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雨の歌舞伎町

とある夜のこと。

"この店のビールぬるいねん!"
居心地いいクセにいつも悪態をつく。

"別に帰ってくれてもいいんですよ!"
カンウターの中の女がまたいつものことかとため息混じりに返事をする。

素直じゃない不器用な男が昔はよくモテたもんだが今の時代ではそうはいかないようで
さっさと会計して帰って欲しい素振りで女は言う。

そう、俺はここのところめっきり
モテなくなった。
ぷっくり膨らんだ下っ腹を見ながらため息をつく。

今年で俺は47になる。
立派なオッサンだし自覚もある。
こないだカラオケで流行りの菅田将暉とかを無理矢理歌ったりしてみたが微妙な空気にしかならなかった。
笑いを堪えてるような、うっすら半笑いの視線を感じてみるみる顔が赤くなり二度と歌うもんかと思った。

ただ、結婚も2回したから女に縁のない人生でもなかった。
今思えば2人とも器量もよく笑顔のいい美人だったし、よくやってくれてたと思う。
要はそのままブーメランのようではあるが
自分の器量が足りなかっただけのことだ。

隣では水商売のアフターなのかパパ活してる女と相手候補の男なのか少し酔った2人が楽しそうにやり取りしている。
男のほうが熱心に女を口説いているようだ。

いつが休み?と男が聞き女がはぐらかす。
なんでも食べたいもの言って?どこでも連れて行くから!と男が聞き女の子がはぐらかす。
まぁこんな感じだ。

男は自分の狙ってる女にはいい顔をしたいので仕事についてもいくらか誇張して自分ができる人のように振る舞う。
たまに誇張し過ぎてハンマーカンマーみたいになってる奴も見かけるが…

なので、女にとって面倒ではあるがしばらくは楽しい時間が続くのだが次第に
『え?』『なんで??』みたいな信じ難いことをしたり言い出したりして少しずつ女は目が覚める。

"俺ってさ、付き合ってくれって言う女いっぱいいてさ…"

"俺ってさ、女の子からのHの評判めっちゃ良いんだよ…"

"俺ってさ…

ヤバい。めっちゃオモロいこと言い始めた。
こんな自慢話が最悪なのは俺でもわかるし、
そもそも口説けていない。
実際、このあたりから女の子の口数が極端に減ってきてやたら時計を見ている。

案の定、
"私、明日早いからそろそろ行くね!"と一言。
女は男と目も合わさずそそくさと帰って行く。

ボー然と見送る男。

思わずニヤニヤする俺。
刺激的な結末にビールの残りを一気に飲み干した。
グラスを置いて一呼吸したあと

"ねぇ、シャンパン頂戴!"

と言うと
さっきまで下を向いていたカウンターの女が
顔を上げて笑顔でこっちを向いた。

"え?何??いいの???ありがとう、嬉しい!って言うか何かいいことあったっけ?"

急に取り繕ったようにしゃべり始める女。

"あ、いや…ここに来て元気になったから"

当たり前だが、さっきの隣のカップルの会話が面白くて元気になったと言うわけにはいかないのでこう返すと自分の手柄のように店の女が喜んでいる。

本当に歌舞伎町は勘違いで成立している。

シャンパングラスを片手に思う。
"やっぱり歌舞伎町生活はやめられない"

早くコロナが終息してこんな日常が帰ってきて欲しいものです。


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