ANSI/RIA R15.08 産業用AMR 安全規格リリース
昨今自律移動ロボット (AMR: Autonomous Mobile Robot) が話題に上ることが多くなってきました。無人の清掃ロボットや新型コロナウイルスを消毒するために施設内を障害物を避けながら無人で自律走行するものも AMRの部類に入ります。賢く便利な AMRですが、今まで AMRに関する安全基準は存在せず、人が操作する移動機の安全基準を応用したり、決まったルートを走行する自動ガイドロボット (AGV: Automatic Guided Vehicle) の安全基準を拡大解釈するなど、あいまいな点が多く AMRのメーカーは現場への導入に苦労してきました。AMR は走行ルートをその場の状況に応じて自在に走行しますが、AGVは予め決められた軌道やルートを移動するため、軌道上に障害物があれば停止して障害物がなくなるのを待たなくれはなりません。それに対し AMRは障害物を識別し回避ルートをその場で判断し、障害物を避けて移動します。レールに沿って走るゴーカートはコース外に飛び出すことはほとんどありませんが、サーキットを走るレーシングカーはスピンしたりコース外に飛び出すこともあります。この違いが安全基準上では大きな問題となります。AGVの場合は予め軌道が決まっているため、移動中の安全評価は事前に行うことができます。それに対し臨機応変に移動する AMRの場合の安全評価は AGVとは全く異なる評価基準が必要となります。
すでに多くの産業においてロボットは活用されており、米国国家規格協会(ANSI) や米国ロボット工業会(RIA) などを中心に R15.06や R15.606、B56.5など産業用ロボットの安全基準が策定されてきました。そして今年 2020年11月末、産業用アーム(R15.06) や AGV(B56.5) 以降の AMRとのギャップを埋めることを目的に国際標準化機構(ISO) に先駆けて産業用自律移動ロボット (IMR: Industrial Mobile Robot) の安全基準として ANSI/RIA R15.08 Part 1 (R15.08-1) がリリースされました。R15.08 は Part 1 から Part 3 までの 3部構成の予定ですが、今回リリースされた Part 1は IMR本体とアタッチメントを対象としており、IMRのメーカー向け要求事項となっています。Part 2 はサイトやファシリティなどの環境及び特定のアプリーケーションをカバーしており、インテグレーター向け要求事項と位置付けられています。Part 3 はエンドユーザー(利用者) 向けのガイドラインという位置付けで、Part 2がリリースされた後に標準化作業に入るそうです。
R15.08 は工場や倉庫など屋内・屋外を問わず特定環境内での動作を前提としているほか、教育された作業員が操作することも前提としています。また車輪や足など移動形態も特定していないため、Boston Dynamics社の Spot なども対象となります。逆に既に規格化されている AGVや産業用トラック、フォークリフトなどは R15.08 の対象外となります。
R15.08 の大きな特徴は AMRを 3つのタイプに定義している点です。タイプA は AMR本体、タイプB はタイプA に棚やトレイなど静的アタッチメントが搭載されたもの、タイプC はタイプA にロボットアープなどの動的アタッチメントが搭載されたものと定義しています。ちなみにロボットアームでも電源が入っておらず起動状態でなければ静的アタッチメントとして扱われます。安全基準上この扱いの違いは大きいです。
自律移動するロボットの標準化が大きく前進しましたが、R15.08 は必ずしも協働ロボットを前提としていないため、人と作業分担するような業務においてまだ課題が残っていると感じています。しかし標準化とは常に進化するものだと思いますので、今後の進化に期待。(2020/12/18記)
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