企業の科学 1.Idea Verification

1-1 スタートアップにとっての良いアイデアとは

いかに課題にフォーカスするか
自分たちのビジネスアイデアが市場から求められているものなのか検証すること。アイデアとは切り口次第でいくらでも湧いて出てくるものだが、もっとも重要なことは課題の質にフォーカスすること。「課題の質」「ソリューションの質」共に高ければ市場に求められる。道筋としては、「課題の質を上げてから、ソルーションの質を上げる」。

課題の質を決める三つの要素
・高い専門性
・業界の知識
・市場環境の変化(PEST)に対する理解度
また、ターゲットとする課題が自分ごとであるかどうかによって課題の質は大きく変わる。
→その課題にストーリー(原体験)があるのか。
ビジョンやミッションはスタートアップの最大の競合優位性になる。

誰が聞いてもいいアイデアは避ける
言語化して人に伝えられるような課題をターゲットにした場合は、すでに課題が認識されており、妥当な代替案があることが多い。
今まで世界を変えてきたのは、一見着眼点が悪く、誰も手をつけたがらないアイデア。その課題を言語化して説明するフレームワークがまだ入手できていないために、人に伝えるのが困難。
既存商品の改善品は持続的イノベーションを得意とする大企業にまかせて、スタートアップは既存の事業を破壊するようなアイデアを持つべき。

他の誰もが知らない秘密を知っているか?
クレイジーなアイデアは他の人が目をかけないようなポイントに注目してアイデアを掘り下げ、まだ誰も言語化できない秘密を見つけることで生み出される。

クレイジーなアイデアが求められる理由
パラダイムシフトが高速化しており、プロダクトの旬の期間が短くなっているから。

ロイヤルティループの劇的変化
ロイヤリティループとは、製品を知った人がそれを気に入りユーザーとして定着して使い続けてくれるまでの流れを輪のような形で表したもの。

スタートアップが避けるべきアイデア
①誰が見てもいいアイデア
②ニッチすぎる
③自分が欲しいものではなく作れるものを作る
④根拠のない想像上の課題
⑤分析から生まれたアイデア
⑥激しい競争に切り込むアイデア
⑦一言では言い表せないアイデア

1-2 スタートアップのメタ原則を知る

スタートアップ(SU)とスモールビジネス(SB)の違い
①成長方法
SB:線型的な成長をして、そこそこのリターンを着実に得ていくモデル。
SU:Jカーブを描いて成長する。成功した時には巨額のリターンが得られる。
②市場環境
SB:すでに存在する市場がターゲット。
SU:市場が存在するかどうかが不確かで、その前段階に当たるアイデアの発見・仮説検証から始める。市場が不確かな為、参入のタイイングが大事で、ファウンダーはなぜ「今」参入するのか、明確に答えられなければならない。
③スケールに対する姿勢
SB:PMFを達成できている市場に事業展開するため、スケールよりも採算性を重きに置いた戦略。
SU:ネットワーク効果や規模の経済が働き、一気に市場を席巻して二次曲線的に成長する。
⑤対応可能市場
SB:ラーメン店・バイク便・など商圏が限られているビジネス。
SU:地理的制約がない。
⑥イノベーションの手法
SB:価値提案やソリューションの大部分がすでに完成されているため、重要なことは、いかに効率よく経営するかがポイント。
SU:競争優位性を高めるためにはディストリビューション、広告、値段や商品の品揃えなどがキーになる。

