見出し画像

「進化思考」のこれからについて

『進化思考』著者の太刀川英輔です。これまで書籍に対して、様々なご意見を頂戴しています。創造性を体系化したというご評価、及びそれに伴ういくつかのありがたい賞を賜りました。一方で、主に進化生物学の専門家の方々から誤りや改善のご指摘もいただいており、それによってさまざまな反省すべき点や気づきがありました。
この度、ご心配をおかけしてしまったみなさまに向けて、現時点での私の考えをお伝えするための記事として、このnoteを執筆しています。

本投稿でお伝えしたいこと
・進化思考にまつわる現状課題の認識と反省、気づき
大きく分けて以下の4点を現状課題と認識しています。
「書籍内事例の引用の誤り」
「学術的に適切でない表現」
「義務教育へ導入しようとしているというご指摘、及び商標取得について」
「ご意見に向き合いきれなかった私自身の弱さ」

・これからの方針について
出版社と本書の改訂に向けて進めています。また、今後のご意見に対しては万全を期すために、私個人ではなく出版社も含めたチームとして向き合っていきます。

・進化思考を通して目指したいこと
なぜ私が進化思考を発信し、それから何を実現したいのかを改めてお伝えします。

進化思考へのご指摘からの気づき


これまで進化思考にいただいたご指摘から、いくつかの気づきがありました。

1.書籍内事例の引用の誤り

進化思考の書籍には現在、いくつかの誤字脱字や知識の誤りが発見されています。知識の誤りについては一例として、チンパンジーにしっぽがあることになってしまっていたり、種の起源がダーウィンとウォレスによる論文と混同されてしまっていたり、ロボットの画像に別のブランド名がついていたりと、引用に初歩的な誤りが多く見られました。
こうした誤りは著者としての事前調査・校正不足です。事実確認に漏れが出てしまったことは深く反省しています。現在はこうした誤りを精査し、出版社から正誤表が発表されていますので、こちらをご参照ください。

2.学術的に適切でない表現

改めて全文の内容を見直し、どのような曖昧さや不適切さがあるのかを精査する必要を感じたため、昨年9月より進化生物学者の方々にご協力いただき、学術的な観点で適切でない表現や、過度に断定的な表現、より表現を改善できる箇所を徹底的に洗い出してリスト化していただきました。
いただいたリストから、どういった誤りがあったか、なぜ批判や誤解が生まれたのか、どのような観点で書籍を磨いていけるのか、非常に多くの気づきを得ました。

この本は進化論をアナロジーとしていますが、誰もが創造性を持てるようになることを第一の目的に書いた本なので、100人中すべての専門家が違和感を持たないものにするのは難しいかもしれません。それでも私は自然科学の先人が紡いできた叡智に敬意を持って、一人の初学者として創造性への援用をあきらめずに追求したいと考えています。そのため、学術的な内容を援用する以上、改めて初版においても進化生物学の専門家の方にご監修をいただくべきだったと反省しています。

今回の改訂作業を通して、改めて自然科学の基礎を学び、創造性との共通構造として説明できる適切な表現を磨きたいと思っています。

3.義務教育へ導入しようとしているというご指摘、及び商標取得について

書籍自体ではない観点からの「進化思考」へのご指摘もいくつかありました。その中で特筆すべき2点を記します。

-義務教育に導入しようとしているというご指摘について
進化思考を義務教育に導入しようとしている、というご指摘がありました。進化思考を義務教育にできるとは思っていませんが、本文中で1カ所、誤解を招きうる表現がありました。該当箇所は自然科学的な観察手法(解剖・系統・生態・予測の四種類の観察)を基礎教育段階から学ぶという趣旨の提案であり、こうした観察の学習は有効だと信じています。ただ、本書該当箇所においては文中での用語の選択を間違えたと思うので、改訂版では表現を変更します。

-商標取得について
三中信宏先生が『進化思考の世界』という書籍を出していたのに、私が「進化思考」という商標を登録していることへのご指摘がありました。三中先生のことは事前に存じ上げており、本書にも三中先生の「系統樹思考の世界」など他の本を参考文献として参照させていただいておりました。三中先生とは過去に進化思考をテーマとした対談もさせていただきましたが、私としては進化思考という言葉を独占する考えは毛頭ありません。
本商標は誰かによる独占を防ぐ目的で取得したもので、基本的に使用の制限などは行っておりませんでした。ですが商標申請の際に、三中先生に丁寧にご説明するプロセスは踏めておらず、進め方について礼節を欠いていたと反省しています。すでに数ヶ月前に「三中先生があらゆる用途で進化思考という言葉を使う上で一切の制限をしない」ことをご本人にお伝えしています。

