2024年のフジロック・フェスティバル雑感

 2024年のフジロック・フェスティバル、今年は、7月25日(木)の前夜祭から行った。

 いつも、(カネをケチるために)軽のワゴンのレンタカーを借りて、40代50代のおっさん4人で、隙間という隙間に荷物を詰め込んでギュウギュウになりつつ苗場に行く。誰もクルマを持っていないのが、さすが自分の周辺だと思う。あと普通に運転に慣れているのが俺だけ、というのも同様、なのだが。

 その4人のうちのひとりであり、撮影機材が重いので誰よりもクルマで行くことを望んでいるカメラマン岸田哲平が、今年は木曜の前夜祭から仕事がある、と言い出した。

 で、自分を含む他の3人とも「あ、そう、じゃあ木曜から行くか」「そうね、考えてみれば、こんなに長年通ってるのに、前夜祭、一回も行ったことないし」などと、同意したのだった。

 みんな、良く言えば優しいが、悪く言えば物事を深く考えていない。ケチりたいから軽を借りているのに、木曜から行ったら宿泊代が一泊余分にかかるじゃないか、我々3人は。仕事だからクライアントが払ってくれる哲平はいいけど。

 さらに。「前夜祭、一回も行ったことないし」などと言っていた奴=自分は、会場に着いて、発表になったタイムテーブルを見た瞬間(※前夜祭は誰が出演するかを開始直前まで発表しない)、なぜか突然「違う! 初めてじゃない!」と、思い出したのだった。

 1年目からずっと出ている前夜祭の主=DJ MAMEZUKAのプレイ、俺、木曜に聴いたことあるわ、その年、MONGOL800も出てたわ、と。調べたら、2002年でした。

 ただ、22年ぶりに体験した前夜祭、とてもいいもんでした。ここまで!? と言いたくなるほどの大盛況だけど、土曜のグリーンのトリ終わりの時間ほどの大混雑ではなくて、とてもピースフルな空気感だし。DJ MAMEZUKA、US、どぶろっく、SPARK!! SOUND!! SHOW!! 等のアクト、いずれも満員で盛り上がったし。

 あと、金曜朝に早起きして出発し、「ああっ、グリーンのトップに間に合わない」などと、あせりながら苗場を目指す(そして大抵間に合わない)あの感じを味わわずにすんだのも、自分としてはよかった。


 さて。天候についてだが、今年は、ベストだったのではないだろうか。おしなべて、暑くも寒くもなかったので。

 暑かったのは、2日目のお昼前後の数時間だけ。雨は、2日目は少し、3日目は何度も降ったが、いずれも「しばらくしたらやむ」「豪雨にはならない」降り方だった。

 前夜祭の日の昼間、クルマで群馬県を抜けるあたりで、視界が悪くて運転速度を落とさざるを得ないほどの、すさまじい豪雨が、かなり長いこと続いた。天気予報を見たら、18時くらいから苗場も降るそうで、「えー!?」となったのだが、その予報、外れた。降らなかった。

 同じく、金曜も土曜も午後に雨が降る予報だったのに、それもほぼ外れて、予報どおり降ったのは日曜だけ。それも、雨合羽は何度も羽織ったが、長靴は最後まで出さずにすむ程度の降り方だった。


 なお、全日程終了後に発表された、延べ動員数は、96,000人。2023年は114,000人だったので、18,000人減。うわあ。そうかあ。現場にいる分には、少ない方がラクでいいけど、今後もフジが続いていくためには、と考えると、正直、心配な数ではある。

 あと、今年、客層がけっこう変わった印象があった。去年と比べてはっきりわかるくらい、若い人が増えた。20代〜30代前半くらいの、かわいい女の子と小綺麗な男の子のカップルとか。

 で。そういう人たちのほぼ100%が、中国か、台湾からのお客さんなのである。「お、若い」と思うと、みんな会話が中国語。お金持ちの若者たち、ということなのだろうか。

 3日目のトリのNoel Gallagher’s High Flying Birdsの時、「LOVE FROM CHINA」と書いた紙をノエルに向けている人がいて、ああそうか、ノエル、中国では観れないもんね、と気がついた。昔「フリー・チベット」のチャリティ・コンサートに出たのが理由で、2009年のOASISの中国公演を中止にさせられて以来、入国禁止扱いなので。

 で、僕は気がつかなかったが、ノエル、そのお客に向かって、「中国人か? スパイか?」と言ったそうで、後で、ネットでめちゃめちゃ叩かれていた。でもそれ、レイシストだからじゃなくて、そういう背景があるからだと思います。フジ以外でもよく言っているし。

 まあ、だからって、誉められた発言じゃないけど、もともとそういうロクでもないことばっかり言う人だしなあ。と、昔、雑誌の特集で「ノエルの暴言・失言録」を調べたことがある者としては、思う。


