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最高の食事  新見正則


人生最高の食事がテーマだよ

60年以上生きて、たくさんおいしいものを頂いてきました。そのおいしいという感覚は相対的なものです。つまり、いままで食べたことがないようなすばらしい食事がおいしいと感じる食事ってことです。

ひとに与えるしあわせ

子どものころは裕福ではありませんでした。父の不定期な収入に左右されていました。両親は収入があれば相当額を「お布施」と称して複数の寺や人に配っていました。相対的に貧乏であってもお金を人に配るという感覚、僕はなかなか実践できません。そしてそんなことを自然に行っていた両親を尊敬しています

ショートケーキへの憧れ

そんな貧乏な時代に、ときたま誰かのお土産で食べるショートケーキは本当においしかったですよ。今はコンビニで簡単においしい甘いものがとても安く手に入ります。でも昭和の中期は、まだまだ一切れのショートケーキが贅沢品でした。クリームにバナナか一本まるまる埋まっているケーキの味も忘れられません。

松葉ガニに舌つづみ

小学生の頃、正月は両親がお布施をしていた久留米のお寺で過ごすこともありました。そこに住み込みの若いお坊さんがいて、そのご実家の福井から届いた松葉ガニを頂いた時のおいしさは今も鮮明に覚えています。松葉ガニなど当時は食べたことがありませんでした。至福の時でした。

トニーローマの感激

浪人時代を経て、医学部に入って、先輩に千代田区三番町にあるトニーローマというリブの一軒家のレストランに連れて行ってもらいました。トニーローマのバーベキューソース味のリブは、衝撃的ですよ。

40年近くが経過しましたが、お店は今も健在です。
なんと新型コロナウイルスショックのお陰で、ウーバーイーツで自宅まで運んでくれます。そして、ほぼ40年前と同じ味を自宅で堪能できます。

ただ、40年前の超感動はないのです。「今回も美味しいな」ということです。

研修医の特権

その後、大学を卒業して研修医になりました。当時はほぼ無休です。厳しい生活には間違いなかったと思いますが不満っていう雰囲気もなく、皆で楽しんでひたすら働く時代でした。僕のいたチームは若い医師にはおいしい食事を無償で提供するのが慣例で、それに習っておいしいものだけはたくさんいただきましたよ。

最後の晩餐は家内のポトフ

そして1993年から5年間オックスフォード大学博士課程に留学しました。当時のイギリスは食事がまったくおいしくありません。いまでもそんな雰囲気は残っていますが、おいしいレストランが増えました。しかし当時はおいしいレストランなんて本当に皆無。オックスフォードでは本当に皆無でした。当時の僕にとって家内のお手製のポトフは本当においしく、思い出の味です。死ぬ間際に食べたいものも「家内の手作りのポトフ」でした。

いつしか贅沢に慣れて

帰国して20数年が経ちます。今、もう一度食べてみたいと思うのは、麹町にあった行きつけのお寿司屋さんのお任せメニューです。そこのお店のお寿司はちょっと特別です。何度か通ううちに店主と親しくなり、メニューにない超おいしい特別な品を出してもらっては、少し多めのお礼を置いてくる、そんな関係になりました。いまは店主が変わってしまい、もう食べられません。

スティーブジョブズと同じ席!

ある時、「その角の席は、スティーブジョブズが座る席だったよ」と教えてもらいました。顧客情報は漏らさないのがお店の作法ですが、不幸にも膵臓癌で亡くなったあと、そんなことも教えてくれたのです。

人と比べず、過去と比べず、いまを味わう

結局はおいしいと感じるのは相対的な感情です。幸福感も相対的と思っています。昔は過去の自分と比べてよくなっていれば本当に幸せでした。自分のなかでの比較です。ところが今は他人と簡単に比べられる時代になりました。他人と自分を比べると僕は自分が不幸になると思っています。自分の進歩、自分のいまを味わって楽しめる人生を歩みましょう。

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