この世は運がすべてだよ 新見正則
大谷選手の運気はすごいよ
先日、大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースがワールドシリーズでニューヨーク・ヤンキースに四勝一敗で勝ち、世界一の座につきました。大谷翔平選手がロサンゼルス・エンジェルからドジャースに移籍して1年目での達成です。大谷翔平選手はワールドシリーズに出場することを、そしてそこで勝ち抜き世界一のチームでプレーすることを夢見ていました。その夢が叶ったことになります。
努力、才能に勝る運気
何かを叶えるのに大切なことは、努力と才能と運です。頂上に近づけば近づくほど運が占める割合が増加します。大谷選手はワールドシリーズ第2戦で左肩亜脱臼という怪我をしました。それでも試合に出ることができ、そしてチームは優勝しました。大谷翔平という人は運に恵まれていると思っています。彼ほどの才能と努力をしている人は少ないでしょう。しかし、それだけでは頂点には辿り着けないのです。
善行が運気を上げる?
僕は日々の善行の積み重ねで運気が上がると思っています。大谷翔平選手を見ていると、まさにそう思えるのです。「徳を積む」という言い方が適切なのかもしれません。「徳を積む」ことで運気が増すというエビデンスはありません。科学的に証明できない領域です。でもそんな領域が実は超大切なのです。
エビデンスの積み上げ努力
医療の世界ではエビデンスが大切です。もっとも信頼性に足るエビデンスは1000例規模のランダム化された大規模臨床試験です。これは米国腫瘍学会のエビデンスピラミッドの頂点にあるものです。がんに例えると、がん患者さんを1000人集めてクジ引きである治療を行った群と行わない群に分けます。そして生存率で有意差が出れば、その治療は行った方が生存率向上に寄与すると結論されます。そして、エビデンスが明らかな治療を組み合わせることでがん治療は進歩し、がんは不治の病ではなくなりました。
成功率を上げるために
医療サイドはいろいろな治療のピースを組み合わせることで治療の成功率を高めているのです。100個の玉が入っている箱があり、赤玉が当たり玉で、白玉がハズレです。治療のピースとは赤玉を増やすことをいいます。白玉を赤玉に変えることです。医療サイドは「エビデンスがあって、ガイドラインにも載っているので、この治療をやりましょう!」と勧めてきます。確かに正しい説明ですが、問題はすべての玉を赤玉(当たり玉)にできる治療の組み合わせは(100%成功する治療)は、特にがんではないのです。
結局は自分の運
つまり、どんなに努力をしても(赤玉の数を増やしても)、白玉(ハズレ玉)を引く人もいれば、何の努力をしなくても当たり玉を引き当てる人もいます。医療サイドは赤玉が多くなる治療を勧めますが、患者さんが知りたいのは、自分が赤玉を引くか、白玉を引くかです。
1年間の勝率と今日勝てる確率
大リーグで例えると1年間の162試合で勝率が高い作戦がデータから導かれています。しかし、全勝することはできません。どんなに勝率が良い作戦を選んでも負けることがあるのです。一方で患者さんは自分の試合だけは絶対勝ちたいのです。その1年間を見据えた勝率と今日の試合の勝敗の意味を理解できていないと不幸になります。
専門家の自分ならどうする?
僕の同級生、同僚、先輩後輩の中には、がんに罹患したがエビデンスがある標準治療を選ばなかった人が少なからずいます。専門家だからこそ標準治療の副作用と御利益を天秤に掛けて、標準治療を選ばないという選択が可能なのです。
エビデンスだけでは語れない世界
結局、最後は運が左右します。運気を上げる努力に明らかなエビデンスはありません。僕は善行の積み重ね、徳を積むことが運気に繋がると思っています。エビデンスだけでは語れない世界があることをわかっている医師や医療サイドとご縁がないと不幸なことになるのです。エビデンス至上主義者の腫瘍内科医はそこがわかっていません。大谷翔平選手を見ていて、本当にそう思える今日この頃です。