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業績が改善しないのは、管理が不十分だから?

業績が低迷を始めると、多くの会社が、コスト削減に加え、管理の強化に取り組み始めます。

例えば、メーカーであれば調達部門の管理を強化し、原価の引き下げに取り組むでしょう。標準調達価格を引き下げたり、相見積もり必須とする商材の範囲や金額の閾値を変えたり、承認権限者のレイヤーを上げたり、購買プロセスを厳格化するための新たな仕組みやルールが導入されるはずです。

場合によっては、そのための承認ツールが導入されることもあるでしょう。

購買プロセスは煩雑化・長期化しますが、規律と抑止力が生まれ、一定のコスト削減効果が必ず生まれます。

労働時間を切り売りする受託会社であれば、カラ稼働を極小化するための管理体制が強化されるでしょう。顧客に請求できない労働時間は損失に直結するため、稼働管理を厳格化するルールやプロセス、KPIが導入され、個々人の時間の使い方が細かくチェックされるはずです。

こちらも、稼働管理のプロセスは煩雑化・長期化しますが、規律と抑止力が生まれ、一定の利益改善効果は必ず生まれます。

問題は、これらの施策は、必ずどこかでdiminishing marginal returns(収穫逓減)の壁にぶつかることです。

一定規模の売上がありながら利益が出ない、あるいは利益率が著しく低い会社であれば、前述のような管理の強化を通じたコスト削減策だけで、それなりの成果がすぐに上がります。「ずぶ濡れ雑巾」状態だからです。

自分が再生支援をした会社は、こちらの例がほとんどでした。

一方、すでに利益がそれなりに出ている会社の場合、調達プロセスや稼働管理についても一定の取り組みがなされている場合がほとんどでしょうから、新たな取り組みがもたらす限界的な利益は小さくなっていきます。すぐに効果が出るような施策はほとんど実施済みで、追加で取り組む施策については、労力の割に効果が出にくいものしか残っていないからです。

それでも、効果がない訳ではないので、業績が悪い場合や予算未達の場合は、たとえ効率が悪くとも、管理強化に取り組むのは一つの考えです。

ただし、そこで絶対に気をつけなければいけないのは、収穫逓減の法則を無視した非現実的な目標を立てないことです。

メーカーの例でいうと、例えば「金額の多寡や、部品の特殊性にかかわらず、100%相見積もりを取ること」などの目標です。自身の経験に照らすと、これは有害ですらあります。

なぜか。

(数字はあくまで例ですが)相見積もり率95%や98%までは頑張れば達成できたとしても、残りの5%、2%を上げるための努力が、全く割に合わないからです。そこから先は努力ではどうにもならない領域に入る可能性が高く、そこで無理をすると、より大きなものを失う可能性があるからです。

このメーカーの場合、「例外なく、全ての部品を相見積もりで調達すること」を至上命題化すると、非常に特殊で代替サプライヤーが存在しないような部品についても、相見積もりを取った体裁を整えることが要求されます。

購買担当者は、存在しない代替サプライヤーを探して多くの時間と労力を無駄にするか(「これはあそこのメーカーしか作れないニッチな商品だから、探しても無駄なんだけど・・・。どうせ実際に切り替える訳もないし・・・」)、時間を空費した後にどうしても見つからないと正直に具申するも「ルール違反である、例外は認めない」と叱責されプロセスがスタックするか、進退極まって証憑を改ざんするか(「相見積もりを取った体裁だけ書類上残しておこう、どうせ誰もチェックしないし」)、いずれかをせざるを得ません。

もし、対象となる部品の全体に占める金額的割合が小さいのであれば、ほとんど収益改善効果のない施策に多くの労力を割いていることになります。労多くして益少なし。疲労困憊した挙句、全体の業績改善にはつながらないという悲惨な状況に陥ります。

さらに悪いのは「金額の多寡や、部品の特殊性にかかわらず、100%相見積もりを取ること」を表面上達成するためなら多少の嘘やごまかしをしても構わない、むしろそれを器用にこなす担当者が評価される、という風潮を作ってしまう可能性があることです。

目標が非現実的なので、現場は、嘘やごまかしでそれに応えます。この悪影響は計り知れません。業績が改善しないのに、正直者は割を食い、シニカルな嘘つきが報われるイヤな会社になってしまうからです。

真面目な社員は、それだけで退職が頭をよぎるはずです。

そのような害悪を生まないためには、どうすべきか。

自分はこう考えます。

■ コスト削減や管理体制の強化は、限界収益(marginal return)と限界費用(marginal cost)のバランスを常に意識し、どこで折り合いをつけるべきかを考える

■例外処理の基準・要件を立て、例外を「完全撲滅」するのではなく「適切に管理」する。上記の例でいうと、「金額が小さく、他に納入者がいない部品は、これこれの申請をすれば相見積もり不要」というルールを作ればいいだけです

数字を一人歩きさせない。数値目標達成そのものを至上命題化しない(「相見積もり比率100%達成」ではなく、全体としてのコストを下げることが本来の目的であることを見失わない)

建前主義、形式主義に陥らない(書類が整っていればOK、集計数値が100%であれば詳細は目をつむる、誰か偉い人に怒られなければOKという思考停止に陥らない)

■そのために、社内の異論に耳を傾ける。プロセスや目標に無理があるのであれば、素直に問題を直視し、朝令暮改も厭わない(過ちを放置するよりよほどいい)

■異論に耳を傾ける反面、嘘やごまかしは絶対に容認しない(「できない」と言っていい環境なのだから、「できた」と嘘をついてはいけない)

■どこか他の場所で機能した方法が、別の場所にもそのまま適用できるかどうかは、慎重に見極める(業態が違えば、管理の要諦も当然異なる)

■無理を承知で命令するのであれば、どこでその命令を撤回するのか腹づもりを持っておく


業績が改善しないのは、ある程度までは管理レベルの問題ですが、そこから先は全く別の世界が広がります。

管理を強化し過ぎると、あるポイントから費用対効果が合わなくなり、やればやるほど収益が悪化します。管理徹底のための費用が、管理強化によって得られる利益を上回るポイントが存在するからです。

それを無視し、現場のリアリティと乖離した人工的な数値目標を立てると、現場は嘘をつくことで経営に対抗し、「書面が整っていれば、それでOK」という忌むべき形式主義が社内に跋扈し、コストをかけて業績を悪化させるだけでなく、社風すら破壊することになります。


もしあなたの会社が、業績改善のために管理体制を強化する、という方針を打ち出した時。

「業績が改善しないのは、管理が不十分だからなのでしょうか?」と問いかける健全な精神は失ってはダメですね。


#くじらキャピタル #デジタル時代のバイアウトファンド #管理しても成長しないよ #管理より顧客価値だって


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