの開発を依頼しようとすると、安くても数百万程度の初期費用と、その後のサーバー運用費などが必要でした。また開発には半年程度の期間が必要になるため、小規模店にとってはかなり負担が大きいものだったのです。

対してapplovaでは、必要な情報をフォームに入力するだけで、最短即日でのアプリ公開が可能です。ノーコードで運用できるので、プログラミング言語などを知らない人でも、負担なくカスタマイズや、運用を続けられます。初期費用も1店舗当たり数万円からと、一般的なアプリ開発に比べて安価での立ち上げが可能です。

機能的にも、注文管理やメニューの追加、ドライブスルーへの対応、ユーザーへのプッシュ通知など、一般的なモバイルオーダーの機能は網羅しています。

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(画像:フォームに沿って必要な情報を入力するだけで、アプリを公開できる)

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(画像:注文の流れ)

自店舗でアプリを持つことで、ユーザーフレンドリーを実現

もちろん、自前でアプリを作る以外の選択肢として、大手他社のデリバリーアプリへの掲載も考えられます。自店舗での運用が不要で、アプリが持つユーザー基盤からの送客を期待できる点は大きなメリットでしょう。

一方で、アプリに掲載すればお客さんが来るといった簡単な話ではありません。大手デリバリーアプリの場合、まずアプリ内で競合店との比較検討に勝たなければいけません。しかもこのアプリ内での掲載順には、いわゆる“アプリ内SEO”が働いており、小規模店は、下の方で埋もれてしまうケースも少なくありません。

またこのような他社サービスを利用する場合、その分の手数料を商品に上乗せしなければいけません。例えばあるチェーン店では、店頭で500円程度の商品をデリバリーアプリ内では800円で販売していたりと、顧客側に金銭的な負担を強いています。今後、その顧客とのサステイナブルな関係を続けたい場合、自店舗でシステムを持つ方が利があると言えるでしょう。

自店舗でアプリを持った場合、確かに送客の面では既存のユーザー基盤こそありませんが、工夫次第でファンを獲得することはできます。例えば、今後私たちが実装しようとしている機能の1つに「テーブルオーダリング」があります。これはお店のテーブルにQRコードを設置し、そこからアプリを利用することで、できるだけ距離をとった状態で注文が可能になるシステムです。

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(画像:テーブルオーダリングの流れ)

これなら、店舗に来てくれた顧客に対して、広告費などをかけることなく、自然な動機でアプリをダウンロードしてもらうことができます。ダウンロードしてもらえれば、その後はプッシュ通知などを活用して、顧客へ店舗の魅力を訴求し、リピートにつなげることができます。

コロナ禍で、友人である米創業者からのチャットに、「これは運命だ」

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(画像:Applova Inc.創業者のディネッシュ・サパラマドゥ(写真左)と飯沼さん(右))

私が今回、日本でapplovaを展開することになったのは、コロナ禍での、創業者のディネッシュ・サパラマドゥとのチャットがきっかけです。

ディネッシュとは、以前スリランカ出張時にイベントで知り合い、それ以来、彼が日本に来たり、私が向こうへ行ったりするたびに、お互いの事業や開発中の新サービスの構想をシェアし、アドバイスし合う仲でした。

コロナ禍では連日、報道やネット上での不確かな情報で、多くの人が不安を感じていたと思います。健康面についてはもちろんですが、経済的な影響もかつてないほど大きく、多くの企業が苦境に立たされることになりました。次から次へと企業が倒れていくさまを見て、私自身も「何か考えろ。逆境の中で自分が貢献できることがあるはずだ」と眠れない日々が続きました。

そんな時に、ディネッシュから何気ない雑談のチャットが来ました。その瞬間に、メッセージも読まずに「これは運命(シグナル)だ」と思ったのです。そこで、彼と以前から話をしていた飲食店向けのサービスが頭に浮かび、現在の社会で本当に必要とされていて、自分がワクワク感を持って貢献できる分野はこれだ、「やるなら今しかない」と私から日本展開の話を提案しました。現在は、米国とスリランカを拠点にしている開発チームとコミュニケーションをとりながら、サービスの開発を急ピッチで進めています。

初起業は19歳・上海で、その後5社立ち上げを経験

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(画像:上海での初起業(写真左が当時19歳の飯沼さん))

