人生を少しだけ豊かにするかも知れない珍事その ①

今年は本当に不思議なことばかり起きる。
コロナウィルスの事を横に置いても個人的に身の回りで起きる珍妙な出来事は、ここに記すに値するものだと思う。

今年の1月後半に1週間ほどの旅からもどり0時を待たずに床についた。
けたたましい叫び声のようなものに飛び起きたのは午前2時ごろ、
うちの寝室と浴室は地下にあり、その一部が事実上屋外で吹き抜けのドライエリアになっている。地上階から誰かが侵入することも不可能でないが、並外れた身体能力が必要かと思われる。
声の主は二匹のハクビシンだった。
親子なのか、小さいのと大きいの。
小さい方は怪我をしてて、大きいほうが何故か更に攻撃している。
こちらもパニックだけど、とにかく物音を立てて大きい方を小さい方に近づけないようにした。
地上階ならまだしも2メートル以上もある壁を彼らが自力で登って住処へ戻っていくとは到底思えず動向を見守りつつ警察、役所、動物病院、害獣駆除業者などに対処方法を求め電話した。

しかし、一軒たりとてこの珍しい動物を殺処分ではなく保護する方法を提案してくれなかった。法律がどうとか正直僕にはどうでもいいことばかり並べられて何も要領を得ない。
1時間後、やっと二人のお巡りさんが来てくれるも彼らとて何ができるわけでもなく、僕と、パートナーと彼らの4人でこの二匹の珍獣が傷つけ合うのを妨害するのが精一杯だった。数時間この状態が続いたあと、パートナーが思い立ってありったけのバスタオルを用意して結び、地上階から垂らした。
これに上手くつたって表に逃げてくれればいい。格闘すること数十分、なんと大きいほうが何十回の挑戦ののち、地上までタオルをつたって上り無事逃げていってくれたのだ。だが問題はのこされた怪我をした小さな方。
寒さをしのぐため先程のタオルを全て落として、チビビシン(こう呼ぶことにした)に託した。出血してる小動物を見るのは本当に心が痛む。
水やバナナ(ウェブで調べた)をそっとさしだし、置いた。うちの二匹の猫も心配そうに見ている。
見守るしか出来ない歯がゆい時間が続き、その間も片っ端から対処を尋ね電話した。果ては動物園まで電話するも全て自動応答(そりゃそうだ、朝の4時)まったく不眠のまま翌日午前中いっぱいを使い切って探し当てたのは西日本を拠点にしている動物保護NPO、代表の方と電話で話して、関東支部から保護の手配が出来ると。動物医療も手掛けていて今回のこの小さなハクビシンに必要な要素が全て揃っていた。
正直、耳を疑うような費用金額を電話口で聞かされ数秒の躊躇はしたけど、もはや選択肢は残っていなかった。
午後3時ごろ一台のバンが到着し、女性のスタッフがカゴとゴム手袋とバナナをもって参上。20分もかからず負傷したチビビシンを保護。
保護された間近でみるチビビシンはこころなしか多少回復してるように見えた。そしてその姿はとても可愛らしい。
保護団体は治療後山梨近隣で保護することを約束してくれた。

これにて一件落着。早速現場の洗浄を業者に依頼した。
さて、ここからが本題、こういうことは過ぎてしまえば素敵なことだけど、できればもう経験しなくていい。一番の課題はどうやって再発させないかだ。
まずはおそらく根本の原因になってるであろうお隣さんが野良猫に与えているドライフードだ。意を決してお願いに行くも、けんもほろろ。
「うちの自由ですから、おたくがよくなさってるリフォームでもってハクビシンが落ちないように柵でもお作りになれば?」と来た。
なんとなく想像もついていたので、可能な限り自分をなだめて家にもどり
区役所の近隣への苦情係.....いやいや家庭用の柵についてググりだした。
馴染みの施工業者に伝えて早速発注を完了した。

そして工事の前日スタジオから帰宅して玄関に入りドライエリアへの侵入口を見て目を疑った。チビビシンが鎮座しているのだ。
姿かたちサイズまでそのままそっくりで、しかし怪我はなし、
パートナーと二人しばらく言葉を失った。十数分は経っただろうか、ともかくなにも出来ず見守っていたのだが、急にすくっと動き出し、うちの敷地を後にした。

ぼくらが信じた団体が実はこの近隣で野放しにした、とは全く思っていない。ならば、何十キロも離れた距離をどんな方法でやってきたのか?
それもどうでもいい。実はまた別の小さいハクビシンが単独でやって来た可能性も最早どうでもいい。
僕らにとって大事なのはどんな形であれ「チビビシン」がお礼にやって来てくれたことだ。

追伸
日本のこういう事柄に対する法律や行政の姿勢は信じがたいものがある。
多くは記さないが、ハクビシンは外来種ということで保護の対象にならない。これがたぬきなら話が急に変わるらしい。
なんか別の二足歩行の動物にも当てはまるようなお話じゃないですか?


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