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ナニモノ、ハヤシライスの正体

ハヤシライスという食べ物をご存知だろうか。トマトのようなデミグラスソースのような、あのよく分からない味の食べ物のことだ。

おれはこのハヤシライスという食べ物を生まれてこのかた一度たりとも認めた事がない、いや認める訳にはいかない。
理由としては先にも述べた通り、結局なに味なのかがハッキリとしないからだ。
なに味かも分からないものを口の中で噛んでいるときのストレスったらありゃしない、にも関わらず『ハヤシライス』などという立派な名前がついている。
所詮あんなものはカレーにもシチューにもなれなかったポンコツなのである。

という話を学生時代に教室で話していたところ、その場に居合わせたクラスの全員から猛バッシングを受けたのだ。「ハヤシライスは美味しい」「ハヤシライスが大好きだ」そう言い張る連中におれは究極の質問を投げかけた。
「お腹が減りまくっているときにハヤシライスとカレーライスが用意されていたらどっちを食べるんだ」と、すると大半の連中が「ハヤシライス」と答えたのだ。

おれは戦慄した。
ハヤシライスがおれの知らない間にこんなにも市民権を得ていたなんて、100人に1人くらいにしか好まれていないだろうと思っていたあのハヤシライスが、、、どうやらそうではなかったらしい、あるいは100人に1人のうちの1人たちがここに集まっているかのどちらかだ。できれば後者だと願いたいところではあるが彼らの真剣な表情を見る限り恐らくそうではないのだろう。

ハヤシライスを否定し続けるおれに彼らは言った「本当に美味しいハヤシライスを食べた事がないからだ」と。ちょっと待て、お前たちの言う『本当に美味しいハヤシライス』とは一体なんのことだ。
このような場合において『本当に美味しい』などという言葉を使うのは卑怯ではないか、それを言っていいのであれば全ての食べ物が最終的には美味しいということになってしまう、食べる側の味覚を無視したとんでも理論である。
それにおれはハヤシライスを美味しくないとは言っていない、そもそもなに味かも分からないものに対して美味しいも不味いもないからだ。

100歩譲ってその『本当に美味しいハヤシライス』とやらが存在したとしても恐らくそれはハヤシライスではなくカレーライスのことであろう。
ハヤシライスから一切の無駄を省き、究極まで美味しくしたものがカレーライスなのだ。つまり『本当に美味しいハヤシライス』とはカレーライスのことなのである。

そんな不毛なやりとりから数年、おれは未だにハヤシライスを口にしていない。
おいハヤシライス、結局お前は何者なんだ。

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