4.ご意見に向き合いきれなかった私自身の弱さ

本来はさまざまな異なるご意見に冷静に向き合うべきでしたが、過日に感情的な反応をしてしまったこともありました。例えば批判論文に対して日本デザイン学会へ意見書を送ったことがありましたが、この対応も含めて感情的だったと思います。本意見書は、去る7月31日に撤回しています。

書籍に興味を持っていただいたことはありがたかったのですが、その論文やそれをきっかけに広まったSNS上の批判には誤解もありました。具体的には、進化思考はダーウィン以前の、ラマルク説や進歩的観点での進化論などの誤った進化論に立脚しているという批判です。進化思考はダーウィン的な自然選択説の進化論をアナロジーとしていることが重要な主旨であるため、この批判には論旨を誤解されてしまったと感じていました。

この誤解に基づく批判まで、ないまぜに広まってしまったことが、私が感情的になってしまった一因だったと、いま思い返すと感じます。途中でSNSからの発信を止めましたが、加熱する批判や誹謗中傷にどう振る舞うべきかわからなかった、というのが正直な気持ちでした。批判に反応的にならずに、誤りや課題だけに向き合えていたら、もう少し対話的状況を作れたのかもしれません。私自身の未熟な姿勢が批判や誹謗中傷を加速させてしまったと反省しています。

論旨とは異なる内容に読ませてしまった文章については私の責任であり、誤解を生みやすい表現を改訂版では精査し、より違和感のない表現を追求します。また今後、進化思考へいただくご意見については、万全を期す体制で向き合っていくため、私個人ではなく出版社を含むチームとして受け止めたいと考えています。

進化思考を応援してくださっている方やイベントの運営者、専門家の方など、巻き込まれる形で不愉快な思いをさせてしまった皆様には、改めてお詫び申し上げます。

書籍の改訂について

こうした私自身の反省を踏まえて、専門家の方々にご監修をいただきながら、進化思考の書籍の改訂版の制作を進めています。

私も今回の経験から、改めて自然科学の基礎を学び、創造性との共通構造として説明できる適切な表現を磨き始めました。この改訂作業は自分自身にとっても学びの深いプロセスになっています。今回の改訂は単なる訂正ではなく、創造的思考法としての進化思考をさらにアップデートしたものとして発表するつもりです。

具体的な進行については、出版社から予定を発表させていただきました。本書籍の正誤表だけでなく、電子版、オーディブル版の修正まで積極的に進行し、改訂を理解してくれた出版社にも深く感謝しています。改訂版の出版には1年近くお待たせしてしまいますが、この間に私自身も勉強を重ね、より多くの方にご納得いただける内容へと磨きます。ぜひ見守っていただけると嬉しいです。

進化思考を通して目指したいこと

進化思考は、発明やデザイン、イノベーションという現象を生物学的な進化のプロセスと相似形のものと捉える、進化論をアナロジーとした思考法です。その内容を特にビジネス領域の多くの人に伝える目的で『進化思考』という本を出しました。

創造的で持続可能な社会をつくりたい。でも社会には課題だらけです。その根本的解決には、多くの人が創造性へのコンプレックスから解放されて、前向きに課題の発見と解決に向き合える学習方法が必要だと、私は思っています。

創造性は分かりにくく扱いづらい現象です。ですが進化論や生物学における偉大な先人たちの叡智からであれば、創造性の本質を深く学べる可能性を感じています。

私に今できるのは、まずこの本を納得できるものに改訂すること、発信する情報の精度を高めること、自分の心のあり方を改善すること、持続可能性のためのデザインプロジェクトをつくり続けること、これらを言葉ではなく具体的行動で示していくことだと考えています。

専門家の方々からもアドバイスを受けつつ、私自身が勉強しながら、創造と進化という2つの現象への理解を磨きたいと思います。そして自然科学が紡いだ叡智を、創造性の本質として様々な領域に伝えることに貢献できたら嬉しいです。

長文ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

太刀川英輔

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?