スタートアップにおける間違い
1. 詳細なビジネスプランを作る。
スタートアップにおいてはプロダクトのスプリト(継続的な改善)やピボットは日常的に起こり得るため、ピボットを前提としていない詳細なビジネスプランは不必要。
2. 正確なファイナンシャル・プロジェクションを用意する。
3. 精緻なレポートにこだわる。
4. まあまあ好かれるプロダクトを大勢の人向けに作る。
スタートアップに必要なプロダクトは「大勢の人に好かれるプロダクト」ではなく、「一部の人間に熱狂的に好かれるプロダクト」。
5. 詳細な仕様書をもとに開発する。
詳細な仕様書を作成するよりも、スプリントのサイクルをいかに早く回せるかが勝負。仕様書よりもいかにチーム一丸となって顧客と対話し、アイデア・プロダクトに磨きをかけられるか。
6. 最初に想定したビジネスモデルに執着する。
スプリント・ピボットすることが当たり前。
7. 競合を意識しすぎる。
8. 差別化を意識しすぎる。
スタートアップにとって差別化をすることは結果論であって、目的でなない。プロダクト作成にあたって、差別化を目指すのではなく、いかに高いUXを提供できるかをベースに考える。
9. Nice to Haveな機能を追加する。
PMFが達成されるかどうかは「あったら嬉しい機能」の多さで決まるのではなく、カスタマーの課題を解決できるMust Haveの機能が実装されているかどうかで決まる。
10. 最初からプロダクトデザインやユーザビリティの細部にこだわる。
11. 最初からシステムの自動化・最適化を行う。
12. ビジネスモデルが出来上がる前に積極的に人を雇う。
特に注意したいのが、特定のスキルに秀でた人材を早くに雇うこと。特定分野の専門家はソリューションそのものに直結する。その人材を活用するために開発したプロダクトは課題ドリブンではなく、ソリューションドリブンになりかねない。
13. 直接関係のないイベントや飲み会に参加する。
14. 経歴が立派な営業責任者や事業開発者を雇う。
15. ビジネスモデルの検証が終わる前にパートナーシップや独占契約を結ぶ。
16. セールスよりもマーケティングやPRにフォーカスする。
ここでいうセールスとはカスタマーにプロダクトを売り込むことではなく、カスタマーと直接対話をしてネガティブなものを含めフィードバックをどんどんもらい、プロダクトを磨きこむ事。
17. 仕事の役割を明確に設ける。
初期メンバーは仕事の得意・不得意に関わらず全ての業務に携わるべき。
18. NDA(機密保持契約)を交わす。
理由①:投資家とスタートアップの世界は紹介文化だから。NDAを交わした瞬間に他の投資家に話が流れなくなる。
理由②:アイデア自体に価値は無いから。アイデアはただの原石で、そのあとのプロダクト開発やカスタマーインサイトを取り入れたプロダクトの磨き込みの方がはるかに重要。
19. 受託開発や業務委託を必要以上にうける。
ノン・リカーリング・レベニュー(本業以外の売り上げ)を確保するための程度であれば必要だが、必要以上に受けて本業をおろそかにしてはいけない。
20. 業界の専門家からのアドバイスに頼る。
21. VCに積極的にアプローチする。
事業がスケールできる蓋然性が高くなった時に調達を始めた方が交渉を圧倒的にやり易い。

Unlearnすべきゲームのルール
1. 100点満点の回答用紙に正しい答えを埋めようとするゲームを忘れる。
いかにミスをしないかではなく、いかにユニークな回答をできるかが問われる。
2. 上司にうまく報告するゲームを忘れる。
3. 多くの人から好かれようとするゲームを忘れる。
自分を良く見せることや承認欲求は捨てる。
4. 少しずつ改善するゲームを忘れる。
限りある時間と資産のもとで結果を出すためには、少しずつ改善するのではなく、一気にピボットしたほうが良いケースが多い。 
5. 多数の競争相手の中で一番になるゲームを忘れる。
6. 予算消化のゲームを忘れる。
7. 最初から広い市場を狙うゲームを忘れる。
スタートアップはまず小さな市場を独占する方法が定石。
8. うまくいかなかったことを誰かのせいにするゲームを忘れる。

1-3 アイデアの蓋然性を検証する

スタートアップはタイミングが命
スタートアップが成功するために必要なことは、アイデア、プロダクト、チーム、エグゼキューション、タイミング。
硬直化した市場を探し出し、風穴をあけて「市場を再定義するプロダクトを提供しなければならない。
今この瞬間ではなく、5年10年後の先を見据え「今後、需要に対して供給が圧倒的に足りなくなるのはどこか?」「次のパラダイムシフトはどうなるのか?」を考える必要がある。

PEST分析で兆しを見つける
マクロ環境を多角的に把握するためのフレームワーク。
1. Politics(政治):規制産業ほどチャンスは大きい。
規制緩和の情報を早い段階で想定しておき、それが起きる前に課題とソリューションの検証を終え、PMFを達成できるところまで準備しておく。
2. Economy(経済):経済の変化にもチャンス。
3. Society(社会):社会環境の動向から読み解く。
例えば人口動態のトレンドを考えた時、需要に対して供給が少なくなる領域はどこかと考えることは有効。(例:介護人材)
4. Technology(技術):テクノロジーの変化にも注目
政治経済社会はブレグジットやトランプ大統領当選などをみるとわかるように、全時代のようなパラダイム(反グローバリズムやナショナリズム)に戻ることがあるので予想が難しい。一方、技術の進化は不可逆的で10年前に戻るということはありえない。

