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パンデミックが浮き彫りにした米国のデジタル デバイド

 日本にいるとインターネット環境にとても恵まれていることに気付きにくいと思いますが、米国を含め世界的にはインターネット環境がない地域は多くあります。米国ではブロードバンド環境をダウンリンク 25Mbps以上、アップリンク 3Mbps以上と定義していますが、米Microsoftの独自調査によると実に米国人口の 4割に相当する 1億人以上の米国市民がブロードバンド環境を得られていないそうです。

 ベイエリアのカリフォルニア大学が合同で各種社会課題の課題に取り組む活動 CITRIS (Center for Information Technology Research in the Interest of Society) を進めていますが、先日デジタル デバイドを表す「Digital Redlining」をテーマにした講演が、サンフランシスコの CNETの Managing Editor である Shara Tibken氏を迎えて行われました。CITRISの活動はカリフォルニア大学のベイエリアを中心とした Berkeley校、David校、Merced校、Santa Cruz校で構成され、各キャンパスの教授や研究者、学生が活動に参加し、様々な社会課題に対する知見を広げる取り組みです。定期的に講演が行われ幅広い分野からテーマが取り上げられていて、毎回考えさせられると同時に刺激をいただいています。

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 今回の講演ではインターネット格差が所得層に比例していることについて取り上げています。昨年、児童が学校の宿題をするのに自宅のインターネット環境が乏しいため近所のファーストフード店の軒先でフリーWiFiを利用している写真がネット上でバイラル化しインターネット格差が注目されましたが、米国では所得者層とインターネット格差の地域が比例しており、金融機関が古くから融資先を評価するための所得層別に分類された地図「Redlining」がみごとなまでにインターネット格差を表す地図とマッチしています。さらに問題が深刻なのは、低所得者層は学歴が高くない黒人やメキシコ人などの比率が高く、人種差別の根源でもあります。
今回の講演では、サンフランシスコの CNETの編集者である Shara Tibken氏が長年追い続けてきている米国のインターネット格差の現状について紹介し、ビジネスとしてインターネット サービスが提供されている以上格差はなくらない現状を指摘しています。

 インターネット サービス プロバイダー (ISP) は事業としてサービスを提供しており、利益を得られない地域にはサービスを提供しません。さらに状況を悪化させているのは、電話回線を利用した DSLサービスは既設の電話網を活用するため、光ファイバーのように新たに網を設置するコストがかからず、米国では低所得者地域に今でも DSLサービスが提供されています。DSLサービスは条件がよければ数十Mbpsの転送速度が得られますが、局から離れれば離れるほど通信速度が落ちるため、ブロードバンドと言える転送速度を安定して得ることは非常に困難です。米国における DSLサービスはおよそ $35/月に対し光ファイバーでのサービスは $45/月前後で DSLサービスとそれほど金額的な違いはなく、ISP各社は DSLサービスで大きな利益を得ているために一向に DSLサービスがなくならないのだそうです。

 ISP各社からの報告を基に FCC (米国連邦通信委員会) がまとめている資料では、ブロードバンド サービスを受けられない米国民は 1,400万人強ですが、マイクロソフトが独自に各地域のスループットを調査したところ、一桁多い 1億2千万人以上がブロードバンド サービスを受けられない状況だそうです。米国政府は全国民がブロードバンド サービスを利用できるように予算を組みましたが、その資金をどう使うかは ISPまかせであり、この米国政府の取り組みではインターネット格差はなくならないと Tibken氏は指摘します。

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 今回の Shara Tibken氏の「Digital Redlining」の講演に興味のある方は、1時間の講演及び Q&Aがこちらの YouTube「CITRIS Research Exchange - Shara Tibken on Digital Redlining」(1分20秒辺りから講演が始まります) で見ることができますので是非参照してみてください。


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