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“すべての人・企業・国は成長すべき”を信じきっていた僕が『成長の限界』を読んでひっくり返った話

「数十年に一度の重大な災害が予想されます」

そんな事態が毎年、いや毎月のように繰り返され、鈍感にすらなり始めています。異常事態が通常モードになっている、これってなにかおかしくない?一瞬頭をよぎるも、立ち止まって調べたり深く考えたりするほど余裕はない。

今回のnoteは、そんなごく普通の人に向けて書いています。

今、何が起こっているのか?

ひと言でいえば「気候変動」です。

「大気中の温室効果ガスの増加によって、地球全体の気温が上昇している」
「このままでは極端な異常気象や海面上昇などの不可逆的な影響が生じる」
「日本の年平均気温は、今後全国的に2.5~3.5℃上昇する」

何百回何千回と聞いたことのあるフレーズですが、恥ずかしながら、私はこれを”意識”したことがありませんでした。

世界のどこかで実際に起こっていることだけど、私には関係のないこと。ましてや、私自身がこの問題を引き起こしている当事者のひとりであることなど考えたこともありません。

そんな私の認識を根底から揺さぶった本が『成長の限界』シリーズです。

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これらの本を読んで私が至った結論は、

私が持っている、足りない何かを埋めたい「渇望感」と、それを原動力とした強力な「成長欲求」が、気候変動につながっている。

ということです。これから5000字を使って説明してみます。

「成長はすべて、良いことである」は本当?

「我が国は経済成長率 X%を目指します」
「当社の今期の売上成長率はY%を達成しました」
「わたしは貪欲に成長を求めて、何事にもチャレンジします」

世の中は“成長”にあふれています。成長したくない、という人がいたら、意識の低い(だめな)人だと思ってしまう方も少なくないと思います。

なぜ、私たちにとって成長はこれほどまで重要なのでしょうか?

それは「成長は、社会を豊かにして、人々を(自分を)幸せにするから」だと誰もが信じているからです。

それ、本当にそうなの?というのが『成長の限界』が投げかける本質的な問いのひとつです。

成長

50年前からわかっていること

成長の限界とは、ローマクラブが資源と地球の有限性に着目し、マサチューセッツ工科大学のデニス・メドウズを主査とする国際チームに委託して、システムダイナミクスの手法を使用してとりまとめた研究で、1972年に発表された。
[出典] Wikipedia

メドウズ氏らは、今から50年近く前に、人口の幾何学級数的な増加に伴って生じる地球上の様々な問題(食糧不足、資源不足、汚染・環境悪化など)によって、人類は制御不能な危機に陥る可能性があると警告しました。

1972年といえば、日本をはじめとする先進国はみな高度経済成長の真っ只中でした。そんな上り調子の中、このまま経済成長を続けたら人類は危機に陥ると警告したので、賛否両面の大きな反響があったようです。ただ、この翌年、第一次オイルショックが起こり、『成長の限界』の予測は世界の人々に現実感をもった警鐘となったそうです。

その後、1992年に改訂版『限界を超えて』、2004年に30年後の改訂版『成長の限界 30年後』、そして40年目の2012年に『2052』が発表されています。

著者らはシリーズを通じて一貫して「このまま成長していけば、限界を行きすぎて崩壊する可能性がある」という点を、膨大な定量データとコンピューターモデルを用いて警告しつづけてきました。

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成長の限界とはなにか?

今から当たり前のことを述べます。当たり前すぎて、多くの人は意識したことがないことです。私もこの本を読むまで一度も考えたことはありませんでした。

地球

私たちは、地球から資源の供給を受けて、あらゆるものを生産し、消費し、廃棄したものを地球に戻しています。そして、地球による資源の供給も、廃棄の吸収も、物理的な限界が存在します。

これによって、地球に住む私たちは、無限に成長し続けることはできません。これが私たち人類の、成長の限界です。

・・・?

あまりに壮大なこと過ぎて、実感がわかないと思うので、身近な例を用いて説明します。

そこらじゅうに存在する成長の限界

よく用いられる例は、トレーニングジムの成長の限界です。

トレーニングジムビジネスは、会員数が増えるにつれて売上が増え、損益分岐点を超えると利益が生まれます。この利益を、さらなる会員獲得を目指して広告やキャンペーンに使うと、さらに会員数が増え、さらに利益を生むという良い循環が生まれます。ウハウハです。

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しかしながら、次第に会員数の増加が頭打ちになります。なぜでしょう?