 まあとにかく、そんな、過ごしやすい天候の下、自由な3日半を過ごしたのだが、その途中で、改めて気がついたこと。

 昔のフジと今のフジで大きく違うところって、世の中にSNSがあることだと思うのですね。つまり、自分と面識がある人もない人も含めて、誰が何を観て、どんな感想を持ったかを、リアルタイムで知ることができる、というか、目に入っちゃう、という。

 で、去年はなかったけど、一昨年までと今年は生配信もあったので、会場に来ていなくても、それを観て声を上げる人もいて、そういう声まで含めて、知ることになるわけです。

 僕はなるべく、何か観るたびに、Xに何かしら書いて、アップするようにしていて、マメにスマホを開くので、なおさらそうである。

 基本的にみなさん、「なんだこのクソバンド」みたいなことは、書かない。良かったとか、最高だったとか、肯定的なことを感じた時は書く、という傾向にある。そりゃそうだろう、と思うし、いいことだとも思う、のだが。

 自分が時間的に裏のアクトを選んだとか、間に合わなかったとか、体力的にバテてあきらめたとかで、観たい気持ちはあったが観なかったアクトが絶賛されていると、「やっぱ観ればよかったなあ」と悔やむ。自分が完全ノーマークだったアクトが絶賛されていても、同じく「そうか、観とけばよかった、という以前に知っておくべきだった」と後悔する。

 と、ここまではいいのだが。困るのは、自分が観て全然いいと思えなかったアクトを、他の人が絶賛している、というケースである。

 これ、若い頃なら「あんなのどこがいいんだ」とか言えたんだけど、今の自分のこの歳、このキャリアになると、「俺に理解力がない」「あの音楽を楽しむ能力がない」「感性が衰えている」「というか死にかけている」「いや、そもそも若い時から死にかけな感性しかなかったんじゃねえか?」というふうにしか、思えなくなってくるのである。

 そう、年齢だけのせいではない。自分がさっき観て、ちっともいいと思えなかった某国の某バンドを、配信で観ている同業者の大先輩が誉めちぎっているポストが、TLに流れて来たし。

 さらに言うと、自分が観なかったアクトが絶賛されていて、でもそこで「観ればよかったなあ」じゃなくて、「だけどこれ、俺が観ても良さを理解できなかっただろうなあ」というやつまで、あるのだ。

 どうでしょう。なんだかもう、「おまえ、いっぱいカネ使って、木金土日月と5日つぶして、苗場まで行く意味あんの?」と言いたくなるでしょう、ここまでくると。
 というこれ、毎年薄々感じてはいたが、去年は配信がなかった(ので、会場にいない人はポストとかしなかった)から、ちょっと忘れた。でも今年はamazonの3チャンネル配信があったので、再び、そして強く、思い出した。という話でした。

 そんな中で、もっとも救いだったのは、3 日目=7月28日(日)のホワイト・ステージのトリ、TURNSTILE。木曜に苗場に向かうクルマの中で、カメラマン岸田哲平に「絶対観るべき」としつこくしつこく言われたのだが、今年はちゃんと頭から最後までNoel Gallagherを観ると決めていたので(前回来た2015年は、他のステージに行っていて逃した)、あんまり相手にしなかった。

 が、あとで、気になってきたので、ノエルをなるべくホワイトステージに近い側で観て、アンコールが終わったらすぐホワイト・ステージに行った。で、ドラムソロが始まったあたりからの、最後の20分くらいだけ観れたのだが。

 それがもう、すばらしかったのだ。今の音楽、今のバンド、今のありかた、今のたたずまい、今の生き方──そういうようなものを、どの曲からも、強く感じる。なんというか、どの方向から見ても「ちゃんと新しい」。全部観なかったことを後悔したが、ノエル終わりであきらめなくて良かった、とも思った。


 その他、新東京、ROUTE 17 Rock’n Roll ORCHESTRA、家主、大貫妙子、マカロニえんぴつ、OMAR APOLLO、Awich、THE SPELLBOUND、FLOATING POINTS、THE KILLERS、電気グルーヴ、syrup16g、THE LAST DINNER PARTY、GIRL IN RED、2manydjs、Suzu Toyama、ESNE BELTZA、RUFUS WAINWRIGHT、WEEKEND LOVERS 2024、クリープハイプ、The Jesus and Mary Chain、RAYE、ずっと真夜中でいいのに、RIDE、あらかじめ決められた恋人たちへ、などなどを、楽しみました。

 あと、我々が前夜祭から入る原因を作った岸田哲平、普段はライブカメラマンで、これまでも何十年もライブを撮りにフジに来ていたが、今年はフジロックのオフィシャルのインスタグラムのアカウントの、会場のありとあらゆる雑景を撮る、という仕事でした。その中でライブも撮ってるけど。
 で、連日、朝8時半とか9時から深夜2時3時まで撮影、という、心配になるスケジュールでがんばっておられました。

 でも、きみ、ライブカメラマンなのでは? と、正直、ちょっと思ったが、そのインスタを観たら「あ、素人が撮ってるフェス写真と全然違うわ、やっぱり」と素直に感心したので、リンクを貼っておきます。https://www.instagram.com/fujirock_jp/

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