見出し画像

エビデンスがあるという意味  新見正則

エビデンス=証拠

エビデンス(=証拠)という言葉をテレビなどでも耳にすることが増えました。
発言していることに証拠があるかということですね。

医療界のエビデンスは、そのレベルによって数段階に分かれます。
僕が好きな分類はアメリカ臨床腫瘍学会のレベル分けです。
5段階に分かれていて、エビデンスレベルが低いものがレベル5です。
信頼性がもっとも低い証拠という意味合いです。

なお、患者数が多いというのは1,000例規模を意味します。


レベル5は、1症例の報告(体験談)、動物などの基礎研究。

レベル4は、2例以上の症例報告。

レベル3は、ランダム化されていない症例数の多い臨床試験。

レベル2は、患者数の少ないランダム化された臨床試験。

最上位のレベル1は、患者数の多いランダム化された臨床試験。

レベル5の意味

レベル5の臨床研究が基本的に役に立たないことが多いのは、
動物では有効でも、人間で有効かどうかは不明だからです。
動物実験は将来の人への応用のための研究で、
それをもって人に有効だと結論することはできません。

エビデンスレベルが高いという意味

エビデンスレベルが高い臨床試験はランダム化されています。
人はある薬を投与されると、効果がないもの(水など)でも
有効に感じることがあり、そして実際に有効なこともあります。
これをプラセボ効果といいます。

このプラセボ効果を排除するために、いったん患者さんの希望は無視して
強制的にランダムに薬を内服する群と、内服しない群に分けます。
そのうえで、症例数が多い研究が最上位のレベル1となります。
症例数が多い方が、信憑性が高いということです。

赤い当たり玉と白いハズレ玉

AとBの2つの箱に100個の玉が入っているとしましょう。
その中には、赤い当たりの玉と、白いハズレの玉が入っていて、
赤玉と白玉を合わせると100個です。

臨床研究とは、その箱の中の赤い当たり玉が
Aの箱と、Bの箱のどちらが多いかを決めるものです。

ですから、1人がAの箱の中に手を入れて、
赤い当たり玉を拾い上げたからといって、
その箱がBの箱よりも当たりの赤玉が多いとは言えません。

医療ではプラセボ効果のほかに、自然に回復する力もありますので
実際、どの箱にもある程度の当たり玉は入っているのです。

ですから多くの人に当たりの赤玉が出れば
その箱には当たりが多く含まれていると推測できるのです。

ランダム化された臨床試験の本当の意味

エビデンスレベルが一番高い(レベル1)のランダム化された臨床試験で
イメージしてみましょう。

薬を使わない箱よりも赤い当たり玉が多く入っているということです。
そこにどのくらい当たりが多く入っているかは実は無関係です。

つまり、Aの箱には100個のうち90個が当たり玉、
Bの箱には95個の当たり玉がはいってれば、
明らかに差があることになります。

ところがたった100個のうちの5個の違いだけです。

何もしなくても20人のうちの18人が当たりを引きます。
薬を飲むとその確立が、20人のうちの19人に上がるだけです。
つまり20人のうちの1人だけに御利益があることになります。

有意差5パーセントを実際の乳がん医療で考えると

10年生存率が90%の乳がんの手術後に、抗ホルモン剤を使用して10年生存率が95%にアップする場合に該当します。

5%、つまり20人のうちの1人になれるかを期待して
10年間抗ホルモン剤を内服するかということです。
つまり20人中のお1人は抗ホルモン剤を飲んでも不幸な結果になる。
18人は飲んでも飲まなくても好ましい結果になるのです。

副作用がまったくなければ、経済毒性だけの話になります。
それなら飲むという選択をする人も多いでしょう。

経済毒性も高く、副作用も相当だとしたら
どれだけの人がこの薬剤を選ぶのでしょうか?

有意差5パーセントというだけで

ところが、医療では5%の意味にはあまり触れずに、
エビデンスレベルが最上位だから、是非とも治療をしましょう
という展開になります。

エビデンスレベルは箱の中の当たりの玉に差があるということを示しているだけであって、当たりの玉がどれだけ多いのかには触れていないのです。

自分のもっている運もじつは大事

医療で一番大切なものは運です。

ご自身は運がいいと思うなら、
5%の御利益では医療を選ばない人も多いのです。

これが30%の御利益アップなら、その医療を選択する人は増えますよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?