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『フィールド・オブ・ドリームス』が切ない  新見正則

一人娘が帰省しました

4月に巣立った一人娘が短い夏休みを利用して帰省しました。4ヶ月前とは見違えるように大人になって、なんだか自分の娘ではないようです。「親」としてお役目の一つが終わったように感じました。

8月12日はアイオワのトウモロコシ畑の中に作ったスタジアムで年に一度メジャーリーグの試合が開催される日でした。昨年から行われているもので、立派になった娘と一緒に見ました。シカゴ・カブスとシンシナティ・レッズの試合で、シカゴ・カブスで4番を打った鈴木誠也選手の活躍も見事でした。

『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台

アイオワのスタジアムは、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台であるトウモロコシ畑の真ん中にある野球場のセットの横にメジャーリーグ対応のスタジアムとして作られたものです。

映画『フィールド・オブ・ドリームス(1989年)』は、
「If you build it, he will come」
(トウモロコシ畑に野球場を作ればきっと帰ってくる)
という謎の声を聴いて、主人公レイがトウモロコシ畑に野球場を作ることから始まる物語です。

このトウモロコシ畑はレイの奥さんの故郷があるアイオワに奥さんの希望で購入した土地でした。レイの父親ジョンは第一次世界大戦のフランス戦線から帰国後シカゴに住み、その後にニューヨークに転居し、そこでレイが生まれました。

ジョンは若い頃にはメジャーリーガーを目指していましたが、
2年間のマイナー生活の後、メジャーリーガーになる夢が破れていました。

レイが大学に入る頃から父親ジョンとは疎遠になり、その後は父親の葬式まで会うことはありませんでした。
(このあとのお話は、ぜひご自身で観て下さいね。)

以前の自分にはわからなかったもの

以前にもなんとなく見たことがある映画でした。
謎の声が聞こえてきたり、すでに亡くなったたくさんの野球選手が幽霊として登場したり、その幽霊がレイと家族にだけは見えるなど、自分事として理解できない映画でした。

結論から言うと、若い頃の僕にはよくわからない、面白くない映画だったのです。そこで今回は8月12日のメジャーリーグの試合の前に、
ちょっと真剣に見たのです。
そして、なんだか心を打たれたのです。

僕と父の思い出

僕は浪人を経て医学部に入ってから父親とだんだんと疎遠になっていきました。
勉強が忙しいという口実で、子どもの頃のような無邪気な楽しい会話は激減し、
ほとんど口を利かない関係が父の死まで続いていたように思えます。

小学校の頃はちょっと貧乏な時期もありましたが、
その後はほぼ不自由なことなく過ごさせてもらいました。

浪人時代の予備校の学費だけでなく
歴史がある国立大学の医学部と慶應義塾大学医学部に合格した際には
学費がちょっと高い慶應への入学も許しくれました。

でも、だんだんと父とは疎遠になっていきました。

楽しい思い出もたくさんあった

父親との楽しかった思い出は、
貧乏だった小学校の頃、将棋で父親に勝てるようになった頃のことです。
父親の本当の趣味は囲碁でしたが、僕は囲碁はあまり興味を持てませんでした。

一緒に舗装されていない家の前の道路でキャッチボールもしてくれました。

それから約20年後。
オックスフォード大学留学中に父と母で尋ねて来てくれました。
そのときに父親のライフワークでもあったミミズと水の話を聞きました。
最後の本当に良い思い出の時間でした。

うれしくて、さびしい。複雑な気持ち

僕の現在のなんとなくの心配事は、立派になった娘が僕という「親」から、
僕が自分の父親に取った行動と同じく、疎遠になるのではないかということです。

立派になるのですから、娘に自分の世界が増えるのは当然のことです。
でも、急に巣立って立派になってしまったので
ちょっと当惑している自分がいるのも事実です。

今わかる、父の気持ち

還暦を過ぎて、子どもを一人前に育て上げるという「親」の仕事が終わったように感じると、なんだか寂しさに襲われます。

僕も遙か昔に亡くなった父親に会いたいのです。
僕が「If you build it, he will come」という謎の言葉を聞いたら、
何を作れば父親に会えて、
そしてキャッチボールや将棋ができるのでしょう? 

むしろ、僕が父親に会いに天国に逝く日が来るのかもしれません。
そんな複雑な思いに襲われたお盆休みでした。


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