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teto『結んで開いて』 10月10日@岡山IMAGE

昨晩は20時までアイドルのインタビューをした後、東京駅へ移動して夜行バスに揺られること約11時間。ようやく岡山駅に到着した。何のために遠路はるばる来たのか、それはtetoの『結んで開いて』ツアーを見届けるためだ。ライブを行う岡山IMAGEは岡山駅から徒歩10分もかからないので、とりあえず時間はたっぷりあった。宿を探したり、仕事をしつつ夕方まで時間をつぶした。

とにかく僕が今回のツアーでやりたいことは2つ。1つ目はライブレポートを書くこと、2つ目は写真を撮って記録に残すこと。tetoが所属するUK.PROJECTにお願いをして、どちらも了承をもらうことができた。

18時00分、開場の30分前に楽屋を訪ねると小池貞利、山崎陸、佐藤健一郎がいて、対バンをするMONO NO AWARE のリハーサルをモニター越しに観ていた。ライブ前なので楽屋をメンバーが頻繁に出入りしており、気づくと僕と小池の2人きりになった。小池がふと「真貝さん、アルバムの曲で何が好きですか?」と聞いてきたので、「昨晩、夜行バスの中で『溶けた銃口』を聴いてたんですけど。通り過ぎていく街灯の明かりとすごく合っていました」「あぁ!良いっすよね。そういうつもりで作ったんですよ」と少年のような笑みを浮かべた。「あと、夜中に1人で聴くのも好きなんですよね」と伝えたら、「朝焼け時に聴くのもよくないっすか」と言って2人で盛り上がった。

そしてライブが始まり、トップバッターのMONO NO AWARE が会場を盛り上げたあと、tetoが登場。数曲を歌い終えて小池が口を開く「ツアー3本目です。何を隠そうウチには岡山が故郷の人がいるんですよ」そういうと、山崎が腕を上げて「……ども〜、岡山出身です」と照れくさそうに挨拶をした。
ーーこの時、僕はライブ前の出来事を思い出していた。山崎が「小腹空いたから何か買ってくるわ」と出かけて戻ってきた時、パンと色紙を手に持っていた。何かと思えば、「悪いんだけどウチの母親にサインを書いてもらっていい?」とメンバー1人ひとりにお願いをして回る山崎。「まさか、自分の母親にサインする日が来るなんて思わなかった」と感慨深げに最後のサインを書く姿を見て、すごい温かい光景だと思った。ライブ中は決して多くを語らないけど、人情味のあって優しい男である。2階から母親らしき人が優しい目でステージを見つめていて、普段見れない瞬間に出会えた気がした。

再び小池がフロアに向かって話す。「ツアーを通して、その人それぞれの故郷に行くのがたまらないわけですよ。俺がこのライブハウスを出て、右に曲がるとするでしょ。でも、岡山に住んでる人たちは『あぁ、この道ね』となるんですよ。『あぁ、前に好きな人と通った道だ』とか『前にもライブを観に来たな』とか。そういう思い出が岡山の人は染み付いてるわけな。でも、俺はまったくないわけ。だから観えてる景色が違うんですよ。……でも、観る景色が違う人同士なんだけど、一緒に歌ったり踊ったりすれば勝手に分かち合える気がするわけ。故郷の人と一緒に同じ空気を吸えるのがたまらないんですよ。今日は山崎と皆さんの故郷に来てるわけだけど、俺にも故郷の曲が1曲あるんです……」そう言って「teen age」へ。

<いつか並んで自販機で買ったレモネードの味を思い出した>夕暮れのようなオレンジ色のスポットライトが4人を、そして観客を包み込む。——演奏を聴きながら思い出す……幼馴染と学校から自宅までの距離を自転車で二人乗りしたこと、夕方によく立ち寄った駄菓子屋のこと、別に大した話題もないくせに友達と何時間も公園で話したこと。そんなたわいのない風景こそが僕の故郷であり、僕の原点だ。<忘れもしない あの校舎の匂い>もうアノ店も潰れて、友達は地元を出て行って、街並みも20年前とすっかり変わってしまった。みんな、どうしてるんだろうか。武田鉄矢が「母に捧げるバラード’82」で<お母さん、今僕は思っています。僕に故郷なんか無くなってしまったんじゃないかと。そして、1つ持っている故郷があるとすれば、それはお母さん……あなた自身です>と歌っていたけれど、今の僕は「teen age」こそが、あの頃の故郷に戻る1つの方法だと思った。

終盤になり小池が目を細めて、どこか遠くを見つめながらtetoについて語り出した。「あの頃は毎日退屈で、退屈で……とりあえずなんかやるかと思って、触ったこのなかったギターで弾き語りを始めて。しかも、ベースを持ったことないやつ(佐藤)にベースをやらせて。たまたま岡山から来てた山崎と出会ってバンドに誘って。彼(福田)はわりかし家が近所だったんですけど(笑)。本当に何なんだろう、と思って。ずっと前からこの道が敷かれていたとしか思えないように4人が集まって。それで岡山でライブをして、いっぱい人に観てもらえて。『あぁ、人生は全然捨てたもんじゃないっすわ』という感じに思ってます。日常は本当につまらないんですけどね、つまらないけど……なんだコレ!めっちゃキラキラしてる!みたいな。それがバンドを組んだ日でした。今日もそういう日で、キラキラした毎日ができる限り続けば良いな、と思ってバンドやってます。こういうキラキラした日を忘れたくないな、と思って歌います」そして本編のラストに「忘れた」を歌った。

4人の演奏を聴きながら、なぜ僕は今回のツアーについていきたいと思ったのか考えた。音楽が好きだから?アルバムが良かったから?tetoがこれから売れそうだから?どれも間違ってないけど、どれもしっくりこない。「この4人のステージは、自分の見たことない何かを見せてくれるから」それが一番の理由かもしれない。ちゃんと見届けたい、そう思った。<何年経とうたって 寿命がいつ来たって 忘れはしたくないなって そう思って今日を生きていたいんだ>彼らと過ごす2ヶ月間のツアーが僕にとって、何年経っても忘れられない時間になるように目に焼き付けたい。そう思いつつ、岡山のホテルからこの原稿を書いている。

TEXT&PHOTO 真貝聡

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