会員数が増えれば利用者数が増え、例えば、トレーニング機器の待ち時間が増えたり、更衣室が荒れたり、密になったりします。総じて顧客満足度が下がった結果、退会者数が増えてしまいます。

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ジム側も、機器を追加したり、清掃をこまめにしたり、空いている時間帯を割引したり、顧客満足度を上げる努力をしますが、いずれ限界を迎えます。

また別の側面では、ある狭いエリアでジム通いしうるひと(潜在的な会員数)は限られており、極端にいうと、全員会員になってしまえばそれ以上の成長は見込めません。

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なぜ、成長の限界が生じるのでしょうか?

それは、ジムの物理的な空間や設備、エリア住人の数などが「有限」であるためです。この「有限な何かによって成長が止まる」現象は、店舗などを持つリアルビジネスだけでなく、物理的制約の少ないインターネットサービスを含むあらゆるビジネスで見られる現象です。

成長の限界を意識せずに成長を追い求め続けた結果、行き過ぎてしまい、逆にビジネス自体が崩壊する例は枚挙にいとまがありません。
※以下は、個人的見解に基づく事例紹介です。

人類の成長の限界

この現象をよりひろーーーーーい視野で捉えると、私たち人類の成長の限界に至ります。繰り返しますが、地球が供給してくれる資源(土壌、水、生物、石油など)の供給と、廃棄の吸収(森林による二酸化炭素の吸収など)には物理的な限界があります。

人類にとっての有限なものとは「地球」です。

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2019年時点で、人類は地球1.75個分を使って生活しています。人類の生活は既に行き過ぎています。*1
*1:エコロジカル・フットプリントという概念に基づきます。詳しくは花王のサイトがわかりやすいです。

行き過ぎているけど、今こうして何事もないかのように過ごせているのは、地球という巨大なシステムが定常状態を維持しようとバランス機能を働かせているからです。*2
*2:システムという概念を理解するには「世界はシステムで動いている」がおすすめです。

システムのバランス機能によって急激な変化は抑えられますが、ゆっくりと確実に影響はあらわれます。現在の常態化しつつある異常気象はその一例です。そして、さらに行き過ぎて臨界点を超えると、突如バランスを崩して崩壊に向かう挙動を示します。地球はいつ臨界点を越えてもおかしくない、と訴える研究者もいます*3。
*3:Timothy M. Lenton et, al. Nature. (2019)

このnoteを読んでいるほとんどの人は、途上国が経済成長し、途上国に住む人々の生活水準が上がっていくことに否定的な意見を持つ人は少ないと思います。仮に私たち先進国の現在の生活水準で世界中に住むすべての人々が生活するとしたら地球2.8個分が必要です。

地球は、世界中に住むすべての人々を養うことはできません。

何かおかしいですよね?

テクノロジーと市場は限界を越えられるか?

私は起業家です。起業家(とりわけスタートアップ業界の起業家)の多くは、世の中の課題を発見して、テクノロジーによって圧倒的に生産性の高いソリューションを開発して、自由な市場で流通させることで、莫大な利益を生むビジネスをつくることを目指します。

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もし地球に課題があるならば、起業家たちは、環境に負荷をかけない技術を開発したり、食糧の生産効率を飛躍的に高める農業技術を開発したり、その技術開発に投資が回るように市場をもっと自由にしたり、、、地球の課題をテクノロジーと市場で解決して限界を越えていこうとします。

これに対して、メドウズ氏らは『成長の限界 人類の選択』で次の点を指摘します。(要点を意訳しています)

(1) 限界を越えれば超えるほど、非線形的なコスト(時間・金)がかかる。
例えば、汚染物質の除去は、100%除去に近づくにつれてコストは急増する。テストで70点を取るのは簡単だが、100点を取るのは相当の努力が必要なのと同じ。いずれ社会はそのコストを払えなくなる。

(2) テクノロジーと市場は、不完全な情報によって誤ったレバーを引きかねない。
テクノロジーが的確に課題を解決するには、正しい情報を、すぐに、適切な人が把握できる必要がある。しかしながら、現実の世界では政治的・経済的・技術的問題や人の思い込み、固定概念などによって、情報の歪みや遅れが生じる。これによって、対処が遅れすぎたり、誤ったレバーを引いて事態を悪化させる。オイルショックやバブルはその典型である。

