見出し画像

家を買うということ

松本の自分の工房の近くに前から空き地があったんだけれども1年位前に宅地造成をして区画ができて。
そこは駅まで歩いて10分ちょい位な場所だし国道からも近いので、値段もそれほど安くはなかったけども案外あっという間にバタバタと家が立ち並びようになった。

ふと気が付くと、「あーこれでもうここには町内会ができるんだろうな」と言うような雰囲気にまでなっちゃっている。
1区画はそれほど広くもない。多分50坪か60坪位なので場所によっては車をゆったりと駐車するスペースもなく玄関前に結構ギリギリな感じで置いてあったりする。まだ塀や植え込みもできてないから全部丸見えである。

僕は今まで3回家を家買った。

1番最初は25歳の時。初めての自分の工房を作ったときに2階に自分が住めるように2部屋を作り、トイレと小さな風呂を作って一人暮らしを始めた。その後何年か快適に過ごしていたんだけれども8年ほど経った頃に買い増しして倉庫と作業場に使っていた古い隣家の屋内配線の老朽化が原因で出火して工房が全焼してしまった。

その後は工房を立建て直すまでしばらくアパート住まいをしていたんだけれども、色々考えて工房とは離れて自分の家を建てることにした。35歳位の時だったと思う。

その頃僕はアウトドアが結構好きだったし、まぁもともと自然は大好きだったししかも仕事の絡みもあって木がすごく好きだった。だから自分が一生住む家を立てようと思った時にどうしてもログハウス、木で出来た家が欲しかった。

なかなか良い土地が見つからなかったんだけれども借りていたアパートの近くにあった工務店の社長があちこち探してくれて、朝日村の隅っこの林の前のもと畑だった土地が見つかった。

その土地を見に行った時はまだ周りも畑で広々としていてその横に杉の木がたくさん並ぶ林が有った。
僕はその杉林の前に自分のログハウスが誇らしげに立っている姿を漠然とだけど想像してとてもいい場所だなぁと思った。
区画整理された80坪の土地はそれほど広くはなかったけれどもそれでも自分の小さなログハウスを建てるには充分だと思ったし何よりも見晴らしが良かったので気にいっていた。

家の設計が決まり資金のメドがつき、そして建築が始まった。地鎮祭も終えてしばらくすると、工務店から「基礎工事が終わったから見にこい」と連絡があった。楽しみに見に行った僕の目の前にあったのはきれいに仕上げられた基礎コンクリートと、そのすぐ隣に間近に並ぶ隣の家の基礎部分だった。

僕は図面上で思い描いていた自分の理想の家と、現実の隣の家と関係も含めた空間のギャップに本当にびっくりして、工務店の社長に「今からでも多少お金払ってもいいから家の位置と向きを変えられないか」と言う話をしたけれども、「今からではもう難しいし、この広さではどっちみちそう変わりはしない。」と言うことで少し残念だけどそのまま進めることになった。
「まぁそうだよな。区画販売なんだからこんなものか。」という諦めもあった。

それでも家が完成し住み始めてみれば、隣の家はちょっと近かったけれどもそれはそれなりに楽しい生活だった。何しろ憧れのログハウスの生活。毎日木に囲まれ木が肌に触れるゆったりした生活だった。

それから2年もたたないうちに突然村から連絡があった。裏の林を全部切り倒して住宅地として造成すると言う事だった。土地を買うときに不動産屋から裏の林はずっと残ると聞いていたのでとにかく驚いて村に文句を言ってみたりもした。以前不動産屋が言っていたのは、「この林は何人かの所有者が土地を細かく分けて持っているので決していっぺんに売られてしまうような事は無い。」と、そういう話だった。しかし実際は村の土地開発公社が一括で買い上げをしてあっという間に造成が始まってしまった。

結局僕が思い描いていた自然の中のログハウスと言うのはまるで嘘のように終わってしまい、ごちゃごちゃした住宅団地の中の住宅地には不似合いなログハウスになってしまった。僕はそこに何年か住むうちにすっかりその環境が嫌になってしまい、結局はそのログハウスを売りに出すとともに、たまたま売りに出ていた松本の駅近くのマンションを買うことにした。

まぁ話は長くなったけど。

で、会社近くの新しく造成された住宅を見るたびに、
「みんなこれでいいのかなぁ。こんなゆったりと車を置くスペースもないようなところを買ってしまって良かったの?もう少し探せば他にもっといい物件があったかもよ?」なんて思ったりする。

よく「家賃をずっと払い続けるのだったら家を買ってしまった方が良い。家賃を払っていてもそれは自分のものにならないけれども買ってしまえばそれは自分の財産になるから。」そう言う人も多い。僕自身も以前はそう思っていた。

今僕が思うのは、1回買ってしまった不動産はそう簡単には変えることができないということだ。買った時には非常に気に入った環境だったとしても、何年かして自分の気持ちが変わってくるとそれはただの重荷でしかなくなってしまう事がある。だから僕は家というものは安易に買わずに、借りといた方がいいんじゃないのって思うようになった。

ヤドカリのように、その時の自分の身の丈や方向性に有った家を借りて住むのがいいのかもしれないね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?