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イグノーベル賞の思い出  新見正則

今年も日本人が受賞!

イグノーベル賞はハーバード大学の大講堂で
ノーベル賞受賞者も参加して授賞式が行われます。

イグノーベル賞の選考にもノーベル賞受賞者が何人も参加しています。
人を笑わせるが、実は素晴らしい内容のある研究に贈られる賞です。

じつは僕も9年前の2013年、イグノーベル医学賞を頂きました。
人と変わったことを長くしてきたので、
イグノーベル医学賞を頂けたことは本当に光栄でした。

僕の研究は「大脳と免疫」

僕がイグノーベル医学賞に輝いた研究は「大脳と免疫」の関係を調べたものです。

病は気からを僕は間接的に証明した研究です。
大脳が免疫系に関与することは実臨床では経験されますが、
まだノーベル賞にはなっていません。

オペラ椿姫を心臓移植したマウスに聴かせると拒絶反応が抑制され、
通常では8日で止まる移植された心臓が、100日近く拍動を続けました。
つまり免疫制御細胞がしっかりと誘導されていたのです。

エンヤの音楽、津軽海峡冬景色、小林克也の英語の授業、地下鉄工事の騒音、
尺八の音色などはまったく無効。
単一音はどれも無効。
鼓膜に障害を加えて音が伝わらないようにしたマウスではオペラ椿姫も無効。

オペラ椿姫を聴かせたマウスは何度実験を行っても、ほとんどが有効で
再現性が確認されました。

オックスフォードでの偶然

この実験に辿り着くにはたくさんの偶然が重なっています。
まず、1993年から5年間、僕はオックスフォード大学博士課程で研究者の素養をたたき込まれていました。
マウスの心臓移植に僕は当初、2時間近くかかっていました。
オックスフォードの2年ほどで約30分で手術が終了できるほど上手くなりました。
当時、僕は世界一マウスの心臓移植が上手だと自負していました。
いろいろな大学に手技を教えにも行きましたよ。

マウスを置いた場所で実験結果に差がある!


そんなオックスフォード大学での実験中の出来事です。

当時、僕は20匹近い移植も1日で行うことができました。
そして何も処置をしないマウスに心臓移植を行う実験群を作製する日。
偶然は起こりました。

マウスの飼育室にマウスのゲージ(入れ物)を置くのですが、
その日、並べて置くスペースがありませんでした。
大きなゲージにはマウスは10匹まで入ります。
20匹の手術を行ったので、ゲージは2つ。
致し方なく空いているスペースにゲージを置きました。
1つは出入り口のそば、もうひとつは出入り口から遠い遙か奥の棚でした。

すると、奥の棚に置いたゲージに入っていたマウスは心臓が通常通り8日で止まったのですが、入り口に近い方のマウスの心臓は8日では止まらず、なんと何匹かは15日近くまで移植心が拍動しました。

ちょっと不思議な経験でした。
そのとき、環境によって何か変わることがあるかもしれないと直感で思いました。

さらなる偶然が重なった

そして1998年に帰国し、大学で移植免疫学の研究室を構え、中国からの留学生を迎えて、そして研究費も比較的潤沢にあり、研究室は活気に満ちていました。

そんな折、中国からの留学生が「先生、マウスが余ったのでなにか面白い実験をしたいのですが・・・」と相談されました。

そこで、目の前にオペラ椿姫のCDがあったので
「このCDをずっと移植したマウスに聴かせてくれますか?」と尋ねました。
即答でOKをもらいました。

するとその5匹のマウス達は、移植された心臓を20日以上拒絶しなかったのです。

自分でも驚く偶然が重なるラッキー

まったくのセレンディピティです。
偶然の重なりです。
たまたま目の前にオペラ椿姫のCDがあったので実験は成功しました。
エンヤや津軽海峡冬景色などのCDでは失敗していたのです。
ネズミが余って面白い実験をしたいとの申し出がなければ、
こんな実験は行えませんでした。

論文の採択にも偶然が重なる

不思議の連続でこの結果が英文論文になりました。
移植分野での最上位の論文は「Transplantation」という雑誌です。
査読の結果は「タイトルからオペラ」を外せば掲載するというものでした。
僕はこの論文はタイトルにオペラがあるからこそ面白いと思ったのです。
そして他の雑誌が採択してくれて英文論文になりました。
オペラがタイトルになければイグノーベル医学賞も頂けなかったでしょう。

そんな偶然の産物で、嬉しい賞を頂いたのは9年前です。
新見正則医院にはイグノーベル賞の部屋も用意してあります。
賞状や賞品を飾ってあるのです。
これからも面白くて役に立つ研究を行いたいと思っています。
セレンディピティが続く限りね。


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