安馬が走るメカニズム - 生産・環境編 -

最後に、生産・環境編。

「原価を抑えて、能力のある仔馬を安く生産したい。」

これはなかなかに難しい命題です。

血統編でも述べましたが、安価に導入可能な平凡という他ない繁殖牝馬からは、単純に良駒が産まれてきにくいのです。セールであれば、多頭数の中から選べばいいだけですので、多くの凡庸な血統背景をもつ平凡な馬は選別の過程で切っていけばいいだけですが、生産ではそうもいきません。

産まれてきた仔馬を見て、「こりゃダメだ」となっても、まさか殺すわけにもいきませんから。「産まれてきたものは仕方がない」、これがどうしようもない現実となります。

生産で難しいのは、才能のある仔馬を生産する事ではありません。問題となるのは、どうしても産まれてきてしまう凡庸な仔馬、自分で競馬に使うとあまり賞金を稼げず大赤字になってしまうような馬をどうやって仔馬の段階でお金に変えるかなのです。

オーナーブリーダーにせよ、仔馬を売って生計を建てている専業の牧場にせよ、これは基本的な構造的問題であり、避ける事はできません。

販売側には販売側の事情があり、購買側にも購買側の事情がある。そこは淡々と冷静に処理していく他ありません。生産した側も、買った側も自己責任なのですから。

話が少しそれました。実際の生産現場では色々とケースバイケースではありますが、

「安く走る馬を生産したいと願うのは自由だし、その実行も自由だが、それで成功できるほどには競馬はあまくない。」

これが結論でしょうか。

特にここ最近の競馬は、社台グループを中心として、血統のレベルが異常にあがってきていますので、マグレ当たりを期待したところで、大きなファールがせいぜいで、スタンドまで持っていくのは厳しいと言わざるをえないと思います。

環境面においても同様で、凡馬を引き受けてくれる中央の調教師は少しづつ減っていくでしょう。社台グループによる生産馬が年々増えていますし、調教師としても彼らが生産した良血馬を扱った方が成績も獲得賞金もあがるという現実があります。

ただ、自家生産唯一のメリットは「GIレース制覇」という夢を見ることができるという事でしょうか。

このクラスの仔馬となると、既に当歳の段階で異才をはなっている事も多く、そんな馬はそもそも売りにだされません。「その馬の最初のオーナーになれる」という一面は、無視できない利点を含みます。

何事もバランスが大事なのは言うまでもなく、ケースバイケースでオペレーションを変えていく他ないのが現実ではありますが、全体の生産環境、競馬の環境そのものは、決して安馬にやさしい環境ではないとは言えるでしょうね。

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