私自身の事業立ち上げの経験はこれが5度目になります。

1度目の起業は19歳の時です。早稲田大学の先進理工物理学科に入学後まもなく、リーマンショックを経験しました。当時19歳ながら、人間が作り出した金融経済モデルによって、当の人間が暗い顔をして生きている様子に、強く危機感を持ったのを覚えています。

これは何とかしなければいけないとの思いを強くして、衝動的に大学を退学。当時、「ネクストイレブン」(BRICsの次に成長してくる11の新興国を指す)と呼ばれ、世界中から多くの起業家が集結していた中国の上海へと向かいました。最初に立ち上げたのは、今で言うところのブロックチェーンのような分散型の“公開”台帳サービスでした。お金の稼ぎ方と使い方で人となりのセンスが出ると考え、それを可視化するプラットフォームを作ろうとしたのです。

というのも、リーマンショック前は「年収2000万ある」とか「うちの会社の売上が10億突破した」とか、個人も会社も数字の多寡が比較の基準になっていました。しかしリーマンショック後にその流れが変わり、ソーシャルビジネスが台頭。私たちが社会に出て行くタイミングでは、数字ではなくやりとりされる感情の価値、つまりお金の稼ぎ方と使い方にその人(会社)のセンスや人格が表れ、それを起点に共感者が生まれ、コミュニティが出来上がる流れが訪れると感じていたためです。

ただ、当時は経営について何も知らないどころか、請求書の出し方すら知りませんでしたから、やはりそううまくはいきませんでした。

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(画像:当時25歳で、バングラデシュにて開発会社を創業)

その後は、中国やベトナム、バングラデシュのエンジニアたちと一緒にソフトウェア開発の会社を立ち上げ展開。その他、韓国やアメリカでIoT関連の事業を手掛けるなど、基本的にはIoTとソフトウェア、海外の文脈で連続的に事業を立ち上げてきました。

どのチャレンジも、その根本にある自分のミッションは今も昔も「ラブ&ワクワク」。今回もそれに従った結果の決断です。私としては、コロナ禍を、ある意味では貨幣の形や人類の働き方が変わる“チャンス”と捉え、自分の力を発揮していきたいと考えています。

月1000店舗の登録を目標に、ハンズオン型でのセールスを強化

今後の展望については、まずは1年後に月1000店舗、新規でアプリを利用する飲食店の獲得を目標として、営業体制やマーケティングチームの整備を進めていきます。

applpvaの使いやすさや手軽さには自信を持っていますが、それでも実際にサービスを使ってもらうためには、かなり地道な営業が肝になると思っています。ノーコードでアプリを作れると聞くと、私たちのような業界にいる人にとっては簡単で手軽に思えますけど、慣れていない飲食店の人にとっては、やはりハードルが高いと思うのです。

1軒ずつ訪問して、「ここにこれを入力してください」とハンズオン型でのセールスが必須です。すでに営業チームや代理店向けのトレーニング動画を揃えたので、この1年は、ひたすら地道に営業を続けようと思います。

もっと長期的な目線で言うと、飲食店に新しい付加価値をつけたいと考えています。

人が料理を食べるという行為は、1日に複数回、物理的にも精神的にもアプローチできる特殊なドメインです。長い時間をかけて育てられた食材を、料理人が調理し、それを食すという過程で、食材が人の身体の一部に変換され、外に排泄される。この中で、人は自然と調和すると同時に、食事を通じて笑顔になったり、幸福感を得たりすることができます。この物理的、精神的どちらにも作用する一連の循環は、本当に美しいと思うのです。

だからこそ、今回コロナ禍によって、そうした“幸せの循環”を担う人々が苦戦を強いられているのを見て、何か手助けをしたいという思いに駆られました。

大きく社会が変化している中で、例えばさらにセンシング技術などを使って、食事前後の人の容態や気持ちの変化を可視化するようなことも想像しています。そうすれば、価格や口コミといった従来の価値軸とは異なるバイタルデータによる情緒や感情価値の側面から、飲食店ごとの新しい“自律”と“共同体の創造”を後押しできるかもしれません。

株式会社KJ COMMONSの詳細はこちら

applovaの詳細はこちら(英語版)

取材、執筆:「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム」運営事務局(GOB Incubation Partners)

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