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丸森時間差遺産【まるもり - じかんさ - いさん】

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東京での20年間の暮らしを経て、20年ぶりに故郷へ移住したクリエイティブディレクターは何を思うのか。あの頃は特に気にも留めなかったことが、今さら大切だったときづくものとは。宮城県…
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丸森時間差遺産 第2話「時をかける赤い橋」

 夜寝ていると息苦しいことがある。今夜も金縛り……ではないので安心してほしい。寝相の悪い我が子の足が僕の顔に乗っていただけ。いつものことである。家族で一緒に寝ている場合、自分の寝ている範囲を越えないようにという暗黙の了解があると思うのだが、そんな大人の常識で作り上げた境界を軽々と越えて来る息子の自由な本能に感銘を受けるとともに「境界を越える」というキーワードから、ふと、脳裏に丸森橋の思い出が浮かんだ。  丸森町には大きな橋が2つある。2012年に完成した556mの丸森大橋。

丸森時間差遺産 第1話「小高い駅のホーム」

 1996年。18歳の僕は進学のため、仙台で念願の一人暮らしをすることになった。すでに荷物は新居となるアパートに送っており、一人暮らし前としては最後の実家での夕食。この漬物の味ともしばらくお別れだなと、白菜の味を噛み締めていた。最後の晩餐ならぬ最後のばあちゃんの漬物である。お湯1に対してウイスキー3ほどの濃いめのお湯割りが好きだった父からは、丸森からでも通えるだろうとしつこく説得をされたが、故郷への未練1に対して都会への好奇心9という濃いめの自立心に溢れていた僕は「自分の足で