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『哀れなるものたち』のベラは希望じゃない

日曜の夜。『哀れなるものたち』を予習なしで観に行ってきた女の感想〜〜

美術が好きすぎる

まず美術が好きすぎる!建物も装飾品も服も、デザインが素敵。役者さんのキャラにも合ってるし、架空の19世紀の雰囲気にも合ってる。ファンタジー要素があって、絵本のページをめくってるようなワクワクする感覚になれた。古い娼館ですら美しくて惹かれるものがあった。この作品はアカデミー賞にノミネートされているそうだけど……美術賞はもちろん、エマストーンも主演女優賞でキマリじゃないでしょうか!

ベラは希望……?

あらすじをざっくりいえば「女版フランケンシュタイン」の成長物語なんだけど……女版ということは、女がなかなか避けて通れない男性優位的な社会にのまれていかざるを得ないということでもある。(19世紀が舞台というのもあって、今よりも男性の力が強く感じられる)

ベラも、早々に「ロリコン金持ちオジサン」に利用されることとなる。でも……ベラのことは誰も"利用"できない。男を"利用"して快楽をおぼえていく側だから。一般的なルールが一切通じず、好奇心のままに動くベラに振り回され、だんだん転落していくオジサン。

社会通念をひっくり返すパワーを持ったベラという自由な存在は、見る人にとって「希望」とも言えるのかもしれない。

ベラは希望なんかじゃない

ただ……スカッとする反面、もやもやも残った。そもそも科学者のじいさんの頭がおかしい。いつからかベラとじいさんは「家族」みたいなアットホームな関係になってくけど、妊婦の遺体を拾って母体に赤ちゃんの脳みそを移植するって、利己的な行動このうえない。

そして記録係の男。自己判断できない精神年齢の赤ちゃんと半ば強制的に婚約するって何事よ……!? しかもベラが知性を持って自分で判断できるようになってからも、記録係はベラに赤ちゃんがいたことを黙っていたり、懲りずに「ベラ2号」の記録係にもなったりしていた。ベラもそれを知って彼が「モンスター」だとわかったのに、最終的に結婚相手に記録係を選んだ。もはや、ベラを自殺に追い込んだクソみたいな元夫 or 臆病モンスター記録係の二択で、少しでもマシなほうを消去法で選んだのでは?と思わざるを得ない。

そして「ロリコン金持ちオジサン」。ベラを利用するつもりが本気になってしまい、ベラが娼婦になるのを「許せない」と言い出す。散々ベラを娼婦扱いしておきながら、いざ娼婦になったら軽蔑するとは何事!? こればっかりは、ベラというキャラクターを通しても痛みと疑念が勝る。あと娼館の長のババアにベラが「なんで女は相手を選んじゃダメなの?」とか「(やりすぎて)だんだん無になってきた」とか言っても毎回諭されるあたり……ベラのキャラを以ってしてもまったく痛みがやわらがない。むしろ本来「無痛」なはずのベラが痛みを持つことで、何倍にも痛く感じた。

ここで、最近話題の某お笑い芸人の報道を思いだす。(報道の真偽は別として)20歳くらいの女の子はみんな、性的快楽を覚えたてのベラみたいなものだと思ってもらいたい。興味のあるほう(や、空気を壊さないほう)に「こういうもんなのか?」と流れていってしまっているだけで、性的同意をしているわけではない(そもそもそれがどんなものなのかすら理解していない)。だから男性がハタチくらいの子をつかまえて「体を受け入れた=性的同意があった」と解釈するのはだいぶ危うい。ベラは性的快楽への好奇心がだいぶ強いし、行為に対して後悔もなさそうだったけど……リアルでは罪悪感や後悔、自分や相手への嫌悪感などを抱く人もいる。(数々の告発は、それが表面化したものなのかなと察する……)性にめざめるには幼すぎるベラを見て、そんなことも思った。

映画の話に戻る。終盤、「ロリコン金持ちオジサン」はベラのせいで転落し、「自殺の原因になった元夫」はベラの手によって羊人間になる。ここにきてベラを利用してきた人間がことごとく不幸になり、ベラとその周りの人たちだけが優雅に健やかに過ごす「スカッと展開」になった。

スカッとすべきなのかもしれないけど……これもやっぱりちょっともやもやする。だって結局ベラは、ベラをつくった利己的な科学者と同じことをしてる。ベラから本(知性)を奪い、自由な言葉づかいやダンスを奪った「ロリコン金持ちオジサン」と同じことを、ベラを拘束して生きる希望を奪った「元夫」と同じことをしてる。

ベラの周辺だけを点で見れば大きな変化が起きてるけど、面で見れば同じことが繰り返されている=何も変わってないのと一緒。男が不幸になればいいとか、男女の立場が入れ替わればいいとか、そういう問題じゃない。なのに「ラスト、ついにベラは本当の自由を手に入れた!!!」のように描かれても……反応に困る。(そしてちゃっかりベラ側にいる記録係も何)

社会通念を度外視した「第三の人間」(無敵の人)がどれだけ掻き回しても、結局何も変わらないのかよ!という絶望感を感じながら映画館をあとにすることとなった。

この映画はファンタジーとして観たら100点!

まだ誰の感想も見聞きしてないんだけど、みんなはどう思ったんだろう……(とくに女)。

3日経って

いくつか感想みたけど、絶賛の声が多めだった。フェミニズムの文脈(女性視点)で捉えずに「人間全般の話」として「ひとりの人間が自分を貫き通して自由を手に入れる話」とプラスに捉えてる意見もけっこうあった。

私は強欲な男が目につきすぎて素直な目で見られなかったので、そういうハッピーな視点でもう一度観てみたくなった。ただざっくり言うと、「ベラが女性だから」とかじゃなく、もしベラが男の主人公で、強欲な女たちに囲まれていたとしても、ラストシーンで同じような感想を持っていたと思う。そういう意味では「男女」というよりも「人間」の話なんだよな……と思ったり。でもやっぱ「娼館」とか「男のための結婚」とかが出てきちゃうと、どう考えても女性視点を抜きに語るのは難しい映画だよ……と思ったり。

ここまで考えさせてもらえてる時点で良い映画としか言いようがない。

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