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漢方の本当の魅力  新見正則

漢方薬との出会い

僕が漢方薬の勉強を始めたのは1998年です。5年間のオックスフォード大学の留学を終えて日本に帰国し、本邦初の保険診療によるセカンドオピニオン外来を大学病院で始めました。

そして、西洋医学の限界に気がつき、漢方を致し方なく使用しました。「致し方なく」の意味は、まったく効くとは思っておらず、そしてサイエンスがなく、当時の僕には胡散臭く映ったからです。しかし、漢方薬はなんと保険適用されているのが魅力でした。臨床試験なく超法規的に保険収載されています。

漢方薬は外来の潤滑油

漢方薬を実際に使ってみると「外来の潤滑油には使える!」という印象でした。自然経過で治ったのか、漢方薬が効いたのかが判然としないこともありますが、西洋医学が限界の時に次の選択肢にはなります。

そして、いろいろ使っているうちに、もっと漢方を勉強したくなり、松田邦夫先生に陪席(外来を見学)する機会に恵まれました。松田邦夫先生との出会いは本当に幸運でした。

松田邦夫先生が教えてくれたこと

松田邦夫先生は常々「いろいろな漢方があっていい!」と仰っていました。松田邦夫先生に習ったことは、「どんなに上達してもすべてが最初から当たることはない」ということでした。「処方に診断させながら、順次処方を変更すればよい」という誰もが知らないような内容でした。

そして、松田邦夫先生の診察の多くは電話診療でした。腹診や脈診、舌診などの漢方診療も実は必須ではないのです。つまり、症状から漢方薬が決まるはずです。

松田邦夫先生の外来を徹底的にパクった(TTPした)結果を一冊にまとめました。ロングセラーの「フローチャート漢方薬治療」です。この本に紹介されているのは、なんと日本漢方(和漢)の名医である松田邦夫先生の処方方法です。当然ですが、現在に至るまで数十回の増刷を繰り返していますが、大きな間違いは一切ありません。是非とも、漢方にご興味のある医師や薬剤師、そして一般の方もお読みください。

僕のロングセラー!

中医学を学ぶために中国語も勉強したよ

そして、僕は中医学も勉強したくなり、中医学の教科書を探しました。ところがなかなか僕にフィットするものがありませんでした。中国では中医学を5年間かけて勉強します。中国で学ぶ5年分の分量を網羅する書籍が日本にはないのです。中医学の表面をサラッと語った書籍は複数存在します。そこで、僕は中医学の書籍を中国語で読む決心をしました。そのためにまずは本気で中国語を勉強しました。60歳に近い年齢から始める語学でしたが、なんとか中国語の試験の上から2つ目(HSK5級)には合格しました。

中医学の達人、崔衣林先生

中医学を極めた崔先生に伺うと、日本の西洋医が中医学を本気で学ぶには5年は不要だが、4年は必要と言われました。崔先生は北京中医学大学を卒業し、その後、修士課程と博士課程も修了している中医学の達人です。

僕がちょっと、いや本気で勉強してもとても崔先生の足下にも及びません。僕が中医学を勉強してわかったことは、中医学は薬能をしっかり語っています。薬理は西洋医学的な単一成分の効果です。薬能は生薬や漢方薬のような多成分系で複雑系の薬剤の効果で、なかなか説明が難しいのです。それを中医学は説明しきっています。

日本の漢方(和漢)と中医学の違い

僕の理解では、日本漢方の方証相対という作戦は、処方と症状が相対するという意味合いで、それをつなぐ薬能を排除しています。中医学では弁証論治で薬能を語ります。

中医学は僕たちが作ってきたフローチャート漢方薬シリーズとは正反対です。一方で、方証相対を基本とする和漢は、実はほとんどフローチャートなのです。

ひょっとして、中医学もフローチャートになるの?

僕は突然、中医学もフローチャートにならないかと思い立ちました。普通に考えたら無理ですよ。しかし、もしもフローチャートになれば、中医学への門戸も広がりますね。

146種類の保険適用漢方エキス製剤を使い分ける日本の保険医療と、生薬エキスや刻み生薬の無限の組み合わせを愉しむ中医学では、新しい薬剤の開発という面からも、歴然とした差が生じます。保険適用漢方エキス製剤は漢方の進歩の終焉の始まりと最近は思うようになりました。


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