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teto『結んで開いて』 9月30日@千葉LOOK

「何が台風じゃボケ! 何が台風じゃあボケが!」ライブは小池貞利(Vo,Gt) のそんな一言から始まった。

――9月30日、この日は全国的に大型の台風に見舞われた。テレビ、ラジオ、SNSでも「台風24号が接近しているので、なるべく出歩かないようにして下さい」と何度も注意勧告がされていたし、JR東日本は20時から首都圏の全電車を対象に運転を取りやめる措置を発表。そんな状況の中、tetoの全国ツアー『結んで開いて』は千葉LOOKにて初日を迎えた。

果たしてライブは決行されるのか……と心配していたら、14時30分頃に公式サイトで振替公演が発表された。ただ、「バンドメンバーの強い希望により、本日のチケットをお持ちのお客様につきまして、公演内容を変更して、16:30開場 / 17:00開演 / 18:00終演予定で公演を開催いたします」と特別公演を行う旨も告げられ、僕は急いで都内から千葉へ向かった。開演時間ギリギリに到着しライブ会場へ入ると場内はガラガラかと思いきや、どうにかツアー初日を見届けようと多くの観客が集まっていた。

楽屋へ行くと、メンバーは無言で椅子に座り、静かにその時を待っていた。そして17時になり大きな拍手に迎えられて、小池貞利、山崎陸(Gt,cho) 、佐藤健一郎 (Ba,cho)、福田裕介(Dr)はステージに姿を現した。スイッチが入ったかのように観客は腕を高く上げて踊り、ステージの4人も台風なんぞに俺らのライブを邪魔されてなるものか、と攻撃的な演奏で観る者を引き込んでいった。「なんやかんやあって、1stフルアルバムを出したわけですけど、どうでしょう? 良い? (拍手の音を聞いて)良いよなぁ。俺の中では歴史的な1枚になったと思うので、思うんだけども……そんな歴史的なツアーの初日に台風が来てます。今夜イベントをやってるのが俺らとプロレスの団体しかいないみたいで。離れたところで俺らとプロレスの2マンみたいになってますけど(笑)」

小池はアルバム『手』ができた時、僕に「10年はリリースしなくても良いと思えるほどのアルバムができたんですよ」と嬉しそうに話してくれた。そんな傑作を引っさげたツアーでストップをかけることなど出来なかったんだと思う。早く歌いたくてたまらなかったんだと思うし、すでに遠方から千葉に来てくれていたファンの気持ちも察しての繰り上げ開催だったと思う。

「もう色々と嫌なわけですよ。面倒くさいことばっかりなわけです。ただね、このまま台風の奴隷になってたまるかって」そして「奴隷の唄」を演奏すると、山崎は頭をブンブンと振り回し、小池は背中から客席へダイブ、佐藤は一心不乱にベースをかき鳴らし、福田は1打1打思いっきり叩いた。

1時間という限られた時間の中で、どうにか心に爪痕を残すべく持てる力のすべてをここに捧げようと、ステージという名のバッターボックスでフルスイングする4人。そんな姿を観て「今日、ここへ来れて良かった」と心から思った。

最後に小池が口を開く「台風の日にライブをすることなんて2度とないと思うんですけど、これはこれで良いですよね。(フロアから大きな拍手が起こる)あの……自分の話ですけど、昔の文集を読むと『サッカー選手になりたい』と書いてたんですよ。結局、なれずじまいで28歳になっちゃって。あの時になりたかったものにはなれてないんですけど、これはこれで良いやって。世の中は捨てたもんじゃないよな、と思うんです。新しいものに出会えて、それが楽しくてしょうがないです。今日は特別な振替公演みたいな感じですけど、出来たら忘れないでいてくれたら嬉しいです」そんな願いとともに披露したのは「忘れた」だった。
<何年経とうたって 寿命がいつ来たって 忘れはしたくないなって そう思って今日を生きていたいんだ>
ツアーは残すところ21+1(振替公演)の22公演。これから、どれほど忘れない1日を魅せてくれるのか楽しみだ。

全14曲のライブが終わり、楽屋を訪ねるとぐったりした表情で佐藤がソファーに座っていた。「今日はどうでした?」と聞いたら、「いやぁ、疲れましたねぇ。だけど楽しかったです」と笑みを浮かべながらタバコに火をつけた。

text:真貝聡
photp:マスダレンゾ
※文章・写真はSPiCEで掲載されたものです

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