未知の未知(unknown of unknown)を考える
known of known:過去に起きたこと。
known of unknown:今後起こりうることは確実だが、勝者は誰かはわからない。
unknown of unknown:何がプラットフォームになっているのかわからないし、その時のキープレーヤーもわかっていない。

破壊的イノベーションと継続的イノベーション
アイデアを検証する際にも「大企業ができそうもないことをやっているのか?」を考え、いわゆる大企業が抱える「イノベーションのジレンマ」を突く。
大企業は組織を最適化しているがために、破壊的なイノベーションを生み出すことができない。オペレーションは効率化され利益率は上がるが、その結果もたらされる負の側面は、組織の分断と組織の硬直化。縦割りになった瞬間、自分たちの過去の実績を否定することができなくなる。

スタートアップの10のフレームワーク
1. 中間プロセスの排除
中間マージンをえているプレーヤーを飛ばして、ビジネスを再構築するアイデアのこと。
2. バンドルを解いて最適化 
あらゆるものが一つにまとめられているものを、一度ばらばらにして、価値提案を明確にして提案するアイデアのことを「アンバンドル」という。
3. ばらばらな情報の集約
あらゆる場所にフラグメント化(断片化)している情報や機能を、一つの場所に集約することで価値を提案するアイデア。
4. 休眠資産の活用
使われていないリソースを活用し売り上げを発生させる。
5. 戦略的自由度
既存の枠からあえて外れることで、今までにない価値提案が可能になるアイデアのこと。いわゆるブルーオーシャン。
6. 新しいコンビネーション
ビジネスアイデアの鉄板でもあるが、全く違う領域で活用されていたサービスを組み合わせて価値を提供する。
7. タイムマシン
別の市場ですでに検証済みのモデルやプロダクトを、他の市場に持ち込むアイデア。
8. アービトラージ
需要に対して供給が不足している市場に、供給過多になっている市場からリソースを持ってくるアイデア。
9. ローエンド型破壊
既存製品の性能が過剰に高まり、多くの顧客が求める水準を超えてしまっている状況で、過剰な部分を削ぎ落とし安価な製品を供給するアイデアのこと。
10. As a service化
プロダクトを売り切るという発想から脱して、As a service化、サブスクリプション化するアイデア。

ターゲットの市場に狙いを定める
対応可能市場(TAM)=エンドユーザー数×その人がそのプロダクトやサービスに年間支払う額
TAMは100億円以上が望ましいが、大きな市場の1%を取っていくというのは起業家が犯してしまう、典型的なミス。
「小さくてもいいから市場を独占せよ。競争は負け犬がやること。」
大事なのは、機能の数ではなくユーザーがそのサービスを熱狂的に使ってくれるかどうか。

1-4 Plan A(最前の仮説)を作成する

リーンキャンバスの書き方
リーンキャンバスのメリット
スタートアップのビジネスモデルをビジュアル化するツール。この段階でのアイデアはただの叩き台でしかないから、今後確実に変わっていくアイデアを綺麗にまとまる必要はない。事業計画に2ヶ月間の時間を費すなら、10分でかけるリーンキャンバスを何百回も書き込む方がはるかに効果的。リーンキャンバスはその時点での最善の仮説であるがゆえに、継続的に見直さなければならない。

重要なのは課題と顧客
①課題(課題仮説)
②顧客セグメント

顧客は誰かを特定する。コツはアーリーアダプターを狙えているかどうか。「50代女性」といったざっくりとしたものではなく、より具体的で臨場感のあるペルソナ像を考える。
③独自の価値提案
「課題」と「顧客セグメント」では課題検証を進める中で磨きこまれていく。大事なのは目の前に顕在化している課題を整理する中で潜在課題を発見し、言語化していくというスタンスで臨むべき。
④ソリューション
⑤チャネル
⑥収益の流れ
⑦コスト構造
⑧主要指標
AARRR指標(Acquisition, Activation, Retention, Referral, Revenue)
⑨圧倒的な優位性

2サイドビジネスはプレーヤーを分ける
サプライサイドとデマンドサイドのカスタマーがいるビジネスをツーサイデッド・マーケットという。リーンキャンバスを作るときは「サービス提供者」と「サービス利用者」と「共通」の三つで付箋を使い分けると論点を整理しやすい。


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