(3) 目標を誤ったテクノロジーと市場の活用は、社会全体の崩壊を招きかねない。
社会全体が長期的な利益の最大化を願って、環境負荷を軽減したり、貧富の差を和らげたりすることを目標にすれば、より良い社会に向かうだろう。逆に、短期的な利益に目を奪われ、自然を搾取したり、一部のエリートを豊かにすることを目標にすれば、崩壊を早めてしまうだろう。

より良い社会のためにテクノロジーと市場は必要不可欠だが、この2つだけで万事解決するわけではない。テクノロジーと市場は必要条件であって十分条件ではない。と、メドウズ氏らは伝えています。

これらの指摘を無視して、テクノロジーと市場に頼って、これからも成長を追い求めるのでしょうか?さらに、地球だけでは満たされずに、宇宙をも開発するのでしょうか?これは本当に幸せに近づくことなのでしょうか?私はYesとは答えられません。

「足る」を知る

”世界でいちばん貧しい大統領“元ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカ氏は、このような現代社会を痛烈に批判し、人類にとっての幸せとは何かを問います。

「我々の前に立つ巨大な危機問題は環境危機ではありません。政治的な危機問題なのです。現代に至っては、人類が作ったこの大きな勢力をコントロールしきれていません。逆に、人類がこの消費社会にコントロールされているのです。

私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球へやってきたのです。
(中略)
消費が止まれば経済が麻痺し、経済が麻痺すれば不況のお化けがみんなの前に現れるのです。このハイパー消費を続けるためには、商品の寿命を縮め、できるだけ多く売らなければなりません。ということは、10万時間も持つ電球を作れるのに、1000時間しか持たない電球しか売ってはいけない社会にいるのです!

そんな長く持つ電球はマーケットに良くないので、作ってはいけないのです。人がもっと働くため、もっと売るために「使い捨ての社会」を続けなければならないのです。悪循環の中にいることに、お気づきでしょうか。」

[出典] “世界一貧しい大統領”ムヒカ氏が語った、「本当の貧しさ」とは?

私たちは、常に何かが足りないと感じて、それを埋めるために努力します。もっと成長して、もっと価値を出して、もっと多くのものを手に入れたい。人から承認されたい。そうすればもっと幸せになれるはず。そう思っています。

成長を求める人を駆り立てるのは、満たされることのない「渇望感」です。

貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ。(ホセ・ムヒカ氏)

私は先進国に住む日本人で、不自由なく勉強し、就職し、食べるのに困らない生活ができています。このnoteを読んでいる方の多く方も同じだと思います。私たちは本当に足りていないのでしょうか?

成長よりも発展を目指したい

「成長する」とは、物質を吸収し蓄積して規模が増すことを意味し、「発展する」とは、広がる、もしくは何かの潜在的な可能性を実現すること、つまり、より完全で、より大きく、より良い状態をもたらすことを意味する。

何かが成長する時には、量的に大きくなり、発展する時には、質的に良くなるか、少なくとも質的に変化する。

量的な成長と、質的な改善は、まったく異なる法則に従っている。この地球も長いあいだ成長することなく発展している。したがって、この有限で成長しない地球のサブシステムであるわれわれの経済も、同じような発展パターンを採用するべきである。
[出典] ヨルダン・ランダース著『2052』

コンサルからITベンチャー、そして起業に至った私は、常に“足りていない何か”を埋めるために、量的な意味での「成長」を目指していました。また成長の証としての「経済的成功」を目指していました。このnoteを書いている今も、その気持ちは存在しています。

その一方で、すでに“足りている”ことにも気付いています。果てることのない成長を求めるのではなく、質的な意味で、より良く生きていこう、より良い社会にしていこう、と考えはじめています。

じゃあどうする?はまだ決めていませんが、これまでよりも健康的な生き方になりそうな気がしています。

まとめ

このnoteでは次のことを書いてきました。

①異常気象の常態化の背景には「気候変動」がある。
②気候変動は、地球の「物理的限界」を越えてもなお、人類が成長を求めてアクセルを踏み続けていることが原因。
③50年前から警告され続けているが、十分なブレーキをかけることができていない。
④成長欲求の根っこには私たち一人ひとりの抱えている「渇望感」があるかもしれない。
⑤既に“足りている”ことに気付き、量的な成長ではなく、質的な「発展」を目指していきたい。

気候変動という大きなテーマを前にすると、私たち一人ひとりの存在は本当にちっぽけだと感じます。でも、一人ひとりのあり方が、社会をつくり、世界に、地球に影響していることもまた事実です。

このnoteが、誰かの何かの気付きになって、あり方を見つめるきっかけにつながれば嬉